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45 聖女の御守りと秘密

「レオンハルト様。……今日ローズ嬢は学園をお休みだったようですよ」


 講義の後パウロはそう言った。


「ローズ嬢が……? どうしたのだろう。昨日はそんな素振りはなかったはずだが」


 昨日は初めてローズがレオンハルトの研究室に来てくれた。最後にはパウロに部屋で男女2人きりで鍵を閉めたことを説教をされてしまったが、レオンハルトはローズと共有する秘密を持てて、今の今まで上機嫌だった。


 ……あの日起こった不測の事態。レオンハルトの末の弟オスカーがローズの弟におそらく『魅了』をかけようとしたことで、ローズは弟を思う余りレオンハルトの目の前で秘密にしていたその華麗な魔法を使ったのだ。それでタガが外れたのか、ローズはこちらが心配するくらいの秘密をレオンハルトに話してくれたのだ。


 ……そう、彼女は『聖女』。

 そしてその魔力はレオンハルトよりも遥かに上。そして日々研究を怠らず、様々な魔法を使えるようだった。

 そして何より彼女は、我が弟オスカーの『魅了』を跳ね返すことのできる『御守り』を作っていたのだ。……しかも『大量生産』までしていると言っていた。それだけで彼女の魔力の大きさが分かるというものだ。


 そしてローズはレオンハルトにも『御守り』を幾つか分けてくれると言ってくれたので、父王や弟達の『魅了』に対抗出来る術を手に入れる事が出来た。

 レオンハルトは今までの悩みの一つが軽くなったこと、そして何よりローズとの秘密の共有出来た事が嬉しくてたまらなかったのだ。



「レオンハルト様……。気付かれませんでしたか? ローズ嬢が帰りに何やら悲しげにしていた事を……。私どもは普段の彼女を知りませんし、あの時は私はお2人に説教などもいたしましたのでそれで落ち込ませてしまったかと思っていたのですが……」


 ……ローズ嬢が、悲しげに? 

 レオンハルトはローズと魔法談義で盛り上がり、彼女に秘密まで打ち明けてもらえた事が嬉しくて浮かれてしまって、全く気が付かなかった。


「……そうだったのか? なんて事だ。わたしは昨日ローズ嬢に秘密を話してもらえた事で、すっかり舞い上がって彼女のそんな様子に気付けなかったとは……」


 そう言って悔やむレオンハルトだったが……。


「……秘密を? ローズ嬢の秘密を話していただけたのですか! ……それで!? ローズ嬢はご自分が『聖女』だと、そう仰ったのですか!? ……ああ、殿下!! 何故もっと早く話して下さらなかったのですか!」


 興奮する余り大きな声を出すパウロを見て、ローズ嬢の話が出た時から『隠蔽』をかけておいてよかった、とレオンハルトは息をつく。

 そして昨日はパウロの説教でそれを話すどころではなかったのだ。


「しかも、殿下にそのような重要な秘密を話してくださるとは……! もしや、ローズ嬢は殿下の事を……!? 殿下! やりましたね!」


 パウロの妄想はどんどん膨らんで、相手が聖女ならば国王も反対は出来ないだろう、イヤそれよりも聖女を妃とすれば国王もこちらに手を出せないとか、少し生臭い話にまで絡めて来た。

 ローズを妃に、という話にはドキリとしたものの、ローズをこの王家のいざこざに巻き込むのは……と考えかけて、レオンハルトはローズとの関係はまだそんなものではないとはたと我に返った。


「ローズ嬢自身が『聖女』だとそう名乗った訳ではないのだ。……あの時不測の事態があり、彼女は目の前で私も使えないような魔法を軽々と使ってしまったんだ。だから自分の意思で私に打ち明けてくれたという訳ではないから、ローズ嬢の気持ちは……分からない。

だがその時彼女は大司教に頼まれて『御守り』を作っている話などをしてくれた。……それがコレだ」


 レオンハルトはパウロにローズからもらった『御守り』を首から外して見せる。


「ッ! コレは……! この魔力……! 私のような魔力のそれ程高くない者でも、この魔石の力の凄さは感じます。コレが……、『聖女』様が作った『御守り』なのですか……!」


 興奮冷めやまぬパウロに、レオンハルトは頷く。


「そうだ。そしてこの『御守り』には『魅了』避けの効果がある。……実は先程の不測の事態というのは……、昨日オスカーがローズ嬢の弟に『魅了』をかけようとしたらしいのだ」


「なっ……! オスカー殿下が!? まさか本当にオスカー殿下は『魅了』が使える、と……そういう事なのですか? そして殿下はそのように一般生徒に日常的に『魅了』を使われているという事なのでしょうか!?」


「日常的に、かどうかは分からないが、オスカーは『魅了』を使うことにそれほど躊躇ためらいがない、という事だろうな。……テオドールの側近ロンの話していた、例の魔法使い達にオスカーが『魅了』をかけた、という推測は間違ってはいないのかもしれない」


「……テオドール殿下は、『魅了』という能力を使うことに慎重であられたように感じましたが……。そして、ローズ嬢の弟君を『魅了』しようとされたという事は、オスカー殿下もまたローズ嬢を『聖女』と思っておられる、という事ですか……。そして、その企みは失敗された、という事ですね?」


 レオンハルトは頷き、そして改めて先程のペンダントを見せる。


「ローズ嬢のこの『御守り』で、彼女の弟はオスカーの『魅了』を弾いたそうだ。ローズ嬢はコレには多少の魔法を弾く効果もある、と言っていた。そして……、『魅了』を弾いてからの彼らの様子を、ローズ嬢の魔法の映像で見せてもらった。……私はその時のオスカーの、あの醜悪な表情が頭から離れない。彼はただの末っ子の無垢な可愛い弟、ではないのだろう。……全てが嘘とは言わないが、裏の顔をも持っている」


 パウロはゴクリと息を呑んだ。


「クラーセン殿の話を聞いて、まさかとは思っておりましたが……。あの、オスカー殿下がですか……」


 オスカーは王宮では皆に可愛がられる甘え上手な末っ子王子なのだ。パウロも少なからずショックを受けているようだった。


「……そして、ローズ嬢のこの『御守り』だ。彼女は私に幾つかコレを分けてくれると言ってくれた。徐々に皆に渡していけると思う。これで、父や弟達に対抗していけると思うのだが……」


 パウロはパッと顔を上げる。


「……本当でございますか! ……あぁ、コレで……、コレで殿下をお守りしていける……! 私が殿下を心ならずも裏切る、などという事がなくなるということですね! 何と有り難い事でしょう……!」


 涙ぐみながらそう言い喜ぶパウロに、こちらに気付かせないながら今まで随分その事を気にしていたのだ、と気付く。


「……ありがとう、パウロ。そして、これからも宜しく頼む」


「……はい! お任せください! レオンハルト様!」


 そして2人はこのペンダントをくれたローズに深く感謝した。

 もし明日も学園を休むようなら見舞いに行こうかとも話しながら。




お読みいただき、ありがとうございます!


レオンハルトはかなりローズに関心があるようです……。

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