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52 国王と王太子



 アールスコート王国の王宮、謁見の大広間には王国の主だった貴族達が集まっていた。

 そして正面の玉座にはこのアールスコート王国の国王が座り、貴族達の報告を受けていた。

 この200年、初代アールスコート王国の国王が神より授かった『護り石』により強い魔物が入ることのなかったこの国。

 その護りが破られ大量の強い魔物達が雪崩れ込んだとの知らせに、貴族や王族は震え上がった。まだ、大半の一般の国民は何も知らないが……。



「……であるからしまして、あの魔物達の退治にはこの国の騎士団及び魔法師団が向かう事を進言いたします!」


「そうだ、それしかない! 我が国が誇る騎士団達なら大丈夫だ! そこに王族で我が国1の魔法使いであられるレオンハルト殿下に指揮していただければ、もう怖いものなしですな!」


「……我が国が誇る、と言いますが、この国の者はほぼ誰も魔物と戦った事なぞないのですぞ? 貴公は魔物の恐ろしさが分かってものを申しているのか!」


「……確かに魔物と戦った者などこの国には殆ど居ない。だが、魔物達がやって来た以上誰かが戦わねばならない。そうなれば騎士団達しか居らぬではないか!」


「魔物と戦ったことの無い騎士団を辺境の地で無駄死にさせる位なら、最初からこの王都周辺を守るべきなのでは? 魔物達も王都まで辿り着くのはわずかでしょう。その位ならば騎士団でも対応出来るのでは……!」


「それでは、各地の民達を見捨てると言っているのと同じですぞ!」


 貴族達が思い思いに発言をする話し合いは難航し、まとまる気配もみせなかった。


 ――そんな中、1人の青年の声が響き渡る。


「……ここは、騎士団と私や魔法師団数名が行くべきでしょう。残る魔法使いは王都を守り、各地の貴族達も兵をお出しください。国境の街で魔物達を抑えられず騎士団が全滅するならば、早かれ遅かれこの国は終わりです。……その後どうされるかは皆様のご判断にお任せいたします」


 この国の王太子レオンハルト。この国1番の魔法使いでもある彼の言葉に貴族達は黙り込み、謁見の間は水を打ったかのように静まり返った。


「……それでは、レオンハルト殿下の仰る通りに国境の街に戦力を集中させるということで、皆様宜しいですかな?」


 この国の宰相シュナイダー侯爵が皆に問いかけた。


 貴族達が頷きかけたその時――。


「……レオンハルトは前線には行かせぬ。レオンハルトはこの王国の王太子ぞ? 王太子は王都でこの国を守るべきだ!」


 それまで黙って話を聞いていた国王が突然言葉を発した。


「陛下。……しかしそれでは……」


 宰相や国の重鎮が国王を宥めようとしたが、国王は決して引かなかった。再び騒然となる大広間。

 仕方なく、レオンハルト以外の先程のメンバーで行かせるという話になりかけた。


「……お待ちください。陛下。我が王国の一大事に王族が行かないのでは人々に示しがつきません。そして弟達はまだ成人しておらず他の王族の方々はご高齢。ここは私が行くのが1番皆が納得するかと思います」


 王太子レオンハルト本人が現地に行くことを志願したのだ。――しかし。


「いかん! お前はこの国の王太子である! 次代の王自ら危険な地に乗り込み命の危険に晒されるなど、あってはならんことだ……! 他の事は譲れても、これだけは譲れん! これは王命である!」


 国王は全く譲る気配を見せなかった。


 その後も話は平行線をたどり、仕方なくこの度はレオンハルトを除く魔法師団数名と騎士団が国境の地に向かう事になったのである。


 貴族達は、国王はこの国1番の魔法使いで人徳もあるレオンハルトを溺愛しているのだと噂し合った。

 ――しかし――。分かる者には分かっていた。国王は決してレオンハルト可愛さにあのように言った訳では無い事を……。


 魔物達と戦って命を落とすよりも、もっと彼には酷い事を強制されようとしているという事を――。



 

 ローズはある場所からこの会議の全てを見ていた。


「国王は、思った以上に罪深い方ね……。()()『護り石』を動かしたいが為に大切な我が子を犠牲にしようとするなんて……。しかも今はもう既に魔物はこの国の中に入ってきているのに」


 ローズは深くため息をついた。

 もしも国王があの魔物達をなんとかする為に皆で力を合わせよう、と言っていたのなら……。ローズは彼らに手を貸してもいいと思っていた。最終的には『護り石』は回収するつもりだが、魔物達が無闇矢鱈むやみやたらに人を襲わないように、王国側に色々協力しようと考えていたのだ。


 けれど、国王は『護り石』の継続を、そしてその犠牲にレオンハルトを使う事を選んだ。

 ……おそらく、騎士団達が出発したら国王自らレオンハルトを『魅了』し、あの『護り石』に魔力を注入させ魔物への結界を復活させるつもりなのだ。


 そして『護り石』を発動させ魔物達が出て行った後帰って来た騎士団達に、『レオンハルトは王都を守って死んだ』とでも伝え、何事もなかったのように今まで通りに『護り石』を守り、都合の良い事だけを言って暮らすつもりなのだ。……次に犠牲になる魔法使いを探しながら。


 ローズは本当に気分が悪くなった。そしてレオンハルトが心配でならなかった。


(……殿下は今、どんなお気持ちでいらっしゃるのかしら……。友人として彼に寄り添えたら良いのだけれど……)


 レオンハルトに会った時、なんと声をかけたら良いのか悩むローズだった。






「……殿下……」


 側近パウロと第一騎士団団長サイラスが心配そうにレオンハルトに声をかける。


「……ああ、大丈夫だ。分かっているから心配ないよ」


 困ったような力のない笑顔で2人に応えるレオンハルト。2人は痛々しい思いで彼を見た。


 先程の会議での国王の言動。

 あれは知らない者が聞けば息子可愛さに王命まで出す、子供思いの愛情深い父親だろう。――しかし。ここにいる者は国王の真意を知っている。


 アレはレオンハルト殿下の魔力欲しさに言っているだけ。可愛がるどころか、レオンハルト殿下の国1番の魔法使いとしての必死の思いを無碍にしている。殿下のこの王国を守りたいと言う思いを無視しているのだ! 


 そう思いながら、彼らは非常に悔しい思いをしていた。彼らの立場からは国王に物申すことなど出来ないからだ。


「……我らはレオンハルト殿下に忠誠をお誓い申し上げております。なんなりとお申し付けください」


 そう本人に伝える事で精一杯。

 この悔しさは、レオンハルトを守る事で晴らしていくしかない。

 悔しいながらもなんとか自分を納得させる2人なのであった――。



 

 そしてレオンハルト達が辛い気持ちを抱えながら彼の部屋まで戻りその扉を開くと、そこには栗色の髪の少女が立っていた。少女はレオンハルトの姿を認めると、ふわりと微笑み駆け寄ってきた。


「レオンハルト殿下。……勝手に入ってしまってごめんなさい。あの、先程の会議……、見てました。殿下は、どうされるおつもりですか?」


 レオンハルトの目を見て真っ直ぐに問いかける少女。……その表情から自分を心配し気遣ってくれているのが分かる。


「学園でお話ししかけていたことなど、お話したい事がたくさんあるのですが……。その話を聞いてから殿下はどうされたいかをお聞きしたいのです。たとえどんな答えを出されても、私はレオンハルト殿下の味方ですよ」


 そう言って、少女は優しく微笑んだ。






お読みいただき、ありがとうございます。


この国の成人は日本の同じ18歳です。レオンハルトの弟テオドールは17歳でまだ成人していません。


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