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39 友人の呼び出し



「こんにちは。……ローズ ダルトン嬢ですね?」


 そう言って、濃い茶色の髪に緑色の瞳の美しい青年はローズに笑いかけた。いかにも高位の貴族と分かる物腰の、ローズよりも少し年上であろう青年。


 フェリシアとミゲルと秘密の話合いをして数日。今日は2人とも用事でいない。ローズはくれぐれも気を付けて寄り道せず帰るように、と2人に強く念を押されて教室を出た所なのだが……。


 え。誰ですか??


「……そうですけれど……。貴方様は?」


 ローズが不信感いっぱいの目で見ながらその青年に問うと、「ああ、これは失敬」と、きっと本当はちっとも失敬だなんて思ってないのだろうな、といった軽い感じで彼は答えた。


「申し遅れました。私はパウロ マクレガーと申します。以後お見知り置きを。…………あ、殿下の使いです」


 目の前の青年はおそらく1番大事な事をさらっとついでのように言った。


「えー、と……。……レオンハルト殿下の、ですか?」


 年代的に、そうかな? と思って名前を出す。


「……そうです! ああ、良かった! ……助かりました! もしも殿下お1人の思い込みで貴女にそんな人知らないなんて言われたら、私はいったいどうしようかと……!

………それでは、ご案内いたします」


 さっきまでのノリノリ具合はどうしたのかと思う位切り替えが早い人だった。そしてその変わり身の速さに圧倒され、とりあえずついて行ってしまうローズだった。





「リアム! 一緒に帰ろう!」


 王子としての品位を保ちつつ、末っ子独特の愛らしさを振り撒きオスカー王子はリアムの所へ駆け寄って来た。


「……オスカー殿下」


 しまったな、とリアムは思った。殿下になるべく近寄らないと家族で話し合ってここの所は上手く王子を躱せていたのに。……敵もさるもの。リアムの行動パターンを読んでいたらしい。


「……もう! リアム、最近付き合い悪いよ!? 気付いた時にはもう居なくなってるんだからー!」


 そう言って可愛くむくれる。明るい茶髪にパッチリとした水色の瞳。13歳のこの美少年はなんだかつい手を貸したくなるような愛らしさだ。

 ……だけど、僕はワザと避けてたんだけどな。


「申し訳ございません、殿下。……もうすぐテストだというのに僕は成績が思わしくなくて……。ここのところずっと早く帰って勉強しているのです」


 まあ、嘘ではない。

 そしてコレは王子云々関係なしに、成績をSクラスに維持する事はリアムのプライドでもあった。


「なぁんだ! それなら一緒に勉強すればいいんだよ! 僕のいえに来る?」


 ――王子の家! 王宮! 城! イヤイヤ、勉強する為にどうしてそんな所に!

 リアムはめまいがした。……やっぱりコレって、『聖女』かも知れない者の弟を取り込もうとしてるんだよなぁ……。


「……いえ。それでは僕がとても落ち着けないので遠慮しときます」


 リアムがサクッと断ると、王子はニコリと笑った。


「……ふふ。そういうところが良いんだよなぁ。……僕は将来リアムには僕の側近の1人になって欲しいと思っているんだよ」


「……『王子の側近』は、高位の貴族の子女がなるものと決まってます。僕の家は貧乏子爵家ですから」


「でも仕事が出来て、何より僕を分かってくれる者じゃないと意味がない。……それに僕の側近なら高給取りだよ?」


 ……それは、少し……かなり? 惹かれる。

 そこで少し考える様子を見せるリアムを見て、王子はニコリと笑った……。







 コンコンッ、カチャリ……


「殿下! お待たせしました! お連れしましたよー! お待ちかねの『ご友人』です!」


 レオンハルトはふざけた様子の側近をスルーしてその後ろを見た。……そこには栗色の髪に榛色の瞳の、確かにレオンハルトが待ちわびていた人物がいた。


「……失礼いたします。……あの……、こちらのマクレガー様に呼ばれて来ました。何か、ご用ですか?」


 『友人』であるところのローズは、控え目に部屋にそろりと入る。……そして行儀は良くないと知りつつも、キョロキョロと部屋の中を見た。


 ――ああ。200年経ってもここの雰囲気は変わっていない。

 そう思ってローズは感動していた。……だってこの部屋は、200年前魔女マイラの研究室だった場所なのだから。


 この間『手招き』されていたのはこの部屋からだった。あれからずっと気になっていたのよね……。


 そんな事を考えながら少し挙動不審な様子で入ってきたローズを見て、レオンハルトはこの部屋の物々しい雰囲気がいやなのだろうかと心配した。それとも、部屋に女性を招くなんてとまた言われてしまうのだろうか?


