63 会議の終わり
……そして。
「……我が国は……、神に愛され守られた国では無かった……、のか……」
誰かがポツリと呟いた。
「では……では……我が国が今まで周辺国にしてきた事は……。神に愛されし国との事で、随分と失礼な態度をとり続けていたのだぞ……」
「……そして我が国は神に見放され、魔物達が押し寄せ、他国の軍も攻めてくるかもしれぬということか……」
「……この王国は、もう終わりだ……!」
次々と貴族達に悲壮感が漂う中、レオンハルトは声をあげた。
「――私は、我が国の『聖女』様よりあるお話をいただいている! 我が国を助けてくださる手立てがあると」
その瞬間、貴族達は希望を見出し喜びの表情となる。
「……しかし! それには当然ながら『条件』がある。一つ目は、この国の『魅了』を持つ王族達の排除。そしてもう一つは、『王国の守り石』を廃棄する事」
ザワッ……!
貴族達は騒めき、国王は激昂した。
「何を……、何を言い出すのだ!! レオンハルトォッ! お前は自分だけ『魅了』を持たぬからと、そのような話を持ってくるとは……! 親を売るのかッ! 恥を知れぇッ!」
国王は先程まで我が子を『贄』にしようとしていた事も忘れ、怒りに任せて叫んだ。
「……これは、私が言い出したことではありません。……それに父上、あなたが子である私にしようとしていた事と、何か違いがありますか?」
多少は思うところはあるもののそれでも怒りの治まらない様子の父王を、レオンハルトは静かに見つめながら冷静に答えた。
……幼い頃から、ずっと父の愛が無いことを感じ悩んでいた。そして昨日ローズからこの話を聞いた時、国を守る為には非情になる事も必要なのだと、そう思い知った。父王が国を守る為に子である自分を犠牲にしようとした事も、それしか手がないのであれば仕方ないのかも知れないと。
……ただ、本当にそれしか手が無かったのか? あの『王国の守り石』には相当な魔力の注入が必要だという。おそらく、帝国に仕える魔法使いやローズ程の力を持っていれば命に支障なく済むのだろう。……しかし、父王が今まで必死に魔力の高い魔法使いを探していたという印象はない。
――父王は、それなりに魔力の高い子が生まれた事で、最初から他に魔法使いを探そうという気がなかったのだ。
「これは、伝説のエルフ族から『聖女』様に出された条件だそうだ。この条件を呑めるならエルフ族は今魔物達の暴走を止めるように取り計らい、そして魔物達と平和に共存出来るように我が王国の各街に魔物除けの結界をしてくださると、そう仰っているのだ」
貴族達は複雑な様子だった。
「その……、その条件を呑んでも、魔物がこの国にはいってくる、というのは決定事項なのですかな?」
「魔物と共存など、出来るはずがない! そして『護り石』の事が他国にバレれば我が国の立場はない。結局は攻めいられるのでは……!」
「そうだ! エルフ族のその条件には他国の攻撃の事は入っていない。結局は我らはエルフや他国に蹂躙されるのではないか!?」
貴族達は考えられる不安を挙げてきた。
「貴公らは、エルフ族の存在を、他国から見たその立ち位置を分かっているか? エルフ族はまさに神に選ばれし一族。魔力やその命の長さも人間とは比べ物にならない。そして、妖精や魔物達とも友人としている。その彼らが我らに手を差し伸べてくれているのだ。他国もそれに倣うだろう。
そして――」
貴族達は息を呑みレオンハルトの言葉に聞き入る。
「――今、この話を受けないで選べる我らの道は、このまま魔物達の暴走で多大なる被害を受けその後攻めて来た他国に全て奪われるというだけなのだ。
『護り石』を発動させたところで、魔物達のいない我が国に他国が攻め入り易くなっただけの事。この混乱に乗じて攻めいられる事に変わりはない。
――さあ、どうする? どの破滅を、受け入れるのか?」
いたく冷静に皆に問いかけるレオンハルトに、周囲の貴族達は黙り込んだ。
――他に、方法などないのだ。
「……何をっ! 何を言うておる! 他国が我が国に攻め入る事などない! 実際この200年に渡り手出しをされる事などなかったではないか! 出鱈目を申すな! レオンハルトッ!!」
国王が我慢しきれずに叫んだ。
貴族達も一瞬「それもそうだ」と希望を持ったが――
「今までは、我が王国の王家に現れる『魅了』の能力を恐れ、他国は手出しが出来なかったからで……」
「ほら! そうであろうッ!! 他国は、我が国のこの偉大な『魅了』の能力を恐れ手を出せぬのだぁッ!」
レオンハルトの言葉に被せるように必死で言った国王だったが、一気に言い切りゼイゼイと呼吸を整える間にレオンハルトは言った。
「――今までは、手出し出来なかった。……しかし、お忘れか? 先程国王陛下の『魅了』を跳ね飛ばした『力』を」
