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67 エルフと魔物達



 勇壮で美しい銀のフサフサとした毛並みが揺れる。そしてその瞳は青銀。

 ローズはフェンリルの美しい澄んだ瞳をまるで吸い込まれるように見ながら言った。


「こんにちは。初めてお目に掛かります。ローズと申します」

 

 ローズは敬意を払って美しい礼をした。

 それを見たフェンリルは少し驚いたようだ。


(! ……お前は……。恐ろしい程の魔力だがエルフ……、ではないのだな。人間でこれ程の魔力を持ちなおかつ我らに敬意を払うとは……)


「貴方達のリーダーは……、フェンリルの貴方なのですね? どうして皆で集まって魔法の隙間からこの国へ入ってきたのですか?」


 ローズがフェンリルの青銀の瞳を真っ直ぐに見つめ尋ねた。


(……お前達愚かな人間達に分からせてやる為だ。――この土地はお前達人間だけのものでは無い! 我らの故郷を奪った人間達に思い知らせてやる為に我らはやって来たのだ!)


 フェンリルがそう言えば、周りの魔物達も賛同するかのように『ウォォーッ』と唸る。


「……それは、そうですよね……。世界は人間達だけの土地ではない。皆が生きる土地。人が住む街や村にむやみに入り争いになる事は感心しないけれど、土地は誰もが住む権利があるはずですよね。……それが、200年前から入れなくなってしまったという事なのですね」


 確かにアールスコート王国には200年前には色んな魔物がいた。人を襲うような魔物もいたが、大概は山や彼らの住処と決まったような場所で住み、人間とは距離をとっていた。時折迷い込んだ魔物や人間がそれぞれの領域に入ると騒ぎになる、といった感じだった。


(……分かっているのなら、今すぐあの結界の魔法を解け! 我らの故郷を返すのだ!)


 フェンリルは怒りながらこちらに向かって吠えた。



「うーん、でも今急に結界を解くと絶対にどちらにも被害が出てしまうのですわ。それに今はこの魔法の元になっている『魔法石』はここにはないのです。……そして何より結界を解くのなら、どちらにもちゃんと規律を決めてからで無いとパニックになってしまいます」


 ローズは考えながらそう言うが、フェンリル達の怒りは収まらないようだった。そして後ろの魔物達はフェンリルの隙を見てローズに襲いかかろうとする。


 パシンッ……!

 ギャオォォン……ッ!!


「あ。私の周りには攻撃をそのまま相手に返す術をかけているから、攻撃をしてきてはダメよ? ……そのまま返すだけよ? 本気でやるなら倍にして返すわよ」


 攻撃を返された魔物が恨めしそうに見るのでキチンと説明する。

 攻撃をされたのはこちらなのに、そんな目で見られるのは心外なのだが。


(『魔法石』……。ソレが、この200年に渡り我らをこの土地に帰らせない元凶か。それはどこにあるのだ? そもそもどうしてそんなものがこの世に現れたのだ……!)


 フェンリルはローズを睨むようにしながら言った。


「……元は、亡くなった偉大な古のドラゴンの魔石。それを何かに利用出来ないかと研究され、出来たのがこの魔物を寄せつけない『魔法石』。こんな大きな範囲にこんなに長期間使われる事になるとは思わなかったけれど……」


 魔女マイラ、つまりはローズの作った『魔法石』。彼らが故郷に帰れない事態になってしまった責任は……やはりローズということか。


(……! 約500年前のドラゴンの魔石、か……。気高きドラゴンが人によって殺され魔石となった話は聞いている。……まさかそれがこんな事を引き起こすきっかけになっていたとは……。それがたかだか100年も生きられぬ人間のお前がそれを知っているとは、お前はその魔石の関係者か?)


「……そう、その魔石を最初に加工したのは……私。せいぜい一つか二つの都市を守る結界石のつもりだったのだけれど……。そしてあなた方の住む場所までがその範囲に入るなんてことも予想外で……」


 ローズは至極真面目に答えたのだが、フェンリルは不機嫌になり眉間に皺が入った。


(……お前は私を揶揄っているのか? お前は魔力は相当強いがただの人間。まだ子供のお前が200年前に『魔法石』を作れる訳がないだろう?)


 フェンリルは少しの苛立ちと、彼らにとってはまだまだ子供の範疇に入るローズが自分の責任だと言い張る事に憐れみも感じているようだった。


(……もういいではないか! この生意気な人間の子供を痛めつけ人間どもの前に晒してやればいいのだ! お前がやらないなら俺がやる!)


 そう言って彼らの後方から大きなトカゲのような魔物がローズに向かって躍り出た。


 パシィ……ン……!


 しかしその魔物はローズの側まで来るまでに身動き出来なくなった。その場の空気が凍り付いたかの様に、どの魔物も動く事が出来ない。


(ッ! う……クッ……!!)


(! ……これは……!?)


