58 公爵家の紋章
――時は少し遡る。
レオンハルト達と王宮で話したローズはダルトン子爵邸に戻った。
そして『念話』でミゲルに話しかける。ミゲルはローズの『お守り』という共通点を持っていたので案外簡単に繋がった。その『念話』で今日のレオンハルトとの話をミゲルに伝えると、ミゲルはその話も全てエルフの『長』に伝える、今のところ一部反対する者もいるものの、長の感触は良いとの事だった。夜にでも結論は出るらしい。
そうして父と弟リアムにも今この国で起ころうとしている事を話した。2人もこの国に何か大きな気配が近付くのを感じていた。
「私は今から教会へ行って、『御守り』をたくさん作ってくるわ。お父様とリアムはいざとなれば『結界』を張って自分やこの周りの人達を守ってね」
父とリアムは幾つか魔法を使えるようになっていた。そして『結界』は何かあった時の為に1番先に伝えていたのだ。
「分かった。こちらは大丈夫だからローズもくれぐれも気を付けてな。私達に出来る事があるのなら言ってくれ」
「僕も『転移』まで使えるようになっていたかったな……。この騒ぎが落ち着いたら絶対に教えてね! 今はとにかくこの辺りは守れるようにしっかり頑張るから!」
ローズは2人の魔力の成長ぶりに安堵した。……今の2人は本来の能力の半分程の魔力を戻してある。昔からお世話になったこの街の人々を守れる位の力はあると思う。
そして2人にいったん別れを告げ、ローズは教会に『転移』した。
「ローズ。……入ってもいいかしら?」
ローズが教会の『聖女の部屋』でサイラスから預かった魔石から『お守り』を作っていると、扉の前に見知った気配がした。
「……勿論よ。どうぞ入って、フェリシア」
扉が開き、制服からきちんとしたドレス姿になったフェリシアが入って来た。……どうやら、どこかへ出掛けるようだった。
「ローズ。私はお父様からの呼び出しにより、いったん帝国に帰ることになったの。……貴女も、気付いているのでしょう? この気配に」
この王国の辺境の地に集まる強力な魔物達の集団。その為にフェリシアは心配した実家から戻るように命じられたらしい。
「……ええ。今はあの辺りは深い霧が出ていて、魔物達は動けずにいるのだけれどね」
ローズがそう答えると、フェリシアは驚きそしてため息を吐いた。
「……そうよね。貴女はそこまで見透かせるのよね。……あの周辺の人々は無事なの?」
「大丈夫よ。あの街には今は結界が張ってあるから。魔物達と対峙した兵達もあの街に逃げ込んでるはずよ。この王国の結界の隙間の向こうにも霧がかかって今は入る事も出来ないわ」
「……それってきっと、自然の霧、ではないのよね……。ああ、貴女にかかると何が普通なのか分からなくなってしまう」
そう言って頭を抱えるフェリシアに苦笑するローズ。
「明日の早朝には王国の騎士団が出発するそうよ。コレはその為の『お守り』なの。
……私、魔物は人々とは相容れない存在なのかと思ってたわ。魔物も神よりこの世界に棲むことを許された大切な存在だという事を良く分かってなかった。今日ミゲルに言われて目が覚めたの」
「……ミゲルに? そうね、彼はハーフエルフだったわね……。自然や妖精と共に生きる存在であるエルフ。彼らにとっては魔物も大切な存在なのね。まあ私達帝国の人間から見ても、魔物は厄介な存在ではあるけれど居なくなったらそれはそれで困るわ。だって、彼等を冒険者が狩って魔石や貴重な物質が手に入ったり害獣を食べてくれる存在でもあるもの」
「そう……。やっぱり帝国の人達も魔物の存在を認めているのよね」
「……だけど、こんなに強力な魔物が一気に押し寄せてくるのは別よ。ここまでくれば我が帝国でも魔法師団を中心とした特殊な部隊で対処しなければ、国の存続にも関わってしまうわ。……だけど、厳しい事を言うようだけれどこのアールスコート王国の魔法使いや騎士団ではあの魔物達の対処は難しいと思うわ。先程教会でも教皇であるおじさまから結界を張る魔道士が派遣されて来ていたわ」
「そう。……良かったわ。今はコレを作るのに手一杯だから……」
ローズはそう言いながら横に置いたたくさんの魔石をチラリと見た。
「……そういえば、それは『お守り』? 騎士団の方に渡すと言っていたけれど、魔物達に『魅了』避けは効かないわよね? あ、『魔法防御』も付いていると言ってたから……? あら、これって……」
フェリシアはローズから完成した『お守り』を渡され、それをジッと見る。……そしてみるみるワナワナと震え出した。
「ローズ、コレって……! なんなの? 凄い力を感じるのだけれど……! これはあの『魅了』避けの『お守り』ではないのね?」
ばっと顔を上げて見てきたフェリシアに、ローズは苦笑する。
「ええ。コレは『魔法防御』と『物理防御』に特化したものなの。これを騎士団の方にお渡しする事になっているわ。……これで解決出来るとは思わないけれど、騎士団の方はとりあえず今回は魔物達を追い返す位は出来るかもしれないわ」
そう言うと、フェリシアは頭を抱えた。
「……本当に……、ローズったら規格外なのだから! こんな事が帝国や他国にバレたら、貴女は本当にあちこちから狙われてしまうわよ? 本当は私と一緒に帝国に来てもらいたいんだけど……」
「ごめんね、フェリシア。私は行けないわ」
「分かってるわよ。……だけど、貴女も気付いているのでしょうけど、帝国では今この機会にこの王国へ兵を入れる話も出ているようなの。おそらくは他国も気付いているでしょうからもしかして各国と連携していくかもしれないわ。……ローズ、貴女はそれでもここにいるの? ダルトン子爵家ごと我が帝国に移住してもいいのよ?」
フェリシアは心配そうにローズを見ながら言った。
「……私はここで生まれ育ったの。この国に住む皆にとても良くしてもらったわ。私はこの国の人達を捨てていく事は出来ない。……でもありがとう、フェリシア。貴女は私の、とても大切な友人よ」
「ローズ……」
フェリシアは少し泣き笑いのような顔をして、ローズの手を取ろうと近付いた。
「……私にとっても、貴女はとても大切な友人よ。
……? ねえローズ……、貴女のそのペンダント……? 見せてもらっても、いい?」
ローズは王宮に行く時誰かに見られて怪しまれないように、いつもより襟ぐりの広い少し良い目の服を着ていた。その為制服を着ているより胸元が少し開いていて、付けていたペンダントがチラリと見えてしまったらしい。
ローズは思わずペンダントに手を触れる。このペンダントは……、今のローズのお守り代わりになっている、前世のマイラの大切なもの。……そう、コレは……。
「フェリシア、コレは……」
そう言って誤魔化そうとしたが、フェリシアは気付いてしまったようだった。……だって、コレは。
「ッ!! それは……! 我が家の……、バートン公爵家の紋章!? どうしてそれをローズが持っているの……!?」
フェリシアが自分の家の、バートン公爵家の紋章に気付かないはずはなかった。
……そう、フェリシアは前世マイラのリンタール帝国での友人だったラインハルトの、兄の子孫だった。
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ローズはマイラが地下室にしまってあったラインハルトのペンダントを、お守りがわりに付けるようになっていました。