「……素敵な、お部屋ですね。殿下。……特にこの、本棚。色んな本がいっぱい……!」


 ところがこの『友人』は、この部屋がいたくお気に召したようだった。


「……そうかい? 良ければ色々見ていくといいよ。……パウロ、茶の準備を」


 そこでレオンハルトは扉の横でニヤニヤして見ていたパウロに仕事を申し付けた。パウロは少し不服そうに、「はーい」と返事し部屋から出ていった。


 それに気付かず、ローズはこの壁の側面いっぱいに作られた本棚に収められた本達に目を奪われていた。


 ……ッ! ……この本、前世で読んでいた『魔導書シリーズ』の3巻じゃない……! 前世では世界一の図書館と呼ばれた帝国図書館で、当時の最新刊だった2巻を見つけて……。……その時、()()()()と初めてお会いしたのだったわ……。


 唐突に思い出した前世の記憶に、ローズの胸が少しキュッとなる。ほろ苦くて少し甘いような、あの時間……。


「………ローズ?」


 レオンハルトに呼びかけられ、ローズはハッと我に帰る。


「ッ! 申し訳、ございません……。余りにたくさんの興味深い本があるので、つい見入ってしまって……」


「それは良かった。余りに本だらけの部屋で女性には不向きかと心配したのだが……。気に入った本があれば持って帰っていいよ。次に来る時返してくれればいいから」


「ッ! ……本当ですか!! ありがとうございます! レオンハルト殿下……!」


 思わず満面の笑顔をローズから向けられ、思わずこちらも心からの微笑みを返すレオンハルトだった。


「あっ……、そうだ、ごめんなさい。殿下は何かご用があって私を呼ばれたのですよね? どうかなさったのですか?」


 不意に我に帰り、真面目に聞いてくれるローズを好ましく思いつつ、レオンハルトは椅子に座るよう勧めて本題に入った。


「……ローズ嬢。あれから噂に巻き込まれてはいなかったかい? 私と弟の事がおかしな話になっていたようだが、とりあえず相手の名前は出ていないようだったから放置していたのだが……」


 ……ああ、殿下方2人が1人の女生徒を取り合っていたという、あの噂ね。


「……はい。大丈夫でしたわ。テオドール殿下に呼び出された時すぐについて行ったので、周りの人々は相手が誰かとは分からなかったようで……」


 ……コレもあの時、『認識阻害』の魔法をコッソリかけていたからだけどね。勿論今日ここに来る時もかけておいた。

 殿下はホッとされたようだった。


「それは良かった。それと……最近貴女の周りで、おかしな事が起こったりはしていないかい?」


 おかしな、こと……? ……それならまさしく今のこの状況だ。


「あの……。こうして殿下に関わる事が既におかしな事なんですけど……」


 ローズがそう言うと、レオンハルトは少し困った顔をした。


「貴女にとっては、そうなるのか……」


「一般生徒は、普通は殿下と関わる事なんてないでしょう? 特に同じクラスでもなんでもないのですから……、あ……」


 不意に弟と同じクラスの第3王子の事を思い出す。


「? どうした? やはり何か気になる事が?」


 ローズはチラリとレオンハルトの表情を見る。

 ……今、レオンハルトが自分に関わるようになった事で、これから弟は第3王子に手出しはされなくなるのかを聞いてみようか?

 しかしそんな殿下の家族の事を尋ねては、いくら『友人』とはいえ『不敬罪』と言われても仕方ないのかもしれない。まだレオンハルトの人となりもよく分からないのだ。


「……いえ。何でもございま……、ッ!!」


 ……キィィンッ……!


 急に耳鳴りのような感覚があった。


 ……ッ! コレは……! あの、『御守り』が反応しているのだわ! これは……リアムの!?


 ローズは顔色を変えて立ち上がった。




お読みいただき、ありがとうございます!


パウロは、ローズはきっとレオンハルトとなりたくて友人となった訳ではないのだろうな、と分かっていたので、少し意表をつくやり方でローズの気を逸らしレオンハルトの元まで連れて行きました。

そしてローズを見て一喜一憂するレオンハルトを微笑ましく見ていたら……、ていよく用事を言いつけられて追い出されてしまいました。ちょっと不服なパウロですが、あんなレオンハルトを見るのは初めてだったので良しとしました。


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