 フェンリルも驚く。


「……クリストバル……?」


 ポツリと呟きこの気配のする方をローズがチラリと見ると、そこには輝くばかりに美しいエルフの男性が立っていた。艶やかに流れる金の髪、その瞳は気高い澄んだ紫色。


 彼は嬉しそうに微笑みローズに語りかけた。


「……覚えていてくれたのだね、マイラ。……会いたかったよ。この200年、ずっと君を忘れたことは無かった。この半年、君の気配を感じ取ってから何度会いにこようと思ったことか」


 そう言って笑顔のままローズの前まで歩み寄った。


「……クリストバル。今は『ローズ』よ。マイラの時は本当にありがとう。……そして今回も、貴方に会えて嬉しいわ」


 ローズも笑顔で返す。


(――クリストバル。エルフの長よ。その者は貴方の知り合いか?)


 仲良さげなクリストバルとローズを見たフェンリルは、少し遠慮がちに尋ねてきた。魔物達にとってもエルフという存在はとても大切な友人なのだろう。


「ああ。彼女は私の戦友にして求婚中の愛しき女性だ」


「!!」


 魔物達とローズは驚いた。


(!! ……その者は確かに魔力はエルフ程もあろうかとは思うが……しかし人間だろう? 偉大なるエルフ族の長の妻にと望むとは、どういうことだ!)


 魔物達に難色を示されてしまった。

 今までに人間と結婚したエルフは勿論いるのだけれど、長ともなると問題になってくるのかしらね……。あら? でも問題はそこではないわよ?


「私はこのローズと一緒になる為ならば、長の座を降りても良いと考えている……」


「……ちょっと待って。クリストバル? あとフェンリルの貴方も。そもそも私はクリストバルの求婚を受けてはいないわよね? それなのに無用な争いはやめて欲しいわ」


 ローズがクリストバルとフェンリルの両方を見ながらはっきりとそう言うと、2人は少し気不味い顔をした。


「それはそうだ。……ローズ。この話はまた後でゆっくり話そう」


 クリストバルはローズに優しく微笑んで言ってから、魔物達に向き合った。


「今、ここで人間達と全面戦争となる事は互いに被害と遺恨を残すだけだ。今の様に君たちがただ人間を傷つけたいだけならば、私たちエルフ族は今回人間側につき君たちを排除する。……これは妖精族とも話し合い、出た答えだ」


 クリストバルは決して大きな声で叫んでいるわけではないのに、何故か遠くにいる魔物にまでよく聞こえたようだった。


 魔物達は悔しげな顔をする。


「何故だ……、何故妖精もエルフも人間達の味方をする!? そもそも我らに不当な行いをしたのは人間なのだぞ!?」


 激昂したフェンリルが叫ぶ。


「……先に不当な事をされたから、次に不当な事を仕返して良い訳ではない。そして今仕返す相手は不当な事を引き起こした当事者ではないだろう? 

……無論、人間側にもペナルティを与える。話し合いをした結果にもよるだろうが、お前達が昔から住処としていたアールスコート王国の山間部の一部を決して人が入ってはならない不可侵の地とする、……などね。勿論人間との話し合いには私達エルフがお前達側となって良い方向に持っていける様に努力しよう」


 魔物達は不服そうながらも、エルフ族が間に入ってくれるなら、と了承した。

 そして魔物達は戻れる者は元の地へ、戻れぬ者はとりあえずこの地で、エルフ族と人との話し合いの結果を待つ事となったのだった。




 その後、全てがフェンリルの統率の取れる魔物という訳ではないことから、ローズはとりあえずこの周辺に結界を張っていた。すると……。



 ドクンッ……。


 ローズは、胸騒ぎがした。なんだか誰かが呼んでいる様な気がした。


 さっきは街から外へ出て魔物に出会ってしまった子供達だった。

 ……でも、コレは……? まさか、王宮?


 でも王宮では先程会議でレオンハルト殿下が国王や貴族達の意見をまとめてくれたばかりで……!



「……ローズ? 今から街の人々に此度の説明をしに行くのであろう? ……どうした? 顔色が悪いぞ?」


 クリストバルがやって来て、ローズの様子がおかしい事に気付く。

 ローズは何故自分がこんなに嫌な胸騒ぎがするのか分からず、震える手をもう一つの手で抑える。


「……分からないの。何か……、嫌な感じがするの。……クリストバル! ……私は今からアールスコート王国の王宮へ行くわ! 何か、おかしな事になっている気がするの!」


 ローズは嫌な予感が止まらず、クリストバルにそう告げる。

 クリストバルはサッと顔色が変わる。


「ローズ。……行くなと言っても行くのだろう? ……街の人々への説明を済ませたら、すぐに追いかける。くれぐれも、無理はしないでくれ」


 クリストバルの言葉にローズは頷いた。そして直ぐに場所を特定し『転移』して行った。



 ……クリストバルは、そんなローズが行ってしまった場所を哀しげな顔で見ていた。


「……クリストバル様」


 そこに横からミゲルが声をかけた。


「…………ミゲルか。こうして彼女が行ってしまう姿を見るのは2度目。あの日マイラが弟を助けに行った……あの最後の時を思い出す。

……私はあの時二度とあのような後悔はしないと誓った。

――さあ、行くぞ。成すべき事をして、いつでも彼女の手助けが出来るようにしなければな」



 何か吹っ切った笑顔で歩き出したクリストバルに、ミゲルはただ頷き従った。








お読みいただき、ありがとうございます!


エルフのクリストバルはやっと会えたローズとちゃんとした話も出来ない内に離れてしまった事に、実は相当ガッカリしています……。

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