53 レオンハルトの思い
───今日のあの会議で、レオンハルトは心を削られていた。
この王国の1番の魔法使い。……その重責は並大抵のものでは無い。そして1番と言われながらも世界のレベルから見れば随分と低いレベルだとは分かっている。取り寄せた世界の魔導書。そのどれを見てもある程度の高レベルの魔法はレオンハルトに出来るものではなかった。そして以前いた外国から来た魔法使いの師匠からも世界にはもっと高レベルの魔法使いがたくさんいると聞いた。
この程度のレベルでこの国1の魔法使いとして、しかもまだ10代の若輩者が皆を率いていかなければならないのだ。そしてどんなに努力をしても魔力というものはそう上がるものではなかった。
そんな自分に今回与えられた強力な魔物達の討伐の話。書物でしか見たことの無い魔物達。……果たして、自分の力で騎士団達の被害を最小限に食い止めながら魔物達を押さえ込む事は出来るのだろうか?
レオンハルトは今までに色んな文献も読んで来た。……おそらく、自分程度のレベルの魔法使いでは無理だ。帝国クラスの魔法師団、もしくはエルフクラスでないと、報告に上がっている今回の魔物のケースでは対処は難しいのではないかと思われた。
しかし、この国に自分以上の魔法使いはいない。そして誰かが魔物達と対峙し王国の威信を示さなければならない。
そう固く決意をし、会議でそう申し出た。会議に出席する貴族達も一様にホッと安堵したのが分かった。……私に退治は無理だと分かっている者もいるだろうが、それでも王族でこの国一番の魔法使いがその場に向かう事が重要なのだ。
――それなのに。
国王の反対。……そしてそれは、レオンハルトの身を案じてのもので無いことは分かっていた。
自分達の身を守る為? ……それとも昔からこの王国で消え続けている魔法使い達の事と関係があるのか?
レオンハルトは父王に愛されていないという事は分かっていた。そしてもう自分も成人していて、父の愛を追い求めている訳でも無い。――が、それでも。
レオンハルトの努力も勇気も全て無駄だと言わんばかりに、昔からの傷跡に塩を塗り続けていられるが如くの父王の態度に、レオンハルトの心はゴリゴリと削られていた。
――それが。この、まだたった15の少女は。
「……ローズ嬢。貴女はどうしてそんなにも私の心の中にやすやすと入り込んでくるのだ……」
レオンハルトは、思わず自分の右手を額にやって唸った。
「あ。すみません! 勝手にお部屋に入り込んでしまって……! 部屋の外で待って居ようかと思ったのですが、さすがに第1王子殿下のお部屋の周りでウロウロするのは怪しいかなって……」
ローズは慌ててそう少し的外れな言い訳をした。レオンハルトはなかなか真意が伝わらない事を少しもどかしくも思いながらも、そんなローズの事が愛おしくてたまらなかった。
そうしてレオンハルトは、自分の心の赴くままにローズの手を取りそして見つめる。ローズは少し驚きつつレオンハルトを見た。――2人の視線が絡んだ。
「ローズ嬢。私は――」
「ウォッホンッ!」
「ゴホゴホ……ッ!」
その時、レオンハルトの後ろから同時に2つの咳払いが聞こえた。
そう、レオンハルトはこの部屋に側近パウロと第一騎士団団長サイラスと共に入って来ていたのだ。
「ゴホンッ……。殿下、まずは座ってそちらのお嬢さんのお話を詳しく聞かせていただいてはいかがでしょう。……パウロ。今ここに侍女を呼ぶのも良くないからお茶を用意して来てくれるかい?」
「ゴホッ。……承知いたしました。ローズ嬢。どうかおかけになってお待ちください」
そう言ってパウロは廊下にいた衛兵に声をかけ、茶を扉まで運ぶよう頼んだ。
「あの……。お気になさらないでください。今の私は不法侵入者なのですし」
「? そういえば、どうやってここまで入って来られたのですか?」
警備の不備かとサイラスが素早く確認する。
「え。あー……。ええ、と……」
ローズはちらと、確認するようにレオンハルトを見た。
それを見たレオンハルトはこの2人は大丈夫と頷く。それを見たローズは頷いて話し出した。
「……『転移』で、ここまで入りました。……あの。この王宮には軽い魔法防御しかかかっていないので、おそらくは他国の魔法使いは入ろうと思えばいくらでも入って来られると思います。流石に王の間と封印の間は他よりは強力で一般の魔法使いでは難しかったかもしれませんが……」
そこまで聞いてサイラスは驚く。
「貴女は、『転移』を……、高位の魔法使いしか使えないと言われている『転移』を使えるのですか……。そしてこの王宮は王の間位しか守れていないと……」
警備は近衛兵の仕事で担当外ではあるものの、騎士団としては耳の痛い話だった。
「……はい。それからこの王宮にはあちこちに緊急時用の通路があるようですね。そしてその通路をおそらく国王を守る魔法使いが行き来しています。この部屋の脇にもありましたよ。『隠蔽』をかければ大丈夫だとは思いますが、今もそこを誰かが行き来している形跡があります。……捕らえますか?」
ローズは少し真面目な顔になって3人に問いかけた。
レオンハルトは少し驚きつつ、その後すぐに納得したような顔をした。
「……いや、放置しておいてくれ。それは国王付きの魔法使いであるから……。父王は王宮内の事はあらかた熟知している。その魔法使いがそうやって報告しているのだろう」
「……ご存知だったのならよいのです。王宮内に王族の緊急脱出通路がある事はおかしなことではないですが、そこを普段から活用しているのはあまりないことですから。国王の間やそれぞれの王族の部屋にも繋がるのですから、使い方次第では恐ろしいことですからね」
ローズの言葉を聞いた3人はゴクリと息を呑んだ。
「……ローズ様。貴女にはその動きまでお分かりになられるのですか?」
パウロが絞り出すように問いかけた。
「レオンハルト殿下に至急お話したくて王宮を探ったら分かったのです。悪用はしませんので大丈夫ですよ?」
レオンハルトはこれ以上ローズの能力が露見するのは良くないと、話を進める事にした。
お読みいただき、ありがとうございます。
レオンハルトは今回完全にローズへの想いを自覚し、ローズはそれにイマイチ気が付かず魔法全開でいってます。




