表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/117

200年前 マイラと図書館 2

200年前のマイラとラインハルトとの出会いです。


 ラインハルトとメルケルは初めは2人で警戒しながら中を確認していたが、この広大な図書館ではキリがないと、とりあえず二手に分かれた。何かあれば2人は魔法を使えるのですぐに連絡を取り合える。


 ラインハルトはこの図書館の奥の、貴重な魔導書がある辺りにまで来た。その奥には取り出した本を読むコーナーがある。一本の木を切り出した長い大きなテーブルに椅子が並ぶ。


 ……そこに、1人の女性が座っていた。白いローブを羽織った小柄な女性。そして美しいブロンドの髪。……カルトゥール家の色だ。


 彼女はただ黙々と本を読んでいた。

 ラインハルトが近づいても気付く素振りも見せない。ラインハルトは書棚から適当に本を取り、ゆっくりと斜め前くらいの位置に座ってみる。彼女は全く動じない。


 この位置から彼女の顔を窺い見る。俯いてはいるが、見えるのは整った顔立ち。そしてまつ毛は長く、その瞳は必死に文章を追っている。


 ――美しい。

 ラインハルトはそう思った。


 そうして暫く彼女の顔に魅入られたように見ていたのだが。


「………あの、何かご用ですか?」


 不意に顔をあげた彼女が真っ直ぐにラインハルトの顔を見て問うてきた。……その瞳は金。ラインハルトは心臓がギュッと鷲掴みにされたかのようになった。


 ラインハルトは27歳。この国の公爵家の三男で帝国学園を優秀な成績で卒業し、その後も騎士団で史上最年少で騎士団長にまで上り詰めた。豪華な金髪に青い瞳。周りから『金獅子』と呼ばれている。そして美青年でもあったことから非常に女性から人気があった。……しかし、自分がこんな気持ちになったのは初めてだった。


 周りの者達がよく話していた、心を掴まれるというのはこういうことか――。ラインハルトは今の状況も何もかも吹っ飛んで、そんな事を考えた。






 マイラが目当ての本を見つけると、ちょうどその近くに本を読む為の大きなテーブルと椅子があったのでそこに腰を落ち着けた。

 ……ああ、この『超・魔導書』シリーズは凄くいいのよね! 我が国には戦争の影響かどうしても良い本が手に入らなくて、コレの続刊があると人伝に聞いた時に必死で探したのだけれどどうしても手に入らなかった。

 流石は帝国の誇る図書館ね! 他にも良さそうな本がたくさんあるし、なんて素敵なの!


 なんて事を考えながら読んでいると、この図書館で何やら騒ぎが起こっている事に気付く。……入口の方ね。? この図書館にいた人がどんどん外に出されているわ。火事……などではないわね。コレは原因は私、という事かしら? ……厄介ね。まあいいわ。ここに誰かが来る寸前まではここにいるわ。なかなか読めるものではないのですもの。


 すると明らかに魔力の強い者が2人、この図書館に入って来た。そしてその内の1人がマイラのある部屋に入って来た。

 ……警戒はされているけれど、特に敵意はない。まだ話しかけられる事もなかったのでそのまま本を読み続けた。その男性は近くの本を取り、マイラの斜め前に静かに座った。

 しかし男性は本を読む事はなく、じっとマイラを見続けた。暫くは放置してそのままでいたのだが――。


 ……ちょっと、いつまで私の顔を見ているの? 持ってる本も全く読んでいないじゃない! いい加減、気になるのだけれど!


 そうしてマイラが顔を上げると、そこには金髪碧眼、そして筋肉質でいかにも軍人といった風の美しい青年が座っていたのだった――。




 彼はその青い目を見開き、少し驚いた様子だったけれどすぐに気を取り直しローズの問いに答えた。


「……済まない。不躾であったか。……余りに真剣に本を読まれているので声を掛けそびれたのだ。私はラインハルト バートン。この国の公爵家の人間で怪しい者ではない。……貴女の名を伺っても?」


 意外にも彼は優しげに、そして丁寧にこちらに接してきた。

 ……不審人物だと思って調べにきたのではなかったの? そう思いながらも相手がきちんと尋ねてくれているのだから、勿論こちらもきちんと返す。


「……マイラ カルトゥールと申します。一応、今この国と戦争をしている国の出身なのですけれど……。本が大好きなのです。そして、ずっとこの本を探していて……。決して何もしないと誓うので、ここにいさせていただくことは出来ますか?」


 本当は最悪攻撃されればこの本を拝借してとっとと逃げようかとも思っていたのだけれどね。……勿論、読み終わったらまた返しにくるわよ?

 そう思いながら彼の瞳を見返す。


「マイラ嬢。確かに我らの国は戦争をしております。……そして貴女はこの図書館にはきちんとした手順でもって入館されていますが……。この街にはどうやって入られたのですか?」


「この帝国は世界で最も優れた魔法師団があるといわれている通り、素晴らしい護りで街は守られておりました。このような戦争の最中では私の立場で正面の門からの入国は難しく、仕方がないのでこの防御壁をなるべく傷付けないように気を付けて入りました。……ただ、本当に素晴らしい護りでしたので、入る時少しその魔法の壁に触れてしまって……。それで、気が付かれたのですよね?」


 マイラはこの部屋の入口で様子を窺っていた、魔法副師団長メルケルに向かって言った。彼は気配を消していたようで一瞬驚いた顔をしたが、意を決したようで部屋の中に入って来た。


