40 リアムと第3王子
急に顔色を変え立ち上がったローズを見て、レオンハルトは驚く。
……何か、あったのか? 私には何も感じられなかったが……。
「ローズ嬢! 大丈夫かい?」
声をかけると、ローズは少し焦った様子でレオンハルトを見た。
「……リアムが……! 弟の『御守り』が反応しているのです。彼に何かあったんだわ!」
そう言って出て行こうとする彼女を止める。
……リアム。ローズ嬢の弟だな。
レオンハルトはローズの事は既に大まかに調べてある。
「……待ちなさい。貴女の弟は中等部だね? まだこの時間なら学園内にいるのではないかな。……私も一緒に……」
そう言っている途中で、彼女は何やら考え込んでいる。……そして、ふわりと魔力を感じた。……まさか『転移』するつもりか?
「ローズ嬢。こんな学園の中での『転移』は感心しない。誰かに見られでもしたら……」
そう言うと、ローズは少し早口で言った。
「……『遠視』をしてます。リアムの気配から彼の周りを探って、すぐに行くべきかどうかを……」
……コレはきっと、弟を心配する余り魔力を使うことに迷いがない状態、なのだろうな。レオンハルトはそんなローズを他の者に見せない為にこの部屋の鍵を魔法でかける。
そしてローズにはその弟の様子が視えているようだった。
「……ローズ嬢。その『遠視』、私にも視えるように出来るかい?」
ダメ元で聞いてみる。
ローズは無言で頷き、壁に向かって手をかざした。すると部屋の壁に彼女の弟がいるだろう場所が映し出された。
……コレは……! 凄いな。ここでない場所を映し出す事が出来るなんて……。
レオンハルトは最初その魔法に驚いたが、次にそこに映し出された人物に驚く。
そこには2人の少年が映っていた。そしてその内の1人はレオンハルトの弟、第3王子オスカーだったのだ。
オスカーは今の王妃の2人目の息子。年が離れた弟は母が違うという垣根を超えて、幼い頃からレオンハルトにも懐いてきてくれていた。先日、もう1人の弟テオドールからオスカーの怪しげな話を聞いたが、どうしてもしっくりきていなかったのだが……。
しかし今映し出された弟はそんないつもの可愛い末っ子の第3王子……、ではなかった。いや、姿形はそのままなのだがその表情は……なんとも醜悪に見えた。そんな弟の姿にレオンハルトは驚きを隠せなかった。
そして映像に映るもう1人の少年がローズの弟リアムなのだろう。彼は驚愕した様子でオスカー王子を見ていた。
「……嫌だなぁ……。何持ってるの? ソレ……」
間違いなくいつも聞いている弟の声までが、レオンハルトの部屋に聞こえて来たのだった。
リアムは少し震える手で胸のペンダントに制服越しに触れた。まだそれは少し熱を持っているように感じた。
オスカー王子は口調はいつもの可愛い第3王子なのだが、その歪んだ表情でとてもいつものように可愛い王子とは思えなかった。
「……殿下……!? いったい、コレは……?」
……リアムは驚いていた。
オスカー王子が急にリアムの側まで近付いて、じっと目を見つめてきたと思ったら、姉ローズからもらったペンダントがいきなり反応したのだ。……そして、強い静電気が起こったかのように、オスカー王子は弾かれたように見えた。
オスカー王子は目を閉じ一つ大きく息を吐いた。
「……ふふ。何でもないよ? ちょっと、リアムをからかってみただけ! もう、びっくりしたなぁ、リアム。いきなり弾くんだもん! 痛かったよ?」
そこに、王子の側近が現れた。
「オイ! お前! 殿下に対してなんて事を! 暴力事件で学園側に訴えてやるぞ!」
「なっ……! 僕は、何も……!」
急にリアムに対して不穏な雰囲気になりかけた、その時――。
「お待ちください!」
王子の側近に罪を被せられそうになり慌てるリアムの所に、1人の女生徒が現れた。
この国のどこにでもいるような茶髪の小柄な少女。
「……その生徒は何もしていませんでしたわ。殿下が1人で倒れられたのです。……殿下方はいつもそのように何もしていない生徒に罪を被せようとされているのですか?」
その時には下校途中の他の生徒達も周りにチラホラと集まって来ていた。
そして一つの声が上がる。
『……そういえば、前もこんな事があったような……。殿下が怪我をさせられたと、でも殿下の側近以外には誰も見ていないんだよな……』
「え……!? まさか、そうやって何人も冤罪をかけられているのか……、?」
周りの生徒達が騒ぎ出す。
自分達に状況が不利になった事を悟った第3王子は一瞬嫌な顔をしてから、パッといつもの可愛い表情になった。
「……もう! トムったら大丈夫だって言ってるのにー! 心配症なんだから! リアムもごめんね? 彼は僕のこと心配する余りに大袈裟になっちゃって……」
「……ッ殿下! しかし!」
「……大丈夫だから」
それでも言い続けようとしていた側近に、オスカー王子は鋭く睨み低い声で諌めた。
そしてくるっとリアムの方に振り向き上目遣いに見つめた。
「リアムごめんね? これに懲りず、これからも仲良くしてくれると嬉しいな」
そういつものように可愛らしく振る舞う姿に、青ざめながらも一応リアムは頷いた。そして「急ぎますので」と立ち去った。
当事者の片方が立ち去っても周囲の疑いの目は完全には収まってはおらず、オスカー王子は少し苛立ちながらも周囲をもう一度見渡した。
そこには最初に声を挙げた茶髪の女生徒の姿はなかった……。
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ローズはリアムを心配するあまり、レオンハルトの目の前で魔法を使ってしまいました。…が、レオンハルトはその魔法に魅入られてしまいます。