そう言ってレオンハルトは自分の胸にかけられていたペンダントを皆に見えるように持ち上げた。
皆、ハッとそれに見入った。
「これは、『魅了』避けの『お守り』。『魅了』をかけようとすれば先程のように跳ね飛ばされる。……これは教会で開発され、世界各地に広まってきつつあるとのこと。おそらく各国の首脳陣には行き渡っているだろう。
……父上、もう『魅了』は効きません。もう、『抑止力』ともなり得ないのです」
「……ッ!! ……そ、んな……。そんな、馬鹿な……!」
国王は真っ青になって膝から崩れ落ちた。
側近達に支えられるも、まだ40代前半の国王はもう立つ事もままならなかった。
それは貴族達も同じようなものだった。
皆一様に、蒼白となり力を落としたようだった。
その中で1人、宰相であるシュナイダー侯爵が前に進み出た。レオンハルトは彼と目を合わせ、お互い頷き合う。
「……採決を、取らせていただく。我がアールスコート王国に起こったこの危機。救いの手を差し伸べてくださる『聖女』様のお言葉に、賛成の者は挙手を願う!!」
司会である宰相がそう皆に語りかけるも……、貴族達は呆然と前を見るのみ。
そこにレオンハルトも前に出て声をかける。
「皆の者! ぼうっとしている場合ではない! 今この瞬間にも我が国の誇る騎士団は無駄に魔物達と戦って命を落とすやもしれぬのだ! この国の大転換期、迷うのも分かるが我らに与えられた唯一の救いを逃すとどうなるのか、よく考えるのだ!」
少しずつ、貴族達の目に光が灯り始めた。
「……そうだ……。迷っている間にも、騎士団が……」
「我が家の三男も行っているのだ! なんとしても、生きて帰ってもらわねば……!」
「被害を最小限に抑えるには、『聖女』様のお言葉に縋るしかない……!」
貴族達の気持ちが、少しずつレオンハルト側に近付いてきた。
「レオンハルト……! お前は、『魅了』を持たぬお前だけが王族として残ろうというのか……! そして、次の王になろうと……! なんたる不届き者だ……。さては、お前は他国と通じ、『聖女』をたらし込み思い通りにしようとしているのだな……!?」
この会議の間に一気に老け込んだ国王がレオンハルトに掠れる声で叫んだ。レオンハルトはそんな父を真っ直ぐに見据え答える。
「――私は、このアールスコート王国の未来の最善を考えるだけです。私が国王になるが最善か弟達のどちらかか、それともエルフ族や他国が指名する第三者か……。この王国の人々に最も被害が少なく済む方向で構いません」
これは、今のレオンハルトの真実の思い。
――昨日ローズに言われて……考えた。そして気付いたのだ。……今までは、この国の王となる事だけを考えて生きてきた。
しかし、自分が興味のある事やりたい事は、また別にあるのではないかと気が付いた。勿論王子として生まれた以上、求められればその地位に就きやり遂げる事はやぶさかではない。だが、もしも思うままに生きてもよいと言われたのなら……。
「レオンハルト殿下……。私は、貴方を支持いたします。貴方様は幼き頃から人知れず大変な努力をされてきた。王子としても国1番の魔法使いとしても……。この先他国が絡んでくる事でこの国の進む先がどうなるかは分かりませんが、今はレオンハルト殿下を信じて付いていきたいと存じます」
そう、声をあげたのはこの国の宰相シュナイダー侯爵。侯爵は宰相という立場からずっと国王や王子達を見てきた。国の為になるならばと国王に従いはしてきたが本来彼は中立の立ち位置だ。
宰相が中立の立場をとると知る者たちはそれを見て確信した。自分達が進むべき道がどれであるのかを――。
「……私も、レオンハルト殿下を支持いたします」
1人の貴族が追随したのを皮切りに、次から次へと貴族達はレオンハルトに味方した。
国王が青褪めるなか、貴族達の気持ちは固まった。
……レオンハルトは父王の方に振り返り、その目を見て語りかけた。
「……陛下。どうぞ民のことをお考えください。このまま他国に攻められ占領されれば国民にも被害が及びましょう。先祖伝来の土地を荒らされ、命や財産を奪われるような事にさせてはなりません。……変化を、恐れないでください。きっと後の世には陛下の御英断が評価される日が来るでしょう」
国王はその言葉を聞き、目を閉じジッと考えていた。……暫くして目を開き、レオンハルトの顔をしっかりと見て……頷いた。その瞳には先程までの邪な光は消えていた。
――そうしてこの歴史的な会議で、アールスコート王国の意見は無事まとまり変革の道へ進みだしたのである。
お読みいただき、ありがとうございます!
レオンハルトは国王や貴族達を一つにまとめあげることが出来ました!




