56 他国の脅威
そしてローズは真面目な顔になり、レオンハルトに向かい合った。
「……レオンハルト殿下。エルフのお方より伝言をお預かりしております」
レオンハルトは『エルフ』というその言葉に驚く。この国では最早伝説の存在。ほぼ絵本の中にしか存在しないかと思われていた。
――その『エルフ』から私に? そしてローズ嬢はエルフと何か関係が――?
「……聞かせていただこう」
レオンハルトが混乱しながらもなんとかそう答えると、ローズは頷き話し出した。
「この方はエルフの長と懇意にされていて今はその長達に確認をとってくれている最中なのですが……。
彼は、『この王国の『護り石』を廃棄し、魔物との共存をすること』『王家の『魅了』能力者を排除し、この王国を正常化させること』を条件に、今回の魔物達の暴走を止めることと、この国が魔物との共存をする為の策への協力を申し出てくださっています」
「「「!!」」」
――伝説のエルフの協力……! 確かにそれを得られるのならば、『魔物との共存』は可能なのかもしれない。そう3人は思った。
エルフは魔物や妖精と語り合う友人だとされている。そしてその魔力も知力もその寿命でさえ、人間とは桁違いだとも。
「……それは、願ってもいないことだ。エルフ族のご協力を頂けるのならばこの難局を乗り越えることが出来るだろう。……しかし、その条件を聞く事は私の一存では難しい。国宝の『勇者の護り石』を廃棄し、『魅了』の能力を持った王族を排除する事などは……」
レオンハルトは苦しげに答えた。エルフの協力は喉から手が出るほど欲しい。……しかし、その条件は今のこの王国の体制では現実的ではない。
何しろ、おそらく今の国王の子で『魅了』の能力を持っていないのはレオンハルトだけなのだから。特に父王がその条件を飲むとはとてもではないが思えなかった。
「……ですから、レオンハルト様に御覚悟をお尋ねしております。今の王族を排除して国王となられる、その御覚悟を」
ローズのその言葉に3人は雷で打たれたかの如く衝撃を受けた。
勿論、3人はレオンハルトを国王とするべく今まで動いていた。
しかし、今回の話の条件は王家から他の『魅了』の能力を持つ王族……父王や弟達の、排除。それに『勇者の護り石』を廃棄し魔物との共存をすることはエルフが手伝ってくれるにしても、この王国の人々を納得させる事は難しいだろう。
「……勿論、お断りになられても構いません。私の『御守り』はお渡しする事をお約束しましたし、もしかしたら今回は魔物達をいったん引かせる事が出来るかもしれません。けれどこの王国の結界の隙間は埋まりませんし、レオンハルト様が『魅了避け』を持って国王に対抗されればその後の王家の対立構図は決定的になるでしょう。そして殿下が王国の犠牲になると決められたならば、その後も魔法使い達の犠牲は続いてしまいます。
……それに何より、今エルフの国を始めとする他国は王国のこの混乱を黙って放っておくとは思えません」
ローズの冷静なその最後の言葉に3人は震撼した。……確かに、今の状況は他国から見ればこの王国を排除する絶好の機会だろう。200年前の戦争からずっと孤立してきたアールスコート王国。この王国では決して口にしてはならない事だが、おそらく我が国があの戦争を仕掛けて敗戦し、責任もとっていない。だからこそ、今でも諸外国からここまで厭われ友好国ともなってもらえていないのだから。
今の王国のこの状況を知られれば、友好国さえいない世界から厭われた我が国はあっという間に他国に攻め込まれてもなんらおかしくはない。
――仮に今回魔物達を追い払えたとしても、その後ろから他国が攻め込んでくるのかもしれないのか……!
3人は気が遠くなる思いだった。
この王国は、200年前の戦争で他国に非道な行いをし過ぎている。そしてその補償もしていないのだろうという事は、更に相当な恨みをかっていると思われた。
……おそらく、今のこの王国の状況に周辺国は気付いているだろう。あちこちに間者を入れるのは国として常識だ。そして他国には我が国よりも高位の魔法使いがたくさんいるのだ。先程のローズの話を聞くに、『穴』だらけなこの王宮に今すぐに『転移』で入って来てもおかしくない。
「……一つ、疑問がある。今回の魔物の襲撃は他国にとっては予想外の事だっただろうが、それでも周辺国が力を合わせれば我が国に攻め入る事は今まででも充分に可能だったはず。どうして周辺国は今までは何もしてこなかったのか?」
レオンハルトは今まで感じていた一つの疑問を確認することにした。
「……それは、アールスコート王国の王家には『魅了』の能力者が生まれると周辺国が知っているからです。
200年前の戦争時、その能力で世界は掻き回されました。国々の重要な人物達が『魅了』され、その人の人格を奪い仲間を裏切らされ命を落とすという事がたくさんあった……といいます。戦争が終わってからも、この国に入る者は多数『魅了』されたそうで、それで戦後補償などの件は有耶無耶にされて来たそうです。世界は、『魅了』の能力者を持ったアールスコート王国を憎みながらもある意味手を出しかねていたのです。
……今までは」
3人は『魅了』は恐ろしい能力であるものの、国対国で交渉するには有益な場合もあったのかと一瞬考える。しかしこの国の暗黒の部分を考えれば、やはりそんなものはない方が良いのだとは思うが……。
そう思いながらレオンハルトは今それが通用しなくなる、その訳を聞いた。
「……今までは、とは……」
「……お分かりでしょう? 殿下にもお渡しした『魅了』避けの『御守り』です。アレは教会で少し前に開発され、それが世界に広がりつつあります。……もう、『魅了』は絶対的な能力ではなくなったのです。そして起こったこの王国の混乱。この絶好の機会を周辺国が見逃すとは思えません」
3人は、今この瞬間この王国はもう喉元に刃を突き付けられた状態なのだと悟った。
「レオンハルト殿下。……この事を踏まえて私は貴方のお返事をいただきたいのです。貴方のご決断を私は尊重いたします」
ローズはあくまでレオンハルトに、王太子でもある彼にこの王国の未来を決めて欲しかった。
サイラスとパウロもローズの言葉を聞き、レオンハルトの決断を待つ。
「殿下。……私は貴方様のご決断にどこまでも従う所存です」
サイラスがそう言えば、
「レオンハルト様。勿論、私も貴方様の御心のままに」
パウロもそう言って2人でレオンハルトを見つめた。
お読みいただき、ありがとうございます。
(仮)の王太子である自分に王国側を説得出来るのか? と悩むレオンハルトでした。




