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59 フェリシアへの告白



 フェリシアは聖国の教皇の妹である母に似て銀髪にすみれ色の瞳の美少女。『金獅子』と呼ばれたラインハルトの金髪碧眼とは色彩は違うが、その正義感と思い切りの良さ、そして不意に見せる雰囲気がラインハルトに通ずるものがあった。


「…………フェリシア。……これは魔女マイラが、リンタール帝国での友人だったラインハルト バートン様からお預かりした物。……その後ラインハルト様はご不幸な事になり、このペンダントは返せないまま魔女マイラも封印してしまってあったの」


 ローズが持っているバートン公爵家の紋章の付いたペンダントが、まさかの200年前の先祖が持っていた物だと知りフェリシアは驚く。


「……200年前の……? 我が家の祖先であるラインハルト様の話はよく聞いて知っているわ。この王国の王族に『魅了』にかけられて仲間を裏切らされ、失意の内に非業の死を遂げた悲劇の若き騎士団長……。我が帝国が、……我がバートン公爵家がこのアールスコート王国を憎む最も大きな理由なのですもの。だけど、そのラインハルト様と魔女マイラが何かあった、なんて話は聞いた事がないわ!」


 困惑した様子のフェリシアに、ローズはどこまでを話そうか少し悩んだ。


 ……また、マイラの日記や何かだと話す? 

 ……けれど、マイラのラインハルトへの想いはそんな日記などでは表せない。まだ、彼への想いは自分の中では未消化で……。


「…………ラインハルト様とは、まだ戦争の最中に出会ったの。私はどうしても有名な帝国図書館に行ってそこにあるはずの魔道書を読みたくて……」


 ローズがそう話し出すと、フェリシアは怪訝けげんな顔をしてローズを見た。


「……帝国の結界をすり抜けて入った私に気付いたラインハルト様は、けれど夢中で本を読む私をそのままにしてくれたわ。そして愚かな戦争に加担しないのであればその貴重な魔導書を貸してくださると仰ったの。私はそのお礼に攻撃をして来た相手にその攻撃を跳ね返すお守りの魔石を作って渡したのだけれど……後で聞いたら、本当はあの本は貸出禁止だったのよ」


 思い出しながら、クスリとローズは笑う。フェリシアは驚愕の表情をしていたが、構わず話し続けた。


「……1週間で本を返すと約束して、それからの私はその図書館に週に一度決まった時間に通うようになった。……そしてそこにはいつもラインハルト様が待ってくれていた。初めは、私を監視する為に来ているのかと思ったけれど、そうじゃないって私もだんだん気付いてきたわ。

……彼と過ごす時間はとても楽しくて、そして彼はとても博識でそれでいて私の話もとても楽しそうに聞いてくれた。

……それから半年位経った頃、この旧カルドラ王国が帝国のある地方都市を攻めてきて、ラインハルト様は騎士団長としてその地へ向かう事になった。……その時に、コレを……。この、ペンダントを私に渡して言ったの。『この戦いが終わったら伝えたい事がある。それまで預かっていて欲しい』って……」


 ……ダメだ。やっぱり何度思い出しても涙が出て来てしまう……。ローズは流れる涙を手で抑えた。

 ……そしてふと前を見ると、フェリシアも涙を流していた。


「……そんな……。ローズ、……貴女は……貴女はマイラ、なの……!? ……ラインハルト様の最後は勿論知っていたけれど……。彼は史上最年少で騎士団長に選ばれ『金獅子』とまで呼ばれた方。大変な美丈夫なのに独身で女性には見向きもされない方だったと聞いていたわ。

それが、魔女マイラの事がお好きだった、なんて……。そして、マイラはローズで……!? ……ちょっと待って……! ローズ、貴女私を驚かせ過ぎよ!?」


 情報が多過ぎて混乱し訳が分からなくなってきたフェリシアを見て、ローズは涙を流しながらも彼女を宥める。


「……落ち着いて、フェリシア。 えーと、ラインハルト様はマイラを『好き』と言った訳ではないのよ? ただ、待っていて欲しいと言われただけで……」


 少し自信がなくなってきたローズはポソリと言うが、それを聞いたフェリシアはキッとローズを見て言う。


「それはどう考えても『好き』に決まってるでしょう! ……ッ! ああそうなのね……。我が帝国にあれ程たくさん魔女マイラ関係の物や魔石があるのは……、それでなのね?」


「……そうね、あの半年程は毎週帝国図書館に通っていたから……。当時の魔法師団副長メルケル様にも良くしていただいて、色んな魔石を作ったりしてみたわ……」


「魔法師団副長メルケル……? え! それは我が帝国が誇る魔法師団総長であった大魔法使いメルケル様の事!? ……マイラの魔石を活用する事を生きがいのようにされていたとは聞いた事があるけれど、それはマイラと実際に関わっていたからなのね! ッ!! じゃあさっきの話の『攻撃を跳ね返す魔石』って、我が帝国の国宝『魔女の瞳』の事なのね!」


 国宝? そういえば夕方にミゲルもそんな事を話していたわね。


「『魔女の瞳』? かどうかは分からないけど、幾つかメルケル様には魔石をお渡ししたわね……」


「ローズ。……貴女もしかして……。マイラの出来た事は今も出来る、という事なの……?」


 フェリシアは先程までの興奮が急にピタリと止まり、恐る恐るといった様子でローズに問いかけた。


「……そうね、だいたいのところは……」


 それを聞いたフェリシアは、目を見開いたままたっぷり30秒は固まった。


「フェリシア……? フェリシア、大丈夫!? ……『回復』!」


 動かないフェリシアを心配してローズは回復魔法をかけた。


「……はっ! あ、ええ……。大丈夫よ。少し……いえかなり、驚いただけ……。……はあ。そういう事……。稀代の魔女マイラ……。そりゃ何でも出来るはずだわ……」


 フェリシアはまるで無理矢理自分に言い聞かせるように呟いた。

 そして自分の頬を叩き更に自分を奮い立たせると、ローズをじっと見つめる。


「今の我がリンタール帝国が盤石なのは、貴女のお陰よ。マイラの時あれ程人の為に尽くし戦争を収めそして哀しい最期を迎えた貴女には、今世は思うままに生きていって欲しいと私は思う。……だから、本当に必要があると思う時まではこの事は誰にも言わないと約束するわ」


 真剣な表情でそう言ったフェリシアはローズの手をそっと握った。ローズは先程までの哀しい想いは消え、温かい優しい気持ちに包まれる。……いつの間にか涙は止まっていた。


「……ありがとう。フェリシア。私も大切な貴女を守れるよう努力するわ」


 そして2人はふふと微笑み合った。


「ローズ。貴女これからまだ『御守り』を作るのでしょう? 仕分けて袋に入れていくのを手伝うわよ。明日に備えて貴女も早く身体を休めた方がいいわ。私は今なんだか絶好調で……。あ。もしかしてさっきのローズの回復魔法?」


 なんだか気持ちも身体もみなぎっていたフェリシアが気付く。


「そうかもしれないわね。……あ。騎士団の方々はポーションも必要かしら?」


「私が準備をするから、ローズ貴女は作業に集中して頂戴! ポーションの瓶は足りてる? 大司教様にお話ししていただいて来た方がいいかしら……」


 俄然やる気になった2人は作業を開始した。





お読みいただき、ありがとうございます!


とうとうローズはフェリシアにもマイラだった事を話しました。

フェリシアもローズの今までの規格外の状態を知っているので、ストンと納得しました。

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