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ゲオハルト アールスコート

第3王子オスカーのお話です。少し長めです。




 ……あぁ、まただ。


 ――僕が前世を思い出したのは、いつの頃だっただろう。



「兄上様方は貴方様のお年の頃にはこの位の事はお出来になられましたよ」


 自分には歳の離れた兄が2人いる。いずれも文句の付け所のない優秀な兄達。……そして両親も仕える者達もこの台詞を言うのだ。兄達はもっと早くにもっと完璧に色んな事が出来たと。


 ……この、前世とほぼ同じやり取りが僕オスカーに前世を思い出させたのだと思う。


 今目の前にいる家庭教師もいつものこの台詞を呆れたように言って、ため息を吐いた。

 ……また、僕の心に染みが出来る。この染みはどんどん重なり広がって、もうどす黒く深い闇となっていた。



 ――前世でゲオハルト カルドラであった時。


 そんなどす黒いものが僕の中に渦巻く15歳の頃、稀に王家に現れる事があるという『魅了』の能力が僕に現れた。


 父王も兄王子達も喜んだ。


 当時我が国は隣国と一触即発の情勢となっていた。我が国は農作物はそれなりに収穫出来たのだが、隣国はその軍事力をもって我が国に非常に不利な貿易を要求してきた。

 国王は何とか通常に近い条件での貿易にしようと尽力したが叶わず、言いなりになるか抵抗するかで悩んでいた。……しかし、『魅了』を目覚めさせた僕が現れた事で父王の心は決まった。


 そして、始まった戦争。


 隣国も周辺国も、最初は当然僕達の王国が悪足掻きをしただけで直ぐに勝負はつくだろうと思ったようだった。


 ――しかし終わってみれば、我がカルドラ王国の勝利だった。

 何故か隣国は自滅するかのような行動をしていた。……そしてその前には必ずカルドラ王国からの使者が訪れていた事実を世間は知らない。


 そう、この戦争時まだ若干15歳の王子であった僕が使者として訪れ、相手の要職の貴族や騎士達を『魅了』していき、我が国の都合の良い様に動かしたのだ。


 父王や兄王子達や周りの者達は僕を褒め称えた。僕はやっと周りに認められたのだ。


 そして僕は周囲の厄介な国々を更に我がものにする事を進言した。僕のこの力と今回の方法を使っていけば世界を手に入れることも不可能ではない。


 父王達もその話に乗り、20年の長きに渡る事になる戦争は始まったのだった……。

 


 ――それから約20年。

 僕が15歳の時に始まったその戦争は世界各国に広がり、今や周辺の国は帝国以外はほぼ我が国の領土となっていた。


 父王は亡くなり長兄が国王となっていたが、王弟である僕の立場は盤石だった。国王である兄でさえ逆らえない存在。僕は今の立場に不満はないながらも、まだ何か心は渇いている気がした。


 そんな時一つの知らせが入った。当時扱いあぐね研究材料として王立学園に預けたいにしえのドラゴンの魔石を、強力な魔物避けにする事に学生が成功したというのだ。


 聞けば、それを成し遂げたのはカルトゥールの直系。


 我が国の公爵となっているカルトゥール家は特殊な家で、世界最高の魔力を持つといわれている。

 元々はこの国の者ではなかったらしいが、何代か前の我が国の国王がその当時の当主と仲が良く我が国に滞在してもらう事に成功したのだ。

 カルトゥール家はその存在そのものが国の抑止力となる。各国は隙あれば彼らに自国に来ないかと誘いをかけている様だが、彼らはそもそもいつも最高の魔法の研究が出来れば良いという考えだったので、我が国はその願いをどの国の条件よりも叶えてきた。


 我が国はカルトゥール家に公爵位を与え、彼らに存分に魔法の研究を行なえるようにしている。それを邪魔すれば彼らはこの国を出て行ってしまうのだろう。だからこの戦争にも彼らに積極的に参加せよと強要される事はなかった。この国にカルトゥール家がいる、ということ自体が他国には脅威なのだから。



 僕はその魔物避けに加工した魔石の説明をする為王宮にやって来た、まだ学生の『彼女』と会った。社交界にも碌に顔も出さず研究に明け暮れる彼女にきちんと会うのはその時が初めてだった。


