44 リアムと魅了
夕方になってダルトン子爵邸に戻ると、もう既にリアムが帰っていた。
「お姉様! 学園を休んでいたのにいったい何処に行ってたのー!? 僕お姉様に話したい事があったし、心配だったから飛んで帰って来たのにー!」
リアムはローズを見ると駆け寄ってきて言った。
「ごめんなさい、リアム。教会に行っていたの。今日はありがとう。もう大丈夫だから」
笑顔で言うローズに、リアムは心配そうにその顔を覗き込む。
「……本当に? 無理してない?」
「本当よ。……それから、話したい事って、昨日の帰りのオスカー殿下の事ね?」
「ッ! よく分かったね! ……あー、そっか。お姉様だもんね」
リアムは最初驚いたが、すぐに納得する。
「私だから、はよく分からないけど……。あの『御守り』が反応したから気付いたの。……ゆっくり、話を聞かせてくれる?」
リアムは頷き、2人はとりあえず居間に行き腰を落ち着ける。お手伝いのドリーさんがお茶を淹れてくれ、夕ご飯はダイニングに出来ていますから、と言って帰って行った。
そしてローズは部屋に『隠蔽」をかける。
「ッ! お姉様、今の……! 僕も使えるようになりたい!」
「勿論よ。……でもリアム、今はテスト期間中でしょう? 1年間のテストなどの総合の成績で次の学年のクラスが決まるのだから、とりあえずテスト期間が終わってからね。でも、この件はとても重要だから今話をしておかないと」
「う……、うん、分かったよ。確かに今は殿下の件だよね」
「ええ。昨日の今日で何もないとは思ってはいたんだけれど、今日はオスカー殿下はどうされていたの?」
「……今日はオスカー殿下はお休みだったよ。いつも殿下と一緒にいる側近のトムっていう子も休みだった。……実はね、昨日の帰りにあった騒ぎからオスカー殿下に少し悪い噂がたっていて……。殿下が休みだから余計に皆騒ぎ立ててたんだよ。皆、殿下がいる時はあんなに殿下殿下って擦り寄っていたのに、なんだかいい気分じゃなかったよ……」
リアムはそう言ってため息をついた。
「……そう。それで、どうしてリアムと殿下があのような状況になることになったの?」
本題に切り込むと、リアムは少し困惑した顔をした。
「……ここのところ僕は殿下を出来る限り避けてたんだ。あからさまには避けてないつもりだったけど、無用なトラブルには遭わない方がいいじゃない? 他の人で殿下に近付きたいような人達はいっぱいいたし、その人達に席を譲った、というか……」
「そう……」
リアムは彼なりに色々考えて行動していたのだ。
「でも昨日の帰り際、オスカー殿下に捕まっちゃって。僕は次のテストの為に勉強してるって言ったんだけど、一緒に勉強をとか将来は僕に側近の1人になって欲しいって言われて……。僕は殿下の側近なんて高位貴族の子弟がなるものだって断ったんだけど、高給取りだよって言われてついグラついたら殿下は笑って、それで……。僕に近付いて目をジッと見つめられた。僕も何かを言われるのかと少し構えて殿下の目を見たんだ。……そうしたら、お姉様の『御守り』が熱くなって殿下は弾かれた」
リアムの話の最後の方で、ローズはヒヤリとした。
……やはり、『魅了』とは相手の目を見て術をかけるのだ。しかも、下校途中で周りに他の生徒もいる中、それを気にすることなくオスカー殿下は術をかけてきている。おそらくは相当に術をかけることに慣れている。
……そして自分もマイラの時、何度もそんな行動を取られたではないか。200年前のカルドラ王国王弟、ゲオハルト カルドラ。彼はマイラに何度もそのような行動を取って来た。幸いな事にマイラが術にかかることはなかったが、男性が女性にする行動としては、気持ちが悪くて仕方なかった。……それで途中からは随分マイラは彼を避けていたので、彼は最後に周りの者を使ってマイラを捕らえようとしたのだ。……まあそれも、マイラは何をしようとしているのか確かめてから、アッサリ逃げてやったけれど。
「貴方に何も無くて良かったわ、リアム。何か身体におかしいところはない? オスカー殿下は他の生徒にもそんな風にしていたの?」
リアムは少し考えてから答えた。
「僕は体調は何ともないよ。お姉様の『御守り』が守ってくれたからね。……お姉様。ありがとう。最初、この『御守り』を嫌がってごめんね」
「リアム……。いいのよ。突然だったしね。でも本当にちょうどあのタイミングで大司教様からあの『御守り』の事を教えてもらえて良かったわ」
そう言ってローズとリアムは微笑み合った。
「それから、他の生徒には今のところはあんな事をした人は見てないよ。僕が見ていないだけかもしれないけど。僕は今までオスカー殿下の本当の評判は知らなかったけど、殿下の事を嫌いというか苦手だと思っている人も結構いるみたいだ。その人の権力志向にもよるのかもしれないけどね」
意外にしっかりしたリアムに、ローズはきちんと話をしておこうと決心する。
「そうかもしれないわね。……リアム。おそらくオスカー殿下が貴方にかけようとしたのは『魅了』。その相手の意志を無視して術者の思い通りに動かす術よ。私も大司教様にあの『御守り』の事と一緒に教えていただいたの」
リアムはその聞き慣れない言葉とその内容に驚く。
「なにそれ。そんな事って可能なの? ……もしかしてお姉様もその魔法を使えるの?」
「『魅了』は魔法じゃなくて一種の特殊能力のようなの。私は使えないし、使いたいとも思わないわ。その能力はこの王国の王家のみに現れることがある、らしいわ」
レオンハルトは使えないのだから断定は出来ないし、それをリアムに伝える必要も今の所はない。
「この王国の王家の人間……! オスカー殿下が……。じゃあ殿下は僕を言いなりにしようと……? 殿下の側近も、もしかして……?」
「そういうことだと思うわ。そして殿下の側近の方も『魅了』されている可能性はあるわね。
リアム。オスカー殿下はかなり危険かもしれない。『御守り』は必ず肌身離さず持っていて。そして試験が終わって落ち着いたら、リアムの魔力上げの訓練もスパルタでしていきましょう」
いきなり姉のスパルタ教育宣言が出てリアムは慌てた。
「ちょっと待って、お姉様!? あーうん。勿論魔法の訓練は頑張るんだけど……。……これからはスパルタ、なの?」
可愛く仔犬のように上目遣いでリアムは姉を見たが、姉には自信たっぷりに笑顔で頷かれた。
「お、お手柔らかに、お願いします……」
リアムは観念して姉にそうお願いしたが、
「大丈夫よ、リアム! 貴方はかの『カルトゥール』一族の直系なのだから! この1年で『転移』位まで出来るようになるのが目標ね!」
いきなり、魔法の本でも上級の魔法使いしか使えないと書かれている『転移』が目標だと言われ、一瞬目の前がくらりとしたリアムだったが……。
「まあ? 考えようによってはたった1年で、一般の魔法使いが一度は使ってみたい魔法No. 1の『転移』が出来るなら、頑張りがいもあるってものか……」
そう前向きに考えてみたリアムだった。
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『魔法使いが一度は使ってみたい魔法No.1』……リアム調べ、です。




