46 『魅了』の持ち主
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「ローズ? もう身体は大丈夫なの?」
次の日学園に登校すると、ミゲルから声をかけられた。
「ええ、大丈夫。ありがとうミゲル。ちょっと疲れが溜まっていたみたいなの……」
昨日1日お休みした。……キチンと身体を休めたのは朝だけだが。
「……でも、またその後でムリをしたのよね? 昨日大司教様自らお食事を運ばれていたと教会で噂になっていたわよ?」
横からひょこりとフェリシアが現れて言った。
……ああ、そういえばフェリシアは大教会に住んでいたのだったわね……。
「少し休んだら良くなったので、部屋で『御守り』を作っていたのよ。……でも本当に大丈夫なのよ? ただ朝にお父様達が余りに心配するものだから……」
「心配? やはり何かあったの? ……実は僕、一昨日の帰りにレオンハルト殿下の側近の方が女生徒を連れて行った話を聞いたんだよね……」
ぎくり。
「それは私も聞いたわ。……でもまさか、帰り際にあんなにくれぐれも寄り道しないようにと話していたローズのはずはない、と思っていたのだけれど?」
ぎくぎくり。
ミゲルとフェリシアは探るような視線でローズを見てきた。
コレは大人しく白状するしかない……。
幸い? 一限目は自習だった。
ローズはあっさりと観念し、『隠蔽』をかけて2人に昨日あった話をする事になったのだった。
「……それは、もう何もかもレオンハルト殿下にはお話しした、という事だね?」
ミゲルはレオンハルトの方に食いついた。
「いえ、それよりも問題はオスカー殿下が『魅了』を使える、ということよ。今現在、帝国で『魅了』が使える、と判明しているのは現国王のみ。テオドール殿下は『疑い』扱い、オスカー殿下は『調査中』だったわ。しかも、そんな他の人もいる場所で術をかけようとするなんて……。随分と手慣れている証拠よね?」
フェリシアは『魅了』を使ったオスカーに食い付いた。帝国では定期的に『魅了』の調査もしているようだ。それだけ諸外国から『魅了』の能力は警戒されているということ。
「いやでも、そんなに簡単にレオンハルト殿下に秘密を話してしまうなんて、ローズはレオンハルト殿下に『魅了』されたのではないの?」
あくまでレオンハルトにこだわるミゲル。
「───私もオスカー殿下は『魅了』を使い慣れているのではないかと思うわ。それから一応、カルトゥール一族の話は一切していないのよ? 最初は私も事情を話してしまった事でレオンハルト殿下に自分が『魅了』されてしまったのではないかと驚いたの。だけど『御守り』は反応しないし、本人も自分だけはその能力を持っていないと仰って……。昨日大司教様にお話したらおそらくそうだろうと仰っていたわ」
「大司教様が……。それならば、そうなのかもしれないわ。何せ今の大司教様は初めてあの『御守り』で『魅了』を退けられたお方なのだから……。『魅了』の術をかけられてかからなかった初めての方なのよ」
ローズは驚く。
「そうなの……!? という事は、大司教様に術をかけようとしたのは……」
フェリシアは真剣な顔で頷いた。
「……そう。今のアールスコート国王。それで現在唯一『魅了』の能力持ちだとハッキリ判明していたのよ。……今回、第3王子オスカー殿下もそれに追加される事になるけれど。……今までこの国の王族は持っているのだろうとは思われてはいたけれど、明確に誰と誰が、と何人も判明するのは初めての事だと思うわ。……もしかするとこの国の国王になる条件は『魅了』の能力持ち、という事なのかもしれないわ。……だとしたら以前話していた、今王太子だと指名しておきながら中途半端な立ち位置にされているレオンハルト殿下の理由も分かるわね」
確かに、レオンハルトは『魅了』の能力持ちではない、自分は王家の出来損ないとまで言っていた。……分かっているのだ。自分が『仮の』王太子だという事を。
ローズはレオンハルトの事が心配で思わず呟いた。
「……それじゃあ、このままだとレオンハルト殿下はどうなるの……? それに『魅了』を持っていない者が王になれないのなら、どうして仮に『王太子』に指名する必要があったのかしら」
「……この国で1番の魔法使いで有能だと言われている第1王子を王太子に指名しない、というのもおかしな話だからじゃないかな。第1王子の派閥もいるだろうからね。この国の一般市民や大多数の貴族達は『魅了』の能力の事は知らないのではないかな? 彼ら向きのアピールなのかもしれないね。
……それからレオンハルト殿下が自分だけに能力がないと言っていたのなら、第2王子テオドール殿下も『魅了』を持っているということだね」
ミゲルは無表情のまま言った。……今日のミゲルはなんだか機嫌が悪い。
「……そういうことになるわね。思ったよりアールスコート王国の闇は深いわね。そしていずれ王太子に『魅了』の能力を持つ弟王子を指名するつもりなら、レオンハルト殿下をどのような理由付けでその立場から降ろし、どのような立ち位置にするつもりなのかしら」
フェリシアもレオンハルト殿下を少し気の毒に思ってそう言った。
「……ねえ、ローズ。レオンハルト殿下がお気の毒だからって、同情して彼の側にいようなんて考えていないよね? いくらお気の毒でも彼はアールスコート王国の王家の一員だよ。あまり彼に肩入れし過ぎるのは感心しないな」
やはりミゲルは機嫌が悪いらしい。そしてレオンハルトに同情的なこの雰囲気を危うんでいる。
「側にいるというか、一応レオンハルト殿下は『友人』ですもの。しかも殿下も『魅了』の能力に人生を狂わされているのよ。あの王家に生まれたからといって、そんな辛いお立場の方を邪険にするつもりはないわ」
ローズはミゲルの心配する気持ちも分かるけれど、それでもレオンハルトがあの王家に生まれたというだけで悪とされるのは違う気がした。
「……私はミゲルの心配もローズの殿下を心配する気持ちも分かるわ。でも第3者の、帝国側からモノを言わせてもらうと、我々はレオンハルト殿下側についてあの王家の『魅了』まみれの牙城を崩したいところね」
フェリシアが冷静に言った。それを聞いたミゲルはふうと息を吐いて言った。
「……まあそれが、1番我ら第3国側とこの国自体にとっていい方法なのかもね。この国の民や大多数の貴族にとっては王だけが『魅了』なしになるだけで体制は変わらないからね。我らにとっても『魅了』さえなければこの国をそれ程恐れる事はない。……そのあと産まれる王族には『魅了』がないかのチェックは必要だろうけれど」
2人の意見を聞いてローズは頷いて言った。
「……まあそれも、レオンハルト殿下ご自身がどうお考えになるかによるかとは思うわ。この後王太子の座を奪われそうな事態になったとして、それでも王になりたいのか、それとも別の人生……例えば弟王子をお支えしていくとか、本格的な魔法使いとして生きていきたいとか、彼がどんな人生を生きたいと思われるのかという事よね……」
ローズは、レオンハルトの希望する道に進めればいい、と思った。人は望めば必ずなりたいものになれるという訳ではない。しかし周囲から望まれてならなければならない状況もある。
彼が絶対に国王にならなければならないという縛りがあるのなら仕方がないが、そうでないのなら彼は自由に生きても良いはずだ。
「ローズ、君は……」
ミゲルが何かを言おうとした時、1時間目の終わりのチャイムが鳴った。
お読みいただき、ありがとうございます。
ミゲルはローズの気持ちがレオンハルトにいくのを心配しています。
この時点で冷静なのはフェリシアだけです。




