5 動き出す王国
「レオンハルト殿下。コレです。…例の……」
「ああ、例の……。…大丈夫だ。もう部屋に『隠蔽』はかけてある。貸してくれ」
そう言ってレオンハルトはそれを『鑑定』する。
ここはアールスコート王国の王宮。第一王子であるレオンハルトはこの国1番の魔法使いでもある。他にも王家の人間はいるが、彼の力は群を抜いていた。
「……!! …確かに、コレは……」
レオンハルトはその余りの純度の高さと魔力の強さに目を見開いた。
「…そうでございましょう? コレを見つけたのは、たまたまなのです。街に出掛けた時に供の者が酷い怪我をいたしまして、持ち合わせがなかったので近くのギルドで買い求めたのですが……。確かに低級ポーションでしたのに、余りの効果に目を疑いました」
第一騎士団長サイラスがそう言うと、レオンハルトは頷く。
「…そうであろうな。コレは低級とはいえ純度と魔力の質が実に素晴らしい。恐らく並の中級ポーションクラス程の効果があるぞ」
眉間に皺を作りながら答えるレオンハルトにサイラスは驚く。
「! それ程まででございましたか……。私も質の良いことは十分に分かりましたので少し調べてみたのです。すると、最近市中では低級ポーションが以前と比べて潤沢に出回っているようなのです。そしてその殆どはこのようにかなり質が良いものです」
「それは……。市中に強い魔力を持った者がいる、ということか。これほどのものを作ろうと思ったら、かなりの魔力を持った者、という事になるぞ。
外国から入国してきたということか……? 我が国での10歳の鑑定でそのような者が出たとは聞かぬからな」
「そうでございますね。しかしそれほどの力を持つならば、是非とも我が国の力としたいものでございます。これほどのポーションを作り出せるとなれば、軍隊の強化にも繋がりましょう」
「しかし、それが外国の者ならば逃げられてしまうやもしれぬぞ。そして、我が国が強い魔法使いを集めて軍備を整えているなどと噂を流されても困る」
この国の魔法使いはレベルも数も周辺国と比べて底辺だ。諸外国の魔法使いと張れる程の力を持った者は王族かその周辺の大貴族位の者しかいない。
…それは約200年前の大戦争で魔法使い達に逃げられてから続いている。これほどの年月が流れても、世界の魔法使い達はこの国を忌避する。そして世界の国々は未だにこの国と国交を持つことすらしようとはしない。
それは、あの戦争で1人の大魔法使いを悪とし断罪したこと。そしてそれ以来少なくなった魔法使いを躍起になって集め、国に無理矢理強制労働させている事への怒りなのである。
…しかしこの世の中、魔法がないと国政はおろか生活も回らない。
その証拠にこの国の医療は魔法使いがいない事で極端に遅れている。中級のポーションを作れる者すら僅かしか居ないのだ。
そしてその者を確保しようと躍起になり囲い込もうとして更に国から逃げられる、という悪循環に陥っていた。
「…なんとか、『国への強制労働』などという噂を無くし、力のある者を国に仕えさせられれば良いのだが……」
レオンハルトがそう呟くと、サイラスも頷きながら言った。
「…とにかく、このポーションの作り手をもう少し調べて参ります。そして好条件で国で雇えば良いのではないでしょうか」
レオンハルトは大きく息を吐き頷いた。
「くれぐれも、我が国への脅威で怯えさせて逃げられてしまわぬように、慎重に頼むぞ。この件は国王陛下にもお伝えする」
サイラスは頭を下げ、退出していった。
レオンハルトは残されたポーションを見つめた。今までに見たこともない程の、純度の高い美しい魔力が込められている。市中にそれ程に出回っているというのなら、これほどの魔力を持つ者は恐らく今この国にいる。レオンハルトはゾクリと鳥肌が立った。
――それが、この国にとって吉とでるか凶とでるか……。
レオンハルトはまた大きく息を吐いたのだった。
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商業ギルドでポーションを取引するようになって3ヶ月。
ローズの作るポーションは品質も良くとても売れ行きが良いそうで、ひと月前から週に150本卸している。
シェリー曰く、5人新たにポーション職人と取引を始めたという事になっているらしい。
そんなに必要? と思ったけれど、その位に魔力量の多い者は国に引き抜かれるという事らしい。とにかく、シェリーや商業ギルドに理解があって良かったとローズは思う。商業ギルド側もせっかくの取引先を国に奪われたくないというのもあるのだろうけれど。
「こんにちは! シェリーさん! 今週分をお持ちしました」
裏口から声をかけ商品を納入する。
「いつもありがとう、ローズ。お疲れ様。…後半分はまた3日後取りに行くからね」
シェリーは後半はそっとローズにだけ聞こえるように囁く。
週に1度ローズが30本程持ち込んで、残りは屋敷に瓶や材料の納入という形で一緒に回収してくれるのだ。これも周囲を誤魔化す為である。
民間ではポーション作成は1人週に30本程が普通らしい。
だいたい利益が1本辺り2000ペル位だから……。ぐふふ。
ローズは頭でそろばんを弾く。この国の平民の平均月収は15万ペル位だ。週に30本ペースでも1週約6万ペル。通常でもポーション作成が出来る者は平均より随分と高収入な仕事なのだ。それがローズは週に150本ペース。
生活費や家の修復にお金を使っても、このままなら余裕で弟の学費は払っていけるだろう。父も力の使い方に慣れつつあり、仕事も好調だ。
ローズは非常にご機嫌でいつものようにギルドでの手続きを済ませ外へ出ようとした。そこで、シェリーに呼び止められる。
「ローズ! …少し、いいかしら?」
「シェリーさん? いいですよ。どうしたんですか?」
シェリーは少し困ったような微笑みを見せながら別室へと移動し『隠蔽』をかける。
…何か、あったのかしら……?
そして2人で向かい合わせたソファーに座ると、シェリーは少し前のめりになって話し出す。
「ローズ。…もし、貴女の魔力が周りに気付かれそうになったら、なのだけれど……」
「ッ!! 誰かに、気付かれたのですか!?」
まだポーションを卸し出して3ヶ月程だ。ギルド側もローズ1人が作成してると気付かれないようにと色々策を講じてくれているというのに、一体どうして……。
顔色を変えるローズに、シェリーは慌てて言葉を補足する。
「違うの。まだ、完全に見つかった訳ではないのよ。ただ……。あのポーションは貴女が思うよりもずっと品質が良いわ。そしてここ最近は街でポーションが安定して供給されている。今日も騎士団がうちのポーションの事を聞いてきたの。勿論打合せ通りに答えているけれど、『腕の良い魔力の強い魔法使い』がどこかにいると、気付かれかけているのかもしれないわ」
「そんな……。たった3ヶ月、ただポーションが街に出回り出しただけで……。騎士団が調べる程のことでもないでしょうに……」
ローズはだんだん腹がたってきた。街は少し外れに行けば治安も悪くなるし、この首都ルーアンから出れば盗賊も出ると聞く。幸いこの王国には強い魔物は出ないが、悪い事ならともかく、街にポーションが出回っただけの事で騎士団が動く必要があるのか。もっと他にするべきことがあるだろう。
「…それだけ、あのポーションの品質が高くて、国の上層部もそれを欲している、ということね。
…それで、ローズ。貴女がその力を国に奪われたくないなら、ひとつだけ合法的に国が手を出せない方法があるわ」
合法的に?
「それは……どんな方法なのですか……?」
シェリーは頷き、真剣な顔で話し出した。
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