72 レオンハルトの目覚め
パウロは信じられない思いで震える声で問いかける。
「ッ!! ……レオンハルト様!? 私が……お分かりになられるのですか?」
テオドールも側に寄り、「兄上!」と涙目で手を握る。
「ああ……。何やら、悪い夢を見ていたようだ……。……? どうしたのだ、テオドールまで。その様な顔をして……?」
レオンハルトは2人の様子に戸惑っていた様子だったが、ふと近くに立つ人物に気付く。2人に支えられ上半身を起こした。
「レオンハルト様。このお方はエルフ族の長でいらっしゃいます。……オスカー様により『魅了』にかけられたレオンハルト様をお助けくださったのです」
涙を流しながら伝えるパウロにレオンハルトはハッとする。
「……私は……! ではアレは夢ではなかったのか……! 済まなかった……、パウロ。
そして、お助けいただき感謝いたします。エルフのお方……」
そう言って近くに立つクリストバルを見る。その時、レオンハルトは急に妙な既視感を感じる。
「……クリストバル、殿……」
つい口から出たその名に、レオンハルトは自分でも驚く。
……? 何故、自分はこんな言葉を言ったのだ? 急に頭にこの名が浮かんで……。パウロは私が魅了にかけられたと言っていたが、まだそれが解けていないのか?
そう思い、もう一度前に立つそのエルフを見る。
……この方は、エルフ族の長クリストバル。……私はこの方と会ったことがある。そうあれは、帝国の皇帝の名代としてエルフの国を訪ねた時――
レオンハルトの中で走馬灯の様に記憶が蘇っていく。
「兄上? 兄上はエルフ族の長ともう既にお会いになられていたのですか? ……兄上? 大丈夫ですか?」
心配そうに声をかける弟テオドールと側近パウロに、レオンハルトは「大丈夫だ」と一つ頷いてから立ち上がり、クリストバルに向き合った。
「クリストバル殿。私はこのアールスコート王国の王太子レオンハルト アールスコートにございます。此度はお助けいただきありがとうございました。
そして……信じていただけるかは分かりませんが、私はラインハルト バートンでもあります。エルフの国へ一度お訪ねしお目通りさせていただいた事がありました。当時リンタール帝国の騎士団長をさせていただいておりました者にございます」
流石にこのレオンハルトの言葉にはクリストバルも驚いた。
……200年前の、リンタール帝国の騎士団長の生まれ変わりなのか……!
マイラも生まれ変わっていたのだ。確かに他の者が生まれ変わっていても不思議ではない。そしてリンタール帝国のラインハルトといえば『悲劇の金獅子』として有名な者ではないか。
そして、この者は――。
「……ラインハルト殿。まさか貴殿だったとは。……そしてまた会える事が出来て嬉しく思う」
クリストバルは冷静さを取り戻しそう挨拶をした。ラインハルト――レオンハルトも頷く。
「誠に。……そしてお恥ずかしながら私は今回も『魅了』にかけられたようで……。クリストバル殿は……エルフ族の方々は『魅了』を解呪するお力を?」
「……あの戦争から、200年経った。あれから我らエルフ族は『魅了』の研究を続けて来たのだ。
そして『魅了』の解呪方法を確立し、つい最近その『魅了』を持つ者の能力を取り除く方法もほぼ完成した。あとは実証実験するだけなのだ」
レオンハルトの言葉に驚き過ぎて言葉も出なかったテオドールとパウロだったが、クリストバルの言う『魅了の能力を取り除く』ということにテオドールが食い付いた。
「『魅了の能力を取り除く』……。誠でございますか!? ……お願いでございます! どうか、どうか私の『魅了』の能力を取り除いてください!」
これに3人は驚く。
「テオドール。お前は『魅了』に誇りを持っているのかと思っていた」
レオンハルトがそう言うと、テオドールは顔を顰めた。
「兄上。……私は諸外国の書物等も読み各国の悲劇も知っております。あの能力がいかに人々の心を蔑ろにし苦しめてきたのかを分かっているつもりです。そして父王やオスカーの事を見てもとてもこの力に誇りなど持てるはずもございません。
……幼き頃父王や母にこの能力を褒められた時も、ずっと私は違和感を感じていたのです。人を操る事が出来てしまうこの能力がそんなに褒められるべきことなのか、と……」
テオドールのその苦しみの告白に、自分とは全く反対の悩みがあったのだとレオンハルトは初めて知った。
「……待ちなさい。さっきも言ったがこれはあと『実証実験』を要する。つまり、まだ確実ではなく何度も連続して出来るとも限らない。今までの話を聞くに、先に『魅了』を取り除かねばならない人物がいるだろう?」
クリストバルはそう言って3人の顔を見た。3人はハッとその事に気付いたようで目を見合わす。……そしてレオンハルトが苦しげに言った。
「……クリストバル殿。ご無理を申し上げてよろしいでしょうか」
そして、エルフ族の長クリストバルとアールスコート王国の3人は話を詰めるのだった。
――王宮の『勇者の守り石』の間から。
ローズは黒いローブの男の魔法で、少し古めかしいが立派な建物の部屋に『転移』させられた。……どうやら、初めからここに繋がるよう仕掛けをしてあったらしい。
他人を『転移』させるのは余程の魔力を持っていなければ出来ない。黒ローブの男の魔力ではおそらく彼自身を『転移』させるのが精一杯のはず。それなのにこのような事が出来たのは、このなかなか手が込んだ仕掛けのお陰なのだろう。
「……また、大掛かりな魔法を仕掛けてあったのね」
ローズが半分呆れたように言うと、黒ローブの男は苦笑した。
「そう言わんでくれ。ここまでしないとお前を連れては来られないだろう?」
それはそうだ。
本来この得体の知れない男とローズは話すことがあると思えない。そもそも彼との接点など何も無いのだ。この黒ローブの男は何を言いたくてこんな状況に持ってきたのだか……。
「……それで? ここまでして私を連れて来た訳とは?」
ローズが問うと、ローブの男は佇まいを直し真剣な顔で向き合って言った。
「――単刀直入に言おう。私と結婚してくれ」
「…………は?」
本当に何の説明もなくの、求婚。単刀直入過ぎるだろう。
マイラの時は何度か求婚された事はあったが、こんなに接点もない人であからさまに魔力目当ての求婚など初めてだった。
「……私の名は、コンラート。……コンラート カルトゥール。
約200年前この国からカルトゥール家の直系の血を守る為に去った一族だ。……そして、お前もカルトゥールの直系の末裔、なのだろう? ……何故かこの国で密かに生き残ったカルトゥール一族」
最後の一言は、何やら彼の中に暗い影を感じた。
お読みいただきありがとうございます。
クリストバルはラインハルトの生まれ変わりだというレオンハルトに少し戸惑いの思いを持っています。
クリストバルがマイラと出会ったのはラインハルトが非業の死を遂げた後でしたが、知り合いだった話は聞いていました。




