73 カルトゥールの生き残り
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「……直系の血を守る為……?」
ローズはその言葉に引っ掛かりを覚えた。
約200年前、おそらくこのコンラートの祖先であろうマイラの叔父と伯母の一族は、彼らにとっては甥にあたる正統なカルトゥール家の後継ぎであったマイラの幼い弟を、もうすぐ王国の兵が攻めてくると分かっている屋敷に1人残して一族の財宝を持って出て行った。
その件をこの子孫であろう黒ローブの男に言っても仕方ないのかも知れないが、完全に自分達に都合の良い伝承を残されているのはスッキリしない。
「貴方は私達が『何故か生き残った』と言ったけれど……。私達の祖先は幼い時にあの戦争に巻き込まれ当主である両親を失った。そんな中、貴方の一族はもうすぐ王国の兵が攻めてくるという時にまだ幼い私達の祖先を屋敷に残し、カルトゥール家の宝物を奪って国から逃げたのよ。
……ああ、死ぬはずと思って放置した子供が生き残り子孫が残っているのが『何故か』という事かしら?」
あの当時を思い出し、ローズはつい辛辣な口調になってしまった。
すると意外にもコンラートは驚いた顔をした。
「そんな……、そんなはずはない! 我らの祖先は行方不明になった当主の子供を必死に探したのだ! 見つからず、仕方なく代々伝わる宝物を敵に渡さぬ為に持ち国外に避難したと聞いている。その証拠に今でも我が家にはカルトゥール家の宝物が大切に保管されている!」
「奪った宝物を大切にしている事が証拠と言われてもね……」
ローズが冷たい視線で見ると、コンラートは一つ息を吐き言い聞かせるように言ってきた。
「その子供を我が祖先がワザと置いていったのか探しきれなかったのかは、今我らが議論しても解決はしない。……大切なことはこれからだ。
私達が一緒になれば、別れていた一族が再び一つになれるのだ。勿論、君の家族も連れてくれば良い」
勝手に話を決めていくこの男に、ローズは心底呆れてため息を吐いた。
「どうしてそういう結論に辿り着くのかしらね? 私にはさっぱり分からないわ。……少なくとも私達家族には、その話は有り難くもなんとも無いわ」
その言葉の内容に、コンラートは信じられない、という顔をした。
「何を言っているのだ? 離れてしまった偉大な一族が再び一つになるのだ。カルトゥール家の復興は一族の悲願だ! そして再びカルトゥール家は世界一の魔法使いの一族となるのだ……!」
「我が家にはそんなの悲願でもなんでもないわ。……お話ってそれだけですか?」
熱く語るコンラートにローズは冷静にあっさりと返した。
コンラートは、「何故わからない!?」と信じられないと頭を振る。
「君はカルトゥール直系の力をそのまま受け継いでいるのだろう。私もそこまでは及ばないだろうが直系のおおよそ7、8割の力を持っていると自負する。……この200年、一族同士や魔力の高い者との婚姻を繰り返し我らはここまで魔力を上げてきたのだ! ここで直系の君たちと一緒になればこの世界を手に入れることも夢ではない……!」
まるで演説するかのように熱く語り続けるコンラートを、ローズは冷めた目で見た。
……そして分かりやすく大きく溜息をついた。
「分かっていないのは貴方よ? それでは先程のオスカー殿下や権力を追い求める人達と変わらないじゃない。
……そして貴方はカルトゥール家の本質を知らないのね。
昔から魔力が突出していると言われたカルトゥール家は、その気になればいつでも権力を握れた。けれども代々の当主はそうはしなかった」
「ッ! 何を……!?」
コンラートは驚きつつローズの話に聞き入る。
「カルトゥール家は元々は妖精との契約でこの魔力を得たのよ。魔法にのめり込み研究を続けるカルトゥール家の初代の願いに妖精が応えてくれたのよ。魔法を極めたいと願う研究者気質の初代の熱意に妖精が惚れ込んだ、といわれているわ。そもそも、この力は私利私欲や戦争などの為の力ではないの」
「妖精だと……?」
コンラートが信じられないといった様子で呟いた。世界でエルフ族よりも人と関わりのない種族。それが妖精族。限りなく神に近い能力を持つといわれ、教会に描かれる天使は妖精を見た事がある人がそれをモデルに描いたのではないかと言われている。
まあとにかく人と関わる事がない種族だから、急に妖精の話をされても信じられないのも無理はない。
「そして、カルトゥールの人間は魔法を極めようとすればする程にその者の力となって表れるの。……けれど、妖精達はこの巨大な力が人間に増え続ける事を恐れ、この力を直系のみに伝える事にされたそうよ。……そして私利私欲に走る者や争い事に関わる者、直系を害なしてまで力を得ようとする者にはこの力は手に入らない」
「ッ! そ、んな……。では、我が一族は……!」
「カルトゥールを名乗る資格は無い、ということね。カルトゥールは強き力を追い求める者ではなく、魔法を極め続ける者が手に入れるべき称号なのよ。貴方の祖先はそもそもその資格を失っていた。
……どちらにしても直系以外には遺伝しないのだから、貴方達は別の一族として一から始めなければならなかったのよ」
ローズの話に黙り込んだコンラートだったが、またすぐに反論する。
「……そんなのは嘘だ! だいたい何故そんな事が分かる!? カルトゥールは世界一の魔力を持つ一族。妖精だとか資格とか、そんなもの関係があるはずがない! 我が一族は200年前に分かれたとはいえ正統なカルトゥールの一族なのだぞ!」
コンラートは必死になってそう言い放った。
「何故知っているか? それは我が家の……カルトゥール家の地下室にしまってあるものを見たからよ。カルトゥールの直系、しかも後継ぎにだけに教えられるのだけれど、カルトゥール家の本当の宝は値打ち物の宝石や魔石などではないわ。カルトゥールの宝は真実の我が家の伝承と、我が一族が代々今まで研究し続けてきた魔法の研究資料なのだから。貴方の先祖は見かけだけのカルトゥールの宝物を持って逃げたのよ。
手付かずの地下室を見た時、やはり貴方達の先祖には何も真実を伝えていなかったんだと確信したわ」
「カルトゥールの地下室だと……? やはりカルトゥールの屋敷跡から何かを転移させたのはお前なのだな?
……いったい、お前は何なのだ! 幾ら直系とはいえその歳でそれだけの魔力を使いこなせるとは……!」
コンラートは必死な形相で睨むようにこちらを見ながら、自分達ではあり得ない魔法を使うローズに問うた。
ローズはコンラートの顔を見る。
……20代後半のこの男性は今まで一族の『悲願』とやらに捉われ、力を追い求めるだけの人生を送ってきたのだろう。おそらくこの一族はその妄執に200年前からずっと取り憑かれているのだ。だから力を手に入れる為だけに、『結婚』なんて人生の一大事を簡単に言ってしまえるのだ。
いつまで、彼らはそれに拘り続けるのだろう。……私が心配するのもおかしいかもしれないけれど……。
「私は、カルトゥール家の直系のローズ。けれど、200年前のマイラの記憶を持っている。……ただそれだけ」
「ッ!!」
ローズの告白にコンラートは驚愕の表情をした。
お読みいただき、ありがとうございます。
10歳以上の年齢差のあるローズに対して、初めは年長者として話をしようとしていたコンラートですが……。
実のところローズは現在15歳、マイラ+21歳なのです……。