「……魔法副師団長メルケルです。カルトゥール家の長子ともなると、いとも簡単にあのような事ができるものなのですか?」


「簡単ではないですわ。あの魔法の編み込みは芸術的な程でした。ですが、私はどうしてもこの本が読みたかったのですわ。我が国ではどうしても手に入らなくて……!そしてこの本の作者がいらっしゃるこの国にも来てみたかったのです。こんな情勢でなければこの国に留学して学びたかった……!」


 つい熱く語ってしまうマイラを、2人は呆然と見ていた。

 ……この娘が、世界で最も優れた魔法使いと評される『カルトゥール一族』の長子。……元々の魔力が桁違いな上に、この魔法に対する熱すぎる熱意でここまでの魔法力を手に入れている、ということか。


 こんな魔法馬鹿……いや、魔法に対し熱意の有る若者を、この愚かな戦争に参加させてしまうカルドラ王国。こんな世界情勢でなければ、彼女は思う存分魔法を研究し、世界各地を飛び回って魔法を駆使し生きる事を謳歌していたのではないだろうか。


「マイラ嬢。……貴女はこの後どうなさるおつもりか? この図書館を出れば戦争という愚かな事に加わるのか」


 真剣な顔をして問うラインハルトに、マイラはキョトンとしてから答えた。


「……私は国で、『リンタール帝国の図書館に行きたい』と言っただけなのです。そうしたらなんだかんだと周りに担がれてここまで……。でも、ハッキリ言って『転移』で来た方がよっぽど早いんですよ。本当に彼らにはイライラさせられました。私は当初の彼らとの約束通り、『旗印』となってここまで馬に乗ってやって来ました。……ので、本を読んだら速やかに国に帰ります。……あ、この本の貸し出しってしてもらえるのですか? 出来れば1週間程貸していただけると嬉しいです」


 まさかの本を貸して、の願いにラインハルトは驚いたが、このマイラという女性はそれだけ魔法に熱意を持っているのであろう。


「ここの魔導書のコーナーは本来持出禁止なのだ。……しかし、貴女がこの戦争に加担しないと約束してくれるのならば、1週間の貸し出しを認めよう」


 最初、がっかりしかけていたマイラはラインハルトの言葉を最後まで聞いて、パッと表情を明るくした。


「本当ですか!? とても嬉しいです!……あ、勿論私は戦争に加わりません、元々関わるつもりは無かったですし。そして1週間後、必ずキチンとお返ししますので! ……そうだ……!」


 彼女はそう言ってポケットから何かを取り出した。……それは魔物から取れる『魔石』だった。

 彼女はその魔石に手をかざし、その金の瞳を閉じた。


 ――それから流れたその黄金の魔力。


 ラインハルトとメルケルは、その姿に暫し魅入られた。


 彼女のプラチナブロンドの髪が揺れ、そこにゆらりと流れる黄金の魔力。それは彼女の姿を女神と思わせる程に美しかった。


 黄金の魔力がふわりと消え、マイラが目を開けた。

 目を開けていても美しい女性だが、2人は少し残念な気持ちになった。

 マイラはニッコリと笑って言う。


「……ここに、結界の魔力を込めました。コレを一度月の光に当て帝都の入口の門の上に置けば、おそらくは1週間程は敵のどんな力も跳ね返します。あ、どんな、とは言っても、私の力以下って事なのでそれ以上の者に攻撃されればダメなんですけど」


 2人は絶句する。

 ……今、なんと言った? 『どんな力も跳ね返す』??

 それにマイラ以上の者? そんな者はおそらくドラゴンかエルフくらいのものだろう。

 そう思い戸惑う2人を見て、マイラは違う解釈をしたようだった。


「……ああ! すみません。勿論ここの結界は元から素晴らしいものです! ……ただ、攻撃を受ければそれなりに傷が付いたりして被害が出る場合もあるでしょう? それにコレは『跳ね返す』んです! 向こうの攻撃は自分達に返りますから、こちらは何もせずして向こうが勝手に自滅してくれるという訳です!」


 どうだ! と言わんばかりに胸を張るマイラ。


 ……イヤ、いいのか? マイラがこちらに攻撃しないというのは非常に有難いが、自分の国の者に被害が起こってしまう物をこちらに渡して本当にいいのか!?


「……貴女は……、それでいいのか?」


「こんなものは、攻撃する方が悪いのです! それに自分達の攻撃が返ってくるのだから、自分達が止めればいいだけの事なのです。選ぶのは彼らです」


 さくっと、そんな答えが返って来た。


「それで、本来この帝国の国民でない私がこの希少な本をお借りする事の()()は返せますでしょうか?」


 少し心配そうにこちらを覗き込むマイラ。


「……十分過ぎる程です。出来れば貴女のような方にはこの国に留まって欲しいものです。そうすれば、ここの本は読み放題ですよ」


 そう誘いをかけてみたのだが。


「うっ……。そんな、甘い言葉には乗りません! 私はまだ学生で勉強が本分なのです! ……でも、こうして時々本をお借りしても……いいですか?」


 マイラは一瞬迷ったようだったが、そこまでこちらの思惑には乗ってはくれなかった。




 ――しかしそれからマイラは時々こうしてこの図書館に本を借りに来るようになった。


 そしてその後ラインハルトは彼女の心を射止めるべく、この図書館に通う事になるのだった……。





お読みいただき、ありがとうございます!


 マイラはこの時大学生で勉強や魔法の研究に夢中でした。王国は力のあるマイラを利用しようと『帝国図書館にいくなら一緒に』と無理矢理行軍に付き合わされました。

『図書館に行くだけですから!』と初めから念を押し、図書館に行ったらさっさと帰るつもりだったマイラです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