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69 オスカーの苛立ち



 この『勇者の護り石』の間に舞い降りたその光は、いつしか少女の形になっていた。プラチナブロンドに金の瞳の美しい少女。


 その場にいた者は皆、その金色に輝く存在に魅入られた。


「……聖女、様……」


 パウロが呟いた言葉に、皆が思わず「そうか」と納得しそのまま見ていると――


「……ッ!! レオンハルト様ッ!」


 そう言って、その光の如き少女はレオンハルトに駆け寄った。

 それを見たオスカーは何やら胸がざわりとする。


 少女が彼に触れようとした瞬間、レオンハルトが崩れるように倒れる。すると少女はその非力そうな見かけながらもレオンハルトを支え、2人はそのまま座り込む。


「レオンハルト様! 『最高治療ハイヒール』……!」


 少女がそう言うと、またしてもその周りは神々しい光に包まれる。


 そしてその光が収まった時には、レオンハルトの顔色はすっかり良くなっていたのだった。



「んな……ッ! いったい何が起こったんだ!?」


 オスカーが我に返って叫んだ。


 そしてその言葉で正気に戻ったパウロは駆け寄ろうとしたが、まだ『捕縛』にかかったままなので動けない。


「『聖女』様……!  レオンハルト様は……! レオンハルト様は大丈夫なのですか!?」


 必死にローズに声をかけると、ローズはパウロをチラと見た。


「……大丈夫です。治癒魔法をかけましたから。今は先程魔力を急激に消耗された衝撃で気を失っておられるのですわ」


「あぁ……! ありがとうございます……。レオンハルト様、良かった……!」


 パウロはそう言って涙を流した。


「兄上……! 兄上をお助けいただき、ありがとうございます。あの、貴女様は……?」


 テオドールはそう言って涙で潤んだその目で改めてその少女を見た。……そして、気付く。


「貴女は……、貴女様はもしや……!」


 そうではないかとは思っていた。だが、まさか本当に……! 目の前にいるその少女はいつもの栗色の髪に琥珀の瞳が、プラチナブロンドの髪に金の瞳に変わってはいるが……。少女は確かにテオドールの知る、学園で兄と友人になったローズ ダルトン子爵令嬢だった。

 しかしその魔力と存在感はとてもではないが並の者ではなかった。そして今目の前で見た魔法……。


「貴女は……、貴女様はやはり『聖女』様だったのですね……。いや、もしや女神様なのでは……!」


 興奮しながらテオドールはそう言った。


「まあ。テオドール殿下。女神様なんて畏れ多いですわ。……私は『聖女』と、大司教様よりそう認めていただきました。ですから、『治癒魔法』とそして……『解除』」


 少女がそう言うと、テオドールとパウロの『捕縛』が解けた。パウロはレオンハルトに駆け寄り、その身体を少女より預かる。

 レオンハルトは顔色も良くなって精気もみなぎっていた。少女の言う通り今は先程の衝撃で眠っているだけなのだろう。


 レオンハルトをパウロに預けると少女は立ち上がり、今の出来事を信じられない気持ちで呆然と見つめる第3王子オスカーとローブの男にチラリと目をやる。

 2人はビクリと身体を震わすも、少女はすぐに『護り石』の方を向いた。『護り石』はレオンハルトの魔力を受けて力を取り戻していた。


 それを見てふうと息を吐き、そしてそのまま手をかざす。


「『結界』」


 ブワッと『護り石』の周りに光の膜が出来た。


「なッ……! 我が国の護り石に、いったい何をした!?」


 オスカーが我に返り少女に問い詰めるように聞いた。


「……何も。ただこれ以上この魔石に手を出せないようにしただけですわ。今のこの魔石にはほぼ満タンの魔力が注入されています。レオンハルト殿下が、その命尽きかけるまで魔力を注がれたから。……貴方が、彼にそうさせたのですか?」


 ゆらり、と少女の金の魔力が揺れたのが、ここにいる全員に分かった。


 オスカーは全身に鳥肌がたちおかしな冷や汗が流れた気がした。


「……ッ。……そうだ。僕はこの国の王子。この国を守る義務があるんだよ。兄上だってそうだ。強き魔物達が大量に我が国に雪崩れ込んでいる今、この『勇者の護り石』を復活させるしかない。……その為にはこの国1番の魔法使いである兄上の魔力が必要だったんだ!」


 去勢を張りながら答えたオスカーだったが、密かに手は震えていた。本能的に身体中が危険を訴えていたのだ。


 少女はそれを聞き、目を閉じ一つ息を吐く。必死で気持ちを抑え込んでいるようだった。

 ……そしてゆっくりと目を開き、その澄んだ金の瞳で、オスカーを真っ直ぐに見た。オスカーはその時その姿に何やら既視感を感じる。


「魔物達は、エルフ族の介入により話し合いに応じるとの事です。……そもそもはこの国に平和に暮らしていた魔物達を無理矢理に住処から弾き出したのは、この国……、この『魔石』なのです」


