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71 魅了の解呪


 ――魔女マイラ カルトゥールの名誉回復――!?


 エルフ族の長であるクリストバルのその言葉に、テオドールとパウロは戸惑った。今回の条件として、まさかそんな事を出してこられるとは思っていなかったからだ。


「……この王国では、マイラが『伝説の悪女』とされていると聞くが、間違いはないか?」


 クリストバルからの質問に、我に返ったテオドールが答える。


「……はい。我がアールスコート王国はまず王国の始まりとして、『神の天啓を受けた勇者が悪女である魔女マイラを倒し、そして神よりその褒美として『勇者の守り石』を授かった』、とされています。……しかし私は諸外国より書物を取り寄せ読んでおりますが、それが我が国だけに伝わる都合の良い作り話だとは理解しております」


 パウロはそれを聞きテオドールを少し意外に思った。勿論パウロもレオンハルトと共に諸外国の書物を読みその事実は知ってはいたが、現王妃の元、ぬくぬくと暮らしていると思っていたこの第2王子テオドールが、自ら諸外国からの書物を取り寄せてまで学んでいる事に純粋に驚き、彼を見直した。


「そう。この王国はマイラの作った『守り石』の恩恵を受け魔物のいない国として国民の人心を掴んでおきながら、彼女に戦争の罪を着せ悪としこの王国の権力を得て人々を騙してきたのだ。マイラこそが、あの20年もの戦争を終わらせたある意味勇者だというのに」


 クリストバルの言葉に、今度はテオドールとパウロの2人が驚く。


 ……魔女マイラが、『王国の守り石』を作った? そして、あの戦争を終わらせたのも? 

 しかし確かに、あの『守り石』が人が作ったものだとしたら。あんな物を作れるのがただの一介の魔法使いであるはずがない。

 そして、この王国が何故魔女マイラを『悪女』としたのか。……それは彼女こそがこの王国が世界を征するという野望を断ち切った張本人だから、という事だったのかもしれない。


 ……しかし。


「それは……。確かに彼女には申し訳なく大変な不幸であったとは思います。ですが、今魔女マイラの『名誉回復』などをすれば、この王国の根幹が揺らぎます。強き魔物達が入り込み、これからは共存するという困難になる状況でまた王国の威信が崩れれば、とてもではありませんがこの王国は保ちません!」


 テオドールは国王も兄も居ないこの状況で、この王国が崩れさる要因となる様な事を約束する訳にはいかなかった。


「だが『王国の守り石』とやらは『神より授かりし』物でない事は、この度の魔物達の来襲によって王国中の人々にはいずれ分かってしまうであろう。

それならばマイラを『伝説の悪女』とやらにしておく必要性もない。どちらにしても、この王国の権威は地に落ちるのだ」


 クリストバルの言うことは尤もだった。

 そしてこの王国は今エルフ族に助けてもらわねば、強き魔物達に蹂躙され滅ぼされるか周辺国に攻め滅ぼされるかの未来のほぼ2択しかないのであった。

 彼らエルフ族の条件をのみこの王国の真実を全て公表することは致し方ないことだろう。


 そこに、パウロは少し気になっていたことを尋ねた。


「……エルフのお方。『聖女』様がカルトゥールの一族である事は理解いたしました。あの魔力に金の髪と瞳。確かに諸外国の書物に書かれている伝承通りです。……そして貴方様の『古き友人』とは、まさか……」


 パウロの質問に、クリストバルは少し表情を曇らせて答えた。


「……そう。マイラ カルトゥール。彼女は私の古き友人であり……、かけがえのない、女性だった」


 パウロとテオドールは驚愕する。……それが本当ならば、マイラを悪女とし死に至らしめたこの王国はエルフ族の長の敵であるという事だ。

 いや、エルフが嘘をつくはずもないからそれは事実で、そしてこのアールスコート王国は諸外国初めエルフ族からも厭われた国だという事なのだ。


 エルフの長の、愛する者を奪ったアールスコート王国。……よくぞ今回協力しようとしてくれたものだ。


「ッ! ……それは、我が国がマイラ カルトゥールと貴方様達におかけした苦しみと悲しみを……、心からお詫び申し上げます」


 居た堪れなくなったテオドールが謝罪した。クリストバルはそれをいっそ冷たい目で無言で見つめていた。……彼の怒りや哀しみは、当たり前だがこのくらいで収まるはずがないのだ。


「……では……。今、貴方様がこの王国を手助けをしてくださろうとするのは、ひとえにマイラの一族の末裔である『聖女』の願いだから、ということなのでございますか? 貴方様の愛する女性を苦しめ抜き、未だに彼女を『悪女』としている我が国を助けてくださる程に、『聖女』様の事を信頼なされているということなのですか?」


 パウロも心苦しいながらも尋ねた。


「……そうだ。私は今の『聖女』の事をとても信頼している。私はカルトゥールの直系たる『聖女』の願いに応え、更にこの王国の長年の膿を出しきる為にやって来たのだ」


 クリストバルはそう澄んだ瞳で言った。テオドールとパウロは祖国の今までして来た事に心を痛めつつ、彼のその澄んだ瞳を見つめ返した。


 ……愛する女性の一族の末裔の為、このエルフは長きに渡り交流もなかった憎き我が国の力になろうとしてくださっているのだ。

 それなのに、我らはまた自分の都合ばかりを考えていたのだ。全ての元凶はこの王国であるというのに! 


「……わかりました。マイラ カルトゥールの『名誉回復』の件、この第2王子テオドールがなんとしても周りを説得し成し遂げてみせましょう」


 心を決めたテオドールがそうクリストバルに宣言した。


「良く言ってくれた。……期待している。それではその礼と言ってはなんだが……」


 するとクリストバルは小さく笑いながらそう言った。そしてレオンハルトの側に行ってしゃがみ込み、その顔を覗き込む。


「うむ……。『回復ヒール』」


 クリストバルはレオンハルトに回復魔法をかける。

 それを見たパウロは慌てて言った。


「エルフのお方。レオンハルト様には先程『聖女』様に回復魔法をかけていただいてお身体だけは回復されているのです。

しかし先程『魅了』をかけたオスカー殿下が仰っていたのです。『魅了』はもう解けない、と……」


 パウロがそう悔しそうに言うも、クリストバルは薄く微笑んだだけでそのまま回復魔法をかけ続けた。


 テオドールとパウロはどうしたものかと困った様にクリストバルを見続けていた。……大丈夫とは思うが余りにかけ過ぎて身体に負担はないのだろうか? そう少し心配しながら。

 そして数回かけた時、不意にレオンハルトの目が開かれた。クリストバルはそこにすかさず『解呪』をかけた。レオンハルトの身体が一瞬光り、また目を閉じる。


「ッ! レオンハルト様!」


 パウロは思わず駆け寄りレオンハルトの脈をとる。

 ……大丈夫だ。正常に動いている。そして顔色も良い。先程のエルフのお方はいったい何をされていたのだ?

 そう多少不審に思っていると、またレオンハルトが目を覚ます。その目は一瞬空を彷徨った後パウロを捉えた。その、青い瞳はしっかりとした『意志』を持っていた。


「……パウロ? ? いったいどうしたのだ……?」


 心配そうに自分を見るその青い瞳。その顔はいつもの自分の大切な主の優しい表情だった。





お読みいただき、ありがとうございます。


レオンハルトの『魅了』が解けました。

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