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66 パウロの叫び



「……お前たち! 離すのだ! レオンハルト様が……! レオンハルト様が『にえ』にされてしまう……!!」


 オスカーの命令により衛兵に捕らえられたパウロは、連行されながらも叫び続けた。

 周りの貴族達は何事かとこちらを見る者もいるが、衛兵に捕われている状況で助けることが出来る者などほぼいない。

 ……それでも、なんとかこの状況から脱して、大切な我が君をお助けしなければ……!



 ……まさか、オスカー殿下が本当にあのようなことをされるとは思いもしなかった……! レオンハルト様からお話を聞いてもまだどこかピンと来なかったのだ。あの、愛らしい王子が『魅了』を使われるなど……。


 しかし、事実目の前でそれは起こった。しかも自分の力及ばずレオンハルトは『魅了』されてしまった……!

 ……自分がレオンハルト様にあのような冷たい目で見られる日が来るなんて思いもしなかった。そして殿下に攻撃魔法をかけられるなんて……! あの『お守り』がなければ自分は無事では済まなかっただろう。


 どうすればいいのだ! このまま牢に入れられてしまえばこの事を誰かに伝える事さえ出来ない……!


 ……イヤ、まだだ。まだ、絶対に諦めない――!


 考えろ。何か突破口を。……オスカー殿下達はなんと言っていた?


 ……そうだ。オスカー殿下は、あの先程の会議の内容をご存知ないようだった。

 レオンハルト様が外部から会議の内容を知られぬ様に謁見の間に『隠蔽』をかけられていたのか? もしくは、『聖女』様かもしれないが。


 成人されていないオスカー殿下は会議には出られないし、あのローブの魔法使いも覗き見る事が出来なかったのだろう。

 だから、実際に見た父王の会議の間から出て行く様子と、レオンハルト様に国王の退位の話や他国から人が入ってくるという話だけを聞いて危機感を感じ、突発的に事を起こした、という事だろうか。


 エルフ族が関わる話を聞いていないオスカー殿下は、まだ『王国の護り石』さえ復活させればこの王国は継続出来る、と考えているのではないのか? 『聖女』の協力を得ねばその後に他国が攻めてくる事も分かっていないのかもしれない。


 ……だとしたら、このままだとレオンハルト様だけが無駄に犠牲になる事になってしまう。おそらくエルフ族は『護り石』が復活してもしていなくても、それを回収していくだけだろうだから。


 そしてあのローブの男は……、アレは相当な力を持った魔法使いだ。もしかするとレオンハルト様よりも力は上なのかもしれない。

 ……それからあの男は私の『お守り』を奪い、持っていても平気なようだった。アレを触って何もないという事は、あのローブの男は『魅了』にかけられていない、という事ではないか? それに男はオスカー殿下に意見し殿下は不快感を表していた。おそらく『魅了』にはかかっていないのだ。


 ……何故だ? あの2人は何か利害が一致している、という事なのだろうか……?


 いや今はとにかく、レオンハルト様をお助けする方法を考えねば……! 会議が終わってある程度事情を知っている貴族達にレオンハルト様が『護り石』の贄とされそうになっているともっと強く主張すれば、動いてくれるのでは……! レオンハルト様が動かねばこちらから『聖女』様と連絡が取れないかもしれないのだから……!

 

「レオンハルト殿下が、『護り石』の贄とされてしまう! 誰か殿下を……レオンハルト殿下をお助けしてくれ!」


 パウロは叫び続けたが、衛兵によって猿轡を咥えさせられそうになる。


 ――しかし、その騒ぎを聞いた者達が集まり、そこに声がかかる。



「……これはいったい何事だ?」


 パウロがハッと声のする方を見ると――


「これは、テオドール殿下! この者は王太子殿下とオスカー殿下に危害を加えようとしたとして牢に入れるよう命じられたのでございます」


 そこにいたのは、第2王子テオドール。衛兵は敬礼し事情を話す。


「この者が、兄上とオスカーを? まさか……」


「いえ! コレは両殿下お2人よりの仰せでございましたので、確かでございます」


 訝しむテオドールに衛兵が丁寧に説明をする。


「! 兄上もそう仰ったのか? ……お前は、兄上の側近でありながら何故そのような事を……!」


 テオドールは怒りの表情でパウロを見た。


「……テオドール殿下! レオンハルト様が……、レオンハルト様がオスカー殿下に『魅了』にかけられました……! そしておそらく『護り石』のところに連れて行かれたのです! 早くお助けせねば! どうか……どうかお力添えを!!」


「……なんだと……!?」


 テオドールが表情を変えた。






 ……辺境の地の街の外れ。

 強固な塀に囲まれているはずのこの街は実際のところこの200年の平和の内に所々塀が崩れ人が自由に出入り出来る箇所が何ヶ所かあった。

 敵が来る事など滅多に無く、魔物もいないこの王国で小さな穴だと放置された。普段は門から抜けるのを面倒だと地域の者が通り抜ける便利な抜け穴だったのだが……。


 子供達がいつものようにその穴を抜け外の様子を見に出てウロウロとしたところで魔物に見つかってしまったようだ。


 ローズがそこに『転移』した時、まさに子供に襲い掛かろうとする大トカゲの魔物がいた。

 鋭い爪が子供を切り裂こうとした時……。


防御シールド


 ローズは子供に防御の魔法をかけ、魔物の攻撃を止める。


 攻撃を邪魔された魔物は驚き、もう一度攻撃しようとするがまた跳ね返される。魔物達は周りを見渡した。……そこには1人の人間の少女。


「……こんにちは。ダメよ? こんな可愛い子供達を攻撃なんかしては……」


 ニッコリ笑って鮮やかに自分達の攻撃を止めてみせた少女に魔物達は大きく動揺した。


 ……魔物達も魔力を持つ生き物。相手の魔力を計る事は生き抜く為に必須の能力。この場にいる魔物は全て正しくローズの魔力を感じ取った。


 ジリ……、と後ずさる魔物を見て、ローズは子供達を促す。


「……さぁ、あなた達も早く戻りなさい。そして中から穴を塞いでね」


 子供達は恐怖で引き攣りつつ、必死で頷き穴に入っていった。

 ……ローズはそれを確認し、また魔物達に話しかける。


「ここにいるあなた達の、こんなにたくさんの種族をまとめるリーダーは誰かしら?」


 ローズはこの周り全体にいる魔物達の気配を辿りながら尋ねた。


 ……大きな、巨大な魔力が近付いてくる。



(……コレは、何事だ? お前はいったい何者だ?)


 ――そこに現れたのは。


 それは美しい、銀のフェンリルだった。






お読みいただき、ありがとうございます。


弟王子2人は会議の話を聞けませんでしたが、テオドールは朝のレオンハルトとの約束通り、近くの貴族達に会議の内容を確認しました。

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