68 レオンハルトと護り石
「……扉を開けよ」
その重厚な扉の前で、第3王子オスカーは衛兵に告げた。
「オスカー殿下。こちらは陛下のみが入る事が出来る我が国の国宝の部屋。殿下といえど入る事は許されません」
この部屋を守る衛兵はこの国でも選び抜かれた騎士達。例え王子といえどもこの部屋に入れるつもりは無さそうだ。
その衛兵の様子を見て、オスカーはレオンハルトに向かって囁く。
「……兄上」
レオンハルトは表情を変えずに頷き、衛兵に向かって言った。
「……私は王太子。この国の次代の王である。父上にも許可を得ている。扉を開けよ」
「殿下。……しかし……!」
衛兵は尚も決まりを守ろうとしたが、その横からオスカーが声をかける。
「……僕たちを中に入れて」
そう言って、2人いる内の1人の衛兵を『魅了』の術にかけた。
「……おい?」
不審に思ったもう1人の衛兵が声をかける。
「……大丈夫だ。王太子殿下がこう仰っておられるのだ。中に入って頂こう」
オスカーに『魅了』にかけられた虚ろな目をした衛兵がそう言うと、
「……まあ、それもそうか。……殿下。失礼いたしました。どうぞお入りください」
「……ああ、お前達も仕事だからね。感謝する」
レオンハルトがそう言い、オスカーはニコリと笑顔でそしてローブの男は表情を変えずに、衛兵によって開かれたその重厚な扉の向こうに足を踏み入れた。
――パタンッ……
その扉の中は、広いドーム状の部屋になっていた。丸くなった天井にはガラスが嵌められている箇所が幾つもあり、この部屋を神聖に感じさせる光が差し込んでいる。そして、その中央には……。
「……ふふ。昔と変わらないね。厳重に管理されている。こんな大きな魔石は世界広しといえどそうはないだろうね」
それを見たオスカーはそう言ってニヤリと笑った。
いつものレオンハルトならばその笑顔に不穏なものを感じたのだろうが、今の彼はただその部屋の中央に置かれた50㎝はあろうかという魔石に魅入られたように見ていた。
「……確かに、恐ろしい程の力を感じる。……コレが、この王国の国宝、か……。リンタール帝国の『魔女の瞳』も大きな力を持った魔石だが、コレはそもそもの材質、元の魔物が違うのだろうな……」
そう言って見入るローブの男にオスカーは少し機嫌を損ねたように言う。
「これは、神より授かりし『勇者の護り石』なのだからね? おかしな事は言わないでよ?」
そう言ってプイと向こうを向いてしまったオスカーに、ローブの男は苦笑した。
「さぁ、時間がないんだ。……レオンハルト兄上? この王国の国宝である『勇者の護り石』に、兄上のありったけの魔力を注いでくれる?」
オスカーがレオンハルトの横に行き、目を見て『魅了』の重ねがけをしながら言った。
「…………分かった」
レオンハルトはそう表情もなく返事をすると、『護り石』と向かい合う。
――そして、魔力を『護り石』に向かって放出した。
「……オスカーが兄上を!?」
オスカーによって衛兵達に捕らえられ牢に入れられそうになっていたパウロを助けたテオドールにも、やっとこの状況が飲み込めてきた。 2人は『護り石』のある部屋に向かって走りながら話し続ける。
「私は先程クラーセン侯爵より、この会議の内容は全て聞いた。最早兄上を『魅了』したり『護り石』の贄になどする必要などないではないか! 何故オスカーはそのような暴走を……!」
テオドールは先程の会議で兄レオンハルトが国王や貴族達の意見をまとめ上げた話を聞いて安心したところだった。そして兄にこの度の祝いとこれからのこの王国の事を話し合いたく探していた所だった。
……それが、何故このような事態になっている!?