 彼女はカルトゥール家直系とすぐに分かる、プラチナブロンドの髪に金の瞳。その意志の強そうな真っ直ぐな瞳に僕は魅入られた。

 人を心から信用する事が出来なかった僕は、今まで結婚もせずこれからもする気は無かった。

 そんな僕の心は彼女、マイラ カルトゥールに奪われてしまった。

 

 何度も彼女に求婚した。だがマイラは良くも悪くもカルトゥール家の直系らし過ぎた。結婚適齢期であるにも関わらず、魔法の研究をしたいから結婚などする気は無い。そう言い切った。


 いよいよ世界の大国であるリンタール帝国との戦争となった時、我が国は無理を言ってカルトゥール家の直系であるマイラに参加を要請した。リンタール帝国の国境の砦をおとし、ここから隣の街を攻めると見せかけ行軍するとは思われない魔の森を通り抜け、気が付けば帝都の目の前に我ら王国軍がいるという奇襲作戦だ。

 初めは良い返事をもらえなかったが、帝国図書館に行くというマイラに一緒にそこまで行軍するだけという条件で無理矢理約束させたらしい。



 結局マイラは本当にリンタール帝国の帝都の手前まで一緒に行っただけで、そのまま姿を消してしまった。勿論、魔の森を軍が無事に通り抜けられたのはマイラの魔力のお陰だったのだが。


 その後、マイラのいない我が王国軍は帝都戦で手痛い敗戦となったのだった。


「帝都戦は、僕が参加しなかったからね。次からは僕が動く。……もう負けはないよ」


 そして帝国の『金獅子』と名高い騎士団長を『魅了』し、次の戦いでは見事に勝利して見せた。



 ――だがその頃から、マイラの様子はおかしくなった。


 マイラは明らかに我が国に敵意を持ち、いつしか周辺国や敗戦した残党軍でつくる連合軍の旗印となっていた。

 僕は王国でのマイラの周辺の者達を『魅了』し包囲網を作り、何とか彼女を捕らえ『魅了』しようとしたが、何故か彼女には『魅了』は効かなかった。僕ゲオハルトの人生で『魅了』が効かなかったのは、マイラだけだった。


 そして連合軍にしてやられ、我が王国の敗戦が濃厚になってきた頃……。


『我が国は神からの天啓を受けた。悪どい魔女を倒し魔物を追い払い国の平穏を取り戻すようにと。そして、神より我が国の勇者である王子に『王国の護り石』を授けられた』


 そう国の内外に発表し、『王国の護り石』を発動させた。そして、この王国の地から強き魔物が弾き出されるように居なくなった。


 残されたカルトゥールの直系では無い一族に、マイラを王国に帰るようにすれば国からの脱出を許可すると伝えると、その策が成功したのかマイラはこの王国に戻って来た。


 ……ただ一つ最大の失敗は……、暴走した兵達によってマイラが死んでしまった事。


 僕は敗戦後やって来た周辺国の者達に『魅了』をかけ続け、いつしか周辺国はこの国に手を出さなくなり敗戦の責めを逃れた。

 そして我が国で『伝説の悪女』と呼ばれるようになったマイラには皮肉な事に、マイラが古のドラゴンの魔石から作った『王国の護り石』によって、王国内に強い魔物が居なくなるという奇跡で我が国は国民からは絶大な信頼を得ている。


 ――そうして、僕は王国の王位を甥に任せ生涯を閉じた。




 ……生まれ変わった僕オスカーも、前世と生まれた立場はそう変わらない第3王子。

 そしてあの200年前から、王国には一代に2.3人は『魅了』の能力持ちが生まれるようだった。勿論生まれ変わった僕もそれを持っている。


 僕は今回幼い頃からこの『魅了』を密かに使っていった。優秀な長兄レオンハルトはどうやら『魅了』はなく、次兄テオドールは7歳位で発現させた。幼い頃の僕は能力を隠して近しい者を『魅了』し、愛される末っ子王子を演出した。……中には、それを見抜く者もいたけれど。



 ただ、今のこの王国には強い魔法使いはいない。あの、『王国の護り石』を維持する為に必要な強力な魔力。あの当時、ゲオハルトに説明したマイラはいとも簡単なように話していたが、それを出来る程の魔力を持つ者は今この王国にはいない。――この200年、いったいどうしていたのだろう?


