61 運命の会議
王宮の謁見の大広間。
昨日と同じ会議の部屋には出立した騎士団関係者を除くほぼ同じメンバーが揃っていた。
宰相シュナイダー侯爵が、会議開催の挨拶をする。
そして始まった会議では、格段昨日と変わった新たな情報は無かった。
「物見達の報告によりますと、あの辺りには今深い霧がかかっており魔物達も身動きがとれないようであの場所にまだ留まっているようでございます」
比較的魔力の高いエイマーズ公爵のこの情報が1番最新といえた。
「なんと! それはやはり、我が国が神より愛されし国だからという事ですかな?」
「それならば、このまま魔物達は騎士団達に追いやられ、この国から出ていくのでは……! そのあと魔法師団達で結界の穴を塞ぎ、陛下に『勇者の守り石』に祈りを捧げていただければ、全て上手く収まるのでは?」
そんな、なんとも甘い都合の良い考えが飛び交っていた。
「そうなる事が1番良いが、とにかく最悪の事態も考えておかなければなりませんぞ。もしも騎士団達の手に負えず、魔物達がこの王都に雪崩れ込んできたら、という想定で考えておかなければ!」
「そんな縁起でもないことを! 我が王国が誇る騎士団がそのようなことになるはずがないではないか!」
「それでは貴公は、この王都の手前まで魔物がやってきた時、どう対処するつもりなのだ! 寸前で気付いてなんの準備も出来ていなければ王都はあっという間に魔物にのまれてしまいますぞ!」
紛糾しまとまらない会議。レオンハルトは暫く彼らの様子を見ていたが、皆がある程度意見を出し尽くしヒートダウンしたところで静かに手を挙げた。
宰相がそれに気付き、「レオンハルト殿下、お言葉をどうぞ」と促す。
レオンハルトは立ち上がった。後ろにはパウロが控えている。
「――今、我が国にこれだけの魔物が入って来ているのは、『勇者の守り石』の力が弱まっているからだ。
そして我が国のこの『勇者の守り石』。……これは本当は神から授かったものではない。元は約500年前に他国の勇者が倒した古のドラゴンの魔石。それが回り回って我が国に来て、約200年前に我が国の当時の強力な魔法使いにより『魔物避け』として作り上げられたもの」
そこで、血相を変えた国王が立ち上がった。
「ッ! レオンハルト! 何を申しておるのだ!」
突然のレオンハルトの発言内容に驚く国王。息を呑む貴族達。
このアールスコート王国の正当性を表す唯一の証拠である、神より授けられし『勇者の護り石』。それをただの一魔法使いが作った、などという事はとてもでは無いが聞き流せない。国王には決して認める訳にはいかない話だった。
……しかし、貴族達も各家の伝承でこの国の真実……神の天啓など無かったという事を知っている者も中にはいるのではないか?
そう考えながら大広間にいる貴族達や国王をレオンハルトは一瞬目をすがめて見てからまた話し出した。
「……その魔石の力が弱まり空いた隙間から、たくさんの魔物が雪崩れ込んだのだ。今回の魔物達は報告から考えると帝国クラスの魔法師団でなければ対処するのは難しいと思われる。
……そして、この一連の動きはおそらくは他国にも伝わっている。仮に今回魔物達を追い返す事が出来たとして、その背後から他国の軍が我が国に攻め入って来ると考えられるのだ」
途端に貴族達は次々に騒ぎ出した。
「ッまさか!! 魔物の次は他国が我が国を攻めるなどと……!?」
「我が国は神の天啓を受け神に愛された国ではないのか!?」
「帝国クラスの魔法師団でなければ魔物を抑えられないならば、我が国の騎士団はもしや全滅……? そしてそのあと他国が攻めてくるのなら、我が国には最早どうする事も出来ないではないか!」
「もしや、あの魔物達は全部他国の陰謀なのでは!?」
「どうするのだ! 頼みの綱の騎士団はもう出発したのだぞ! だから儂は反対したのだ!」
「何を言う! 貴公が率先して騎士団に行けと言ったのではないか!」
「いや、全て陛下が仰ったのだ! 騎士団と魔法使い達に魔物の所へ向かえ、と!」
最早大広間中が収拾のつかない有り様だった。
国王も、貴族達が必死に怒鳴り合い擦り合い、いつ自分に飛び火が来るかと若干冷や汗をかきながら見ていたが……。国王は自分にはまだ切り札があったと思い直す。
「……皆の者! 鎮まるのだ! ……確かに今、我が国の至宝である神より授かりし『勇者の守り石』は弱っておる。しかし、この会議が終わればすぐに復活させる事が可能だ! 皆の者、心配せずとも良い! 再び魔物達を追い出し、このアールスコート王国の栄光を取り戻すのだ!」
国王は自信ありげにそう宣言したが、貴族達の反応は半々、といったところだった。
……復活させられるならばさっさと復活させれば良かったのだ、何故今こんな状況になるまで放置したのだ? そして魔物の脅威が去ったとしても、次に他国の軍が攻めてくるのではないのか? と、貴族達はそんな思いで国王を冷たく見つめた。
そんなモヤモヤとした空気を打ち消すように声が響く。
「……陛下。もう、『護り石』が復活する事はございません。何より、私は力を貸すことはありません!」
レオンハルトが冷たく国王に言い放った。
そんな息子に一瞬怒りの表情を見せるも、すぐに思い直したのか国王は取り繕ったような笑顔でゆっくりとレオンハルトに近付く。
「……のう、レオンハルトよ。今日はいったいどうしたというのだ。いきなり世迷言を申したりこの父に反抗してみたり……。このような非常事態が立て続けに起こり、国が不安定でお前も疲れているのかもしれぬな。……さあ、レオンハルトよ……」
国王はレオンハルトの肩に手を置き、優しく語りかけ息子の目を見つめた。
――レオンハルトは、静かに父王の目を見た――。
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