「おそらくですが……。オスカー殿下は会議の内容をご存知ありません。陛下がお倒れになり出てこられた所とレオンハルト様が『魅了』されていない状況を見て、勘違いされ暴走されたのかと思われます。そしてオスカー殿下はレオンハルト様よりも強い魔力を持つと思われる魔法使いも連れておりました。その者は魅了はされていないようでしたので、ただレオンハルト様を確実に捕らえる為だけの協力者なのだと思います」
パウロは先程考えていた事を話してみた。
……もしもオスカー殿下が国の為にと考えているのだとしても、自分は絶対にそんな事は許せない! だいたい強い魔法使いを連れているのなら、どうして兄であるレオンハルト様を贄にとされようとしているのだ!
そしてもしも万一レオンハルト様がこのままお亡くなりにでもなられたとしたら……! 『聖女』様やエルフ族の協力も怪しくなってくるだろう。
……『聖女』様は、おそらくレオンハルト様を憎からず思っておられる。
恋なのか友情なのか……。2人の間には、そんな淡い感情が見え隠れしている。……そう自分は感じたのだ。
「だからと言ってそれで兄上を『魅了』するとは……! 今や兄上はこの王国を救う要であるというのに! あぁ、間に合ってください! 兄上!」
そうして2人は『勇者の護り石』のある部屋の前に立った。
「……テオドール様……! ただ今、レオンハルト殿下が入室され、祈りの儀式を行われております。暫しお待ちください」
2人立つ衛兵の内、虚な目をした衛兵が声を掛けてきた。
「……その兄上のお忘れ物を持って来た。兄に頼まれたのだ。すぐに持ってくるようにと。……さぁ、扉を開けよ!」
渋る衛兵に強引に迫り扉を開けさせる。
そしてその扉の向こうからは――光。
2人が目を凝らして見ると、そこには魔力を『護り石』に注入するレオンハルトがいた。
「レオンハルト様!!」
「兄上ッ!?」
2人は驚き、すぐさま止めに入ろうとした。が――
「……嫌だなぁ。やめてくれる? せっかく兄上がこの王国の為に頑張ってくれているのに……」
「ッ!! オスカー!! お前は何という事を!」
横から出て来た弟オスカーをテオドールは叱りつけたが――
『捕縛』
2人はオスカーの後ろから現れた黒いローブの男に『捕縛』され、動けなくなってしまった。
「ッ! なんだお前は! この魔法を解くんだ! オスカー! 兄上をお止めするんだ……! もはやこの『魔石』はこの王国には必要ないのだ!」
テオドールは『捕縛』に囚われもがきながらもオスカーに説明する。
「そうです! 魔物は……強き魔物達は『聖女』様とエルフ族が対処してくれる事になったのです! その仲介役がレオンハルト様です! レオンハルト様がいないと、エルフ族が力を貸してくれないかもしれない! お願いでございます! レオンハルト様をお止めしてください!!」
パウロも動けないながらも必死になって叫ぶ。
「ふっ……。何を言ってるの? エルフ族なんて、出てくるはずが無いじゃない? あの戦争の後約200年もの間、姿を消して今やおとぎ話の存在じゃないか! 魔物怖さに幻でも見たの? それとも現実逃避?
……ちゃんと現実を見てよ! このままじゃこの国は魔物に占拠されてしまうよ!?」
オスカーは2人の言葉を一笑に臥した。
そのあとも何度も説得しようとするがオスカーは全く取り合おうとしない。
ダメだ……! 話が通じない……!!
パウロはチラとレオンハルトを見る。レオンハルトはこの間もずっとかなりの魔力を魔石に注入し続けている。あぁ、このままでは……!!
『聖女』様……! ローズ嬢、どうか、どうかレオンハルト様を……! 大切な我が君をお助けください……!!
パウロは必死に祈った。
その時、レオンハルトの魔力が少し陰った気がした。もう、魔力が尽きかけているのだ……!
レオンハルトは心なしか顔色も悪くなっている。パウロは青褪めた。
「レオンハルトさまぁッ!!」
パウロが絶叫し、テオドールもレオンハルトを驚愕の表情で見続け、オスカーは自分がすべき事をし終えたことに満足そうな顔をした。――その時。
……眩い、神々しい光がこの部屋に舞い降りた。
お読みいただき、ありがとうございます。
オスカーは前世ゲオハルトの時にこの『護り石』の部屋に何度も入っています。