 答えは簡単だった。僕は10年に一度の魔力の補給時期に、父である国王と一緒に『護り石』の間に入って行く、長兄の師である魔法使いの姿を見た。彼は父王に『魅了』されているようだった。

 あの魔法使いは『護り石』の維持に足る魔力を持っているとは思えなかったけれど……? そう思いながら幼い僕がその場で隠れて見ていると、国王が部屋から出てきた。そしてその横には騎士により運ばれるグッタリとした魔法使いが……。


 ……そうか。あれからこの国はあの『護り石』を維持する為、魔力の足りない魔法使いを魅了し、その命をかけさせて無理矢理このシステムを維持させてきたのか。


 僕はゾクリとした。

 ――歪んでしまった王国。


 

 それからこの王国の『護り石』は稼働し続け、僕オスカーは13歳になり王立学園に入学した。


 最近長兄レオンハルトが気にしている『聖女』も高等部に編入したともっばらの噂だった。


 そしてその中の1人、今年の編入生の弟が僕と同じクラスだと知り、近付いて『魅了』しようとした。が……。

 それは彼にはかからなかった。『魅了』が弾かれるのはマイラ以来だ。


 彼は何らかの能力を持つ者なのか? 最初そう思ったがしかしこの少年からは何も感じない。ただ彼の胸辺りからとてつもない力を感じた。……コレは、もしや何か『魅了』を受け付けさせない何かを持っている?


 その後少年リアムの姉であるローズ ダルトンが『聖女』だと仮定し、教会周辺を調査した。すると、最近教会では何やら力の強い魔石が開発されているようだった。


 もしや、『聖女』が何かとんでもないモノを作り出したのでは……!



 そう考え出した頃、強い魔物がこの国に入って来たとの知らせが届く。王宮では緊急会議が行われた。

 

 ……早すぎる。やはり、前回の魔法使いでは魔力が足りなかったのだ。


 この王国には今強き魔法使いはいない。

 そうして魔物討伐の騎士団が出発する前の夜、次兄テオドールと僕は父王に呼び出された。そして長兄レオンハルトを『魅了』しその魔力で『王国の護り石』を維持すると伝えられた。

 父王は今まで必死になって強き魔法使いを探していなかった。おそらく父王の中では長兄を『護り石』の贄とする事は随分前からの決定事項だったのだ。


 次兄テオドールは父王に反論していたが、僕は今はここで争っている場合では無いよと言うと、次兄は僕を信じられないといった顔で見て、その後黙り込んだ。



 ……実は僕は少し前から魔法使いを集めていた。それは次兄の側近が魔法使いを使い長兄レオンハルトを貶めようとした時に彼らを『魅了』し、そのツテでより強い魔法使いも呼び寄せていたのだ。


 その中にいたのが、いつもこの黒いローブを纏う男。200年前この国を脱出したカルトゥール一族の末裔だという。この者は『魅了避け』の力を持っているので自分には効かないと言っていた。そして自分の願いを叶えるのなら無条件で僕の力となると約束した。……本当はそんな約束は信じていないけれど、この男は他の誰よりも魔力が強かったのだ。



 そして父王は騎士団出発後すぐには長兄を『魅了』せず、何故か会議後側近達に支えられながら会議の間を退出された。声をかけられるような状況ではなかった。


「……ダメだ。あの部屋には『隠蔽』がかかっていて、会議の内容を聞くことが出来なかった」


 高位の魔法使いである黒ローブの男は少し悔しげに言った。


 ……強き魔物達はこの国にたくさん入って来ているという。おそらく我が国の騎士団で対処することは出来ない。父王はここまできて長兄を『護り石』に使う事を躊躇ちゅうちょされているのか?

 


 僕は決心した。この王国の為、レオンハルト兄上には今すぐにこの王国の『にえ』となっていただく事を――




お読みいただき、ありがとうございます!


オスカーのお話でした。

次回からは本編に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・歴史の謎解きが面白い! ・オスカー良い悪役ですね。外見が可愛い系なのに、実は中身は若いマイラに言い寄ってた30代後半ウザキモおじさんというのは 悪役に必要なゾッとする感覚がプラスされて…
[良い点]  オスカーの説明がされたこと、黒いローブを纏う男がカルトゥール一族の末裔という、簡単な説明があって嬉しい。 [気になる点]  もう少しカルトゥール一族の末裔について、詳しい情報がほしい。 …
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