 少女の言葉にこの部屋中の者が驚いた。


「なっ……!? 魔物達の暴走が止まった……!? そして、魔物が話し合いに応じるだと!?」


 オスカーは驚き思わず声を荒げた。


「エルフ族!? 伝説上の存在であるエルフ族が、何故この国に関与するのだ!?」


 黒ローブの男も驚き声をあげた。


「『聖女』様……! あぁ、ありがとうございます……! これで、我が国は救われました! この後は、我らは聖女様とエルフ族に従います」


 テオドールは聖女とエルフ族に感謝した。


「聖女様、ありがとうございます! ……そして、レオンハルト様を助けていただき誠に、……誠にありがとうございました……ッ!」


 パウロは涙を流しながら聖女に感謝する。


「今国境の街ではエルフの長が人々に此度の説明をしてくださっています。魔物達も彼らを受け入れ帰る地がある者は帰り、元々この地に住んでいた魔物達は話し合いが終わるまで待機しています。彼らのリーダーであるフェンリルの言葉に従わない者達もいるので一応人々の住む地の間には結界を張ってあります」


 少女はそう淡々と今の辺境の地での状況を話す。


「そんな……。まさか、本当に……? 魔物が和解をするなんて……。そもそも魔物に話が通じるだなんて……」


 茫然とするオスカーに少女は答える。


「それは、魔物達の友人であるエルフ族の方々のお陰ですわ。私が魔物達と話をした時は彼らの心を開くことは出来ませんでした。エルフの長が間に入ってくださって初めて彼らの心が溶けたのです」


「!? 君は……。君は魔物達と話をしたのか!? そうだ……そもそもどうやってエルフの長を今回の事に引き出す事が出来たんだ!?」


 オスカーが食い気味に少女に問いかけた。


「エルフの長とは……。古い、友人なのですわ。彼も魔物と人間の両方が傷付け合う事を望んではいなかったのでしょう」


 そう語る少女を、オスカーは食い入るように見つめ続けた。そして……。


「……マイラ?」


 オスカーは思わずそう呟いていた。少女は少し驚いた顔をしたが、すぐにニッコリと笑った。


「……どなたのことでしょうか? ……あなた方の処遇はレオンハルト殿下にお任せします。これからこの王国の進退を決める重要な局面になるのですから……」


 そう言ってレオンハルトの側に立つ。


「聖女様……! レオンハルト様は『魅了』されておいでです。いただいた『お守り』を私達は奪われ、オスカー殿下に『魅了』されてレオンハルト様はこのような事に……!」


 パウロがレオンハルトを抱きかかえながらそう言うと、少女はサッと顔色が変わった。


「『魅了』……!? そんな……!」


 そう言ってレオンハルトの顔を覗き込んだ後、ばっとオスカーを見た。 


「貴方が実の兄上にそんな事を? 今すぐ解いて差し上げてください!」


 レオンハルトの事に必死になる少女に、オスカーは少しの苛立ちを感じ始めていた。


「……イヤだね。そもそも『魅了』を解くなんて出来ない。それよりも僕の質問に答えてよ。君は何者? その髪色と瞳……。やはり君は……」


 オスカーはこの既視感が何なのか、少しずつ分かってきていた。そして自分の知るあの女性に似過ぎているこの少女に何ともいえない焦りのような苛立ちのような感情が、何故自分の中にこんなにも渦巻いているのかを。


 この少女こそ、オスカーの前世ゲオハルトの想い人であったマイラその人。そしてあの時マイラはゲオハルトがどんなに愛を囁いても応えてくれることはなかった。彼女は明らかに別の誰かを想っていたのだ。そして最後までマイラはゲオハルトを見てくれる事なく自分を置いてこの世を去った。


 そして、今回も彼女は別の誰かを見ている。決して自分を見てはくれない。しかも彼女が見ている、その相手はおそらく……長兄レオンハルト。


 ギリッ。

 オスカーは悔しげに唇を噛む。

 ――そう、僕は前世でも長兄を知っている。何故、今世でもこんなに長兄の事が気に入らないのかが、やっと分かったよ。





 



お読みいただき、ありがとうございます。


ローズが間に合いレオンハルトの命は助かりましたが、『魅了』にはかかったままです。


そしてローズが聞こえた、助けての声はレオンハルトの側近のパウロです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ここからが楽しみです。この国の存亡をかけたクライマックス感たっぷり。  教皇の国家の名前がわかったこと。 [気になる点]  オスカーはなぜ転生した?。 [一言]  これからどうなるやら。…
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