54 『勇者の護り石』
「そこまで急いで私を探してまで話したい事とは……? ああそれに、先程学園でも話が途中だったね」
レオンハルトは皆の関心をローズの能力の事から逸らすため、話を本筋に戻した。
「……はい。まず学園でのお話の続きからお話させてください。……この王国の、『護り石』のお話です」
ローズは200年前とある魔法使いが『元ドラゴンの魔石』から『魔物除けの魔石』を作った話をした。
「……その、ドラゴンの魔石というものの話は書物で読んだことがあります。勇者がドラゴンを倒したという英雄譚。その後その魔石はとある王国に保管されていたものが盗まれ行方不明と……。それが我が国の『護り石』なのですか」
サイラスが子供の頃読んだ本の事を思い出しながら言った。
「……そうです。それは本来王都位の都市の魔物除けに開発されたのですが……。その作った魔法使いが思ったよりもそれは強力で、この国全体の魔物を退けてしまう事となってしまったのです……」
ローズはショボンとしながら言った。
「? ……それの、なにがいけなかったのですか? 国全体の守護をするなど、素晴らしい魔石ではありませんか?」
パウロはショボンとしたローズを見て、どうしたのだろう? と問いかけた。
「……良くは無かったのです。魔物達はそれまで住んでいた故郷を追われる事になったのですよ? 魔物は兎角悪く言われがちですが、彼らもこの世界に住む生態系の一部なのです。普段の魔物達は人間達と一定の距離を置き平和に暮らしているのです」
ローズの言葉に、パウロは分からない、と首を傾げる。
「しかし、魔物は人を襲うでしょう? 畑を荒らし、旅人を襲う。そして時に街に入り込んだりし、山などに住み着きおちおち人は入ってはいけない」
「時に街に迷い込んだり自分の住処に入り込む人を襲ったりすることはあるでしょう。でもそれは人も同じ、……お互い様でしょう? そして魔物がいない事で生態系が崩れ動物達が増え、現在の我が国の畑はその増え過ぎた動物達にかなり荒らされていると聞きます。そして魔物がいない事で冒険者達が来なくて観光などは全くと言っていい程発展していません。そして貴重な魔石なども取れない。それに何より、人間の都合で魔物がこの地に住む事を許さないなどと、神がお許しになると思いますか?」
それを聞いた3人は唸った。
……確かに魔物にこの国に住まわせないのは人間だけの都合だ。今までは神より授かりし『護り石』によるものだという事で疑問に思った事など無かったが、考えてみれば神がそのような事をお許しになるだろうか?
それに我が王国は確かに魔物が住む諸外国よりも畑の実りも少なく動物による被害もかなりある。そして動物によって怪我などをする被害もかなりある。
諸外国は魔物から取れる魔石や希少な部位などで国は潤い発展し、しかも冒険者や商人達の出入りにより商業も随分発展していると聞く。
「……諸外国は、魔物と共存出来ている、ということか……。そして魔物がいない我が国よりも発展していると……」
レオンハルトは今まで思いもしなかった考え方に驚いていた。
強い魔物のいない国、それがこのアールスコート王国の良い所だと思ってきたのだから。この王国はどこに行っても魔物に襲われることもなく、安心安全でどこよりも発展し得る国だと思っていた。
ただ200年前の戦争から魔法使いが少ない事、そして他の国から同盟はおろか友好国ともなってもらえず貿易もままならない事だけが悪い所だと思っていた。
「しかし、今の状況では魔物との共存は無理です。現在強き魔物が押し寄せて辺境の地は大混乱だと聞きます。そして我ら騎士団は明日早朝に出発し、魔物の対処をする事になっているのです」
サイラスは明日出発し魔物達と対峙しなければならない事で頭がいっぱいだった。……おそらく自分の身はただでは済まないであろう覚悟は出来ている。
「……そうです。今更この国が魔物と共存するなど無理なのです。やはり今まで通りに『護り石』に守ってもらうしか……!」
パウロも魔物との共存などという理想論よりも、今は目の前の魔物をなんとかする事が大事だと考えている。
3人はこの王国の『護り石』が神から与えられたものではない、という事は納得出来るが、魔物との共存はどこか懐疑的だった。
「……その『護り石』の犠牲が、レオンハルト殿下であっても、ですか?」
ローズの静かなその問いに、3人はヒュッと息を呑んだ。
暫く、しんと部屋が静まり返った。
「ローズ様……? それは、いったいどういうことで……?」
いち早く立ち直ったパウロが恐る恐る尋ねた。
「……言葉の通りです。あの『護り石』を使い続ける為には『手入れ』が必要となるのです。約10年ごとに、それなりの魔力の注入をしなければ魔物除けの効果は弱まり、いずれは失われます」
サイラスが震えながら尋ねる。
「……ッ! ……魔力の……注入? ……まさか……、まさかそれがこの国の強き魔法使い達の行く末……? そして今回はレオンハルト様が……!? ッ!! それでは、今回あれほど強硬に陛下がレオンハルト様の出陣を止められたのは……!」
ローズは少し俯き、哀しそうに頷いた。
「……おそらく、明日皆様が出陣された後、陛下がレオンハルト殿下を『魅了』し『護り石』の手入れをさせようとしているのだと思います」
3人は驚愕した。この王国の根幹ともいうべき魔物除けの『護り石』。これを授かりしアールスコート王国は、神より愛され守られた国と皆が思ってきた。
しかしそれが、神からのこの国の初代国王への贈り物では無く、強力な魔法使いが作った『魔石』。そしてその維持にたくさんの魔法使い達が犠牲になってきていたとは……!
しかも、それは本人の意思を無視して王族がその魔法使いを『魅了』し、無理矢理力を使わせるというなんとも非合法な方法が取られてきたのだと思われる。
――そして、今回も……!
明らかに国王は我が子で王太子であるレオンハルト殿下を、『護り石』の犠牲にしようとしている――!
「……やはり、そういうことか……。父上が、私を愛していないのに大切にするのは何故だろうと、幼い頃からずっと疑問だったのだ……。やっと、謎が解けたよ」
……そう、レオンハルトは困ったような笑い顔で言った。しかし、その瞳は揺れていた。
ローズ達は、レオンハルトが泣いているのかと……そう思った。
お読みいただき、ありがとうございます!
サイラスは幼い頃から商人に嫁いだ叔母の影響で、外国の本をたくさん読んでいます。




