55 『御守り』の効果
――この世界では、ドラゴン、フェンリル、バジリスク、角熊、角猪、角鹿、角ウサギ……などの魔物が存在する。中程度以下の魔物で普通の動物との違いは通常の動物より力も生命力も強いことと、何より『魔石』があること。
そして棲む場所も普通の動物よりも山深く、人里離れた所に棲んでいる。人と会うことは余りない。街で暮らしていれば弱い魔物にさえ一度も会わずに一生を終える人もいるくらいだ。
ごく稀に魔物が人里近くに迷い込んで来たり、獲物の動物を追ってバッタリ人と出会ってしまったりするくらい。
あとは冒険者が山に入るなどするくらいで、わざわざ魔物が人を襲いに来るということは余りない。
それでもその稀に魔物の被害に遭った者は、魔物に対して恐怖心が生まれる。そしてその話を聞いた者は、更に恐ろしいモノを想像し恐怖し、そして更にその話を聞いた者は……と、どんどん恐怖は広がっていった。普通の動物による被害でさえ、魔物だったと言われる事もある。
――アールスコート王国に、強い魔物が居なくなって早200年――。
人々は、『とにかく魔物とは恐ろしいモノだ』という恐怖の認識だけを持っていた。この国を出れば魔物がいる。その恐怖から大半の国民はこの国から一歩も出ない。……この国から出るのは余程外国に行き慣れた商人か魔力の強い者、そして国の外交をする者位であった――。
この王国の魔物との関わりを思い出しつつ、ローズはレオンハルトとその側近パウロ、騎士団団長サイラスに向かって言った。
「……他国では、各街に魔法防御を張り魔物が入って来ないように住み分けをしています。今の王国の『護り石』のような国ごとの魔法防御がなくともやっていけるのです。そしてそれ以外の山や草原では魔物が暮らし、生態系が整い動植物の異常発生はほぼなく田畑への被害もそれ程ないそうです。勿論良いことばかりではないかとは思いますが……。
もしも殿下がご決断なさるなら、各街用の『護り石』をご用意いたします。各街用位の大きさならば、さほど大きな魔力は必要としません」
3人はローズの言葉に驚きつつ聞き入る。
「そして、今回騎士団の方にはマクレガー様にお渡しした『御守り』の『魅了避け』のないものを、魔石さえご用意いただけるならお渡ししたいと思います。『魅了避け』は少々複雑な魔法になりますので、『防御力』に特化した物ならある程度の数は魔石さえあれば明日朝までにご用意出来るかと思います」
それを聞いてレオンハルトとサイラスはパウロを見た。パウロはハッと気を取り直し、懐から5つの『御守り』を取り出した。レオンハルトとサイラスは、その『御守り』の魔力に驚く。
「それは……。先に私がもらった物よりも遥かに強力な……!」
レオンハルトは思わず呟いた。そしてサイラスは驚きでそれに見入っていたが、思い出したかのようにローズに問うた。
「……それは? まさか、防御の『護り石』……! 帝国にあると伝え聞く『魔法防御の護り石』なのですか……!? イヤまさか! アレは元は伝説の悪女と呼ばれた『魔女マイラ』が作った物を帝国の高位の魔法使いが真似て作ったと……! それを、どうして貴女が……!?」
サイラスは信じられない、といった様子だった。レオンハルトとパウロもほぼ同じ気持ちだったが、2人はローズがこの国の教会に認められた『聖女』だと知っている。
「サイラス。ローズ嬢は……この国の『聖女』なのだ。それもとびきりの。彼女は世の魔法使いが出来る事は大抵出来るようだ」
レオンハルトは大体のことを『聖女』だから、という理由で収めるつもりだった。勿論、レオンハルトだとてローズの力が規格外過ぎるとはもう分かっている。だが、今は彼女にその理由を問うつもりは無かった。
「レオンハルト殿下!? 幾ら聖女様であっても、イヤ諸外国の高位の魔法使いでもこのような事はそう出来る事ではありません!」
サイラスは混乱し、興奮を止める事が出来ないようだった。
「サイラス殿。この世の『聖女』様や魔法使いが出来ないような事が出来る方が今ここに居ても、別におかしな事ではありません。世界は広い。私達の視野で推し測れない事はたくさんあるのだと……、私は思う事にしました」
おそらく、先にこの『御守り』を渡されたパウロは十分に悩み、この考えに思い至ったようだった。
サイラスは暫く悩んでいたようだったが、深く息を吐き言った。
「……正直、まだ混乱しております。……が、事は急を要します。とりあえず、先に話をお進めください」
そんなサイラスに少し同情の気持ちを抱きつつ、レオンハルトはローズを見て話の続きを促した。ローズも頷く。
「……この『御守り』には、先程もお伝えした通り『魅了除け』と『魔法防御』、そして『物理防御』の効果があります。けれど『物理防御』は10回位しか効果はないものとお考え下さい。……大丈夫ですか?」
その効果を説明する度に驚愕の表情をするサイラスに、ローズは心配になって問いかけた。
「……ッ……。……大丈夫、です……。……あの、その『物理防御』とはどの位の強さの攻撃を防御出来るのですか?」
サイラスは混乱しながらも、自分が戦う事になる魔物との戦い方の想定としてどこまで捨て身で向かって大丈夫なのかを確認しようと質問した。
「そうですね……。角熊の噛みつきや爪攻撃、ドラゴンの爪や尻尾などでの攻撃などならこの『御守り』で大丈夫です。……あ、ドラゴンの炎は『魔法防御』が発動するので数にカウントされません!」
例えを考えながらローズが言うと、3人はまた固まる。
「ドラゴン……。ドラゴンの攻撃も、防御すると……。それならば、ほぼ無敵で相手に向かっていって大丈夫ということ、なのですか……」
サイラスが呆然としながら呟くと、
「通常の、ドラゴンならです。特異種のドラゴンやリーダー格にはおそらく少し難しいかと思います。……申し訳ありません、力不足ですね……」
少しショボンとしたローズに、
「「「十分過ぎる程です」」」
と3人揃って答えたのだった。
「……素晴らしい『御守り』です。すぐに角ウサギの魔石を用意しますので、何卒我が騎士団にこの『御守り』を作っていただけますでしょうか」
サイラスは騎士団団員の命を預かる身として、自分の混乱や疑問はさておきこの『御守り』で仲間たちを守る事に気持ちを持っていく事にした。そしてこの『聖女』に礼を尽くすことを決めた。
そして2人は必要数の確認をし、ローズはその数なら問題ないと明日朝までに用意することを約束した。
お読みいただき、ありがとうございます。
先に規格外の守り石をもらったパウロは、散々悩んであの答えに行きつきました……。




