57 レオンハルトの決意
……レオンハルト殿下は、どうお思いになられたかしら……。
ローズは一通りの事を説明し終わると、レオンハルトをじっと見つめた。
彼は眉間に皺を寄せ、目を閉じて考えていた。
ある意味、こちらの提案を呑まないと後はない、と言ったも同然の内容だった。……けれど哀しいかな、これは全て事実なのだ。
熟考するレオンハルトを見ながらも、ローズは遠く世界の街街を『遠視』で探る。各国の首脳陣は慌ただしく動いている。……兵達の招集もされているようだ。
……あれだけの強力な魔物達が一気にアールスコート王国に雪崩れ込んだのだ。その魔力の移動の異常性を各国の魔法使い達はヒシヒシと感じているに違いない。
ローズはとりあえず辺境の街には密かに軽く結界を張り、濃霧を起こし魔物達の動きを抑えている。彼らはまだ辺境の地周辺で身動きが取れない状態だ。この国の兵士達も辺境の街に逃げ込み、今はあの辺りは小康状態となっている。
――これは、あの200年戦争の罪を償わなかったこの王国の、果たすべき贖罪……来たるべき時が来た状況なのだと思う。この王国はある意味200年時が止まったような状態だったのだ。今、進まなければこの国はきっとジリジリと追い詰められいずれは破綻する。
『魅了』さえなければ、この国はとっくの昔に攻め込まれ別の国に飲み込まれていたのかもしれない。だが、本当はそうなるべきだったのだ。なまじ他国が手を出せないまま、権力を持ち続けた王族達。
周辺国の状況も分からずこの国から出れば魔物がいると恐れ、王国側の言う事を信じるしかなかった国民たち。
確かにこの国に魔物はいないが、生態系が崩れたこの国は一部の動植物が大量発生し、その被害は拡大している。
この王国は内部から緩やかに腐敗していっているが、その中にある人々はなかなかそれに気付けないものだ。
――そんな事を考えながら、ローズはゆっくりとレオンハルトを見た。
レオンハルトは悩んでいた。
……ローズの言った事は全て納得出来る事ばかりだった。レオンハルトだとて本当は彼女の話に無条件で頷いてしまいたい。
しかし。
とかく人間というものは、手にしていた安定を離したがらないものだ。
200年もその体制が続いていたのだからそれも仕方がないのだろう。
……国王や王家の人間、貴族達、そして国民たちを納得させる事が果たして出来るだろうか?
いや、納得させるだけの時間もおそらく殆どない。既に魔物達はすぐそこまで来ている。そして明日にでも父王は自分を『魅了』し『護り石』の贄にするつもりなのだから。
だが、そうしたところで結局はその後他国に攻め入られるのだ。
――そうなれば、やはり答えは一つしかない、か……。
レオンハルトは暫く考えた後、ゆっくりと息を吐き目を開いた。……それは何かを決意した者の瞳だった。
「……私は明日、皆の出発を見送りその後父王達と対峙する! ……そして彼らを説得し、エルフの信頼を得るに足る答えを出してみせる! ……おそらく父王も貴族達もローズ嬢の言ったこの考えに反対するだろう。しかし初めはそうでも、世界の情勢の事実を伝え彼らを考え直させてみせる。
……いずれにしても、私はこの国の『護り石』の贄にはならない。ここで魔法使いの犠牲を止め、そして過去の過ちの精算をし近隣の国々とも正常な関係を結ぶべく動いていく事とする!」
レオンハルトの宣言に、騎士団長サイラスと側近パウロはその言葉を敬意を持って受け取り、騎士の誓いをする。
「殿下の御心のままに! 私は最後のその時まで殿下にお供いたします!
「レオンハルト様! 私も貴方様のお側に。私はいついかなる時も貴方をお護りいたします」
「ありがとう。サイラス。パウロ。
……ローズ嬢。面倒をかけるがエルフ達との連絡を頼めるかい?」
レオンハルトのその決意に、ローズも気を引き締める。
「承知いたしました。今のお言葉そのままを、エルフの方々にお伝えいたします」
そして、この4人の心は決まったのだった。
――次の日の早朝――
アールスコート王国の王宮の前には騎士団が整列していた。そしてその前のバルコニーには国王を始めとした成人した王族が並んでいた。……勿論、レオンハルトも。
「――我が国が誇る騎士団達よ。この王国の為力を尽くすのだ! 我ら王族は『勇者の守り石』に、神に、其方達の無事と此度の使命を果たせるよう祈りを捧げておるぞ!」
国王が騎士団達を鼓舞し、騎士団達はその言葉に頭を下げた。
「――全ては、このアールスコート王国の平和の為に!」
「「アールスコート王国の御為に!!」」
騎士団長サイラスが声を上げ、騎士団達も一斉に声を出した。
「出発!!」
そして騎士団達は整列を組み出発して行った。
……それを見守る王族や貴族達。
――果たして、彼らは無事に帰って来られるのだろうか?
騎士団員には貴族の子弟たちも多くいる。今の王国の状況を知っている貴族達は顔色悪く彼らを見送った。
「……皆、出立したか。時にレオンハルトよ。話がある。王の間に来てくれ」
国王は何でもないかのようにレオンハルトに声をかけた。
それにレオンハルトもにこやかに答える。
「陛下。実は私もお話があるのです。しかし今日はこれから魔物がこの王都に入り込んだ時の為の重要な会議があるでしょう。……お話はその後でもよろしいでしょうか?」
この国の一大事に意外に思い切りの良い様子のレオンハルトに、国王は少し不思議に思いながらも「まあ、それで良い」と答えた。
……息子の最後の願い位、聞いてやろうと思ったのだ。
――しかし、この時国王が無理にでも会議よりも先にレオンハルトを部屋に呼び出していたのなら。レオンハルトの言葉によりこの国の貴族達に不信感を抱かれ自分の思惑が大きく外れていってしまう事にはならなかったのかもしれない……。
お読みいただき、ありがとうございます!
レオンハルトと騎士団は別々の戦いをすることになります。しかし両者とも、一刻も早く自分の役割を果たしてお互いを助けに行こうと思っています。




