37 兄弟の真実 1
「───私は大変驚いております。レオンハルト様。何しろ2日前に殿下は『まだ聖女様に求婚するつもりはない』と仰っていたと言うのに、その翌日には『聖女』様に愛を告げ、友人関係にまで持ち込んでいらっしゃるというのですから!」
学園での、レオンハルトの研究室にて。
側近パウロは呆れ顔でそう言った。レオンハルトはそんな側近の言葉に肩をすくめた。
「……仕方ないだろう。テオドールが彼女の事を『聖女』か私の『想い人』かどちらかと聞くのだから。彼女も『聖女』だと言って欲しくは無さそうだったので、とりあえず彼女に惹かれていると言ったのだ。……当の本人には『話した事もないのにそんな事はあり得ない』と否定されてしまったのだが……。
なんとか友人として私を見て欲しいと彼女に願い、それだけは叶えてもらったのだ」
パウロは驚きの表情を浮かべた。
「───天下の王太子殿下が! この国1番の魔法使いで金髪碧眼の美青年であらせられる、レオンハルト殿下が……まさか想い人にお振られになられるとは!」
彼は初めは大袈裟に驚いて見せていたのだろうが、だんだん興に乗ってきたのか最後は半笑いだ。
レオンハルトは不服そうにため息を吐き、笑いを抑えつつニヤける側近を少々恨めしそうに睨んだ。
「コホンッ……。……まあでも、考えようによっては聖女様は見る目がおありになる、という事ですね。地位も力も美しさも兼ね備えた殿下を簡単に振っておしまいになるだなんて。相手を見かけで判断するような方ではない、という事ですから」
そしてパウロは、「流石は聖女様ですね」と感心していた。
――確かに、そうかもしれない。
今までレオンハルトから誰か女性に迫る事などなかったが、学園でも夜会でもレオンハルトはとにかく女性達に囲まれてきた。大概の女性はローズに言ったように愛を囁けばイエスというのかもしれない。
――彼女は……ローズは、これから自分のことをきちんと見てそして好意を持ってくれるだろうか? そして、自分も今のこの想いが本当に恋なのかどうか、分かるのだろうか……?
そしてレオンハルトはもう一つ大きく息を吐き、気持ちを切り替える。
「……パウロ。そして先程も話した通り、これからテオドールがここに来る。これまでのことを腹を割って話し合いたい、との事だ。……私も彼の話をじっくり聞いてみたいと思う」
パウロも真面目な顔になって頷いた。
「承知致しました。……こちらといたしましてもあれから陛下も弟殿下達の動きもさっぱりございませんでしたし、何か少しでも情報を知れるのであれば有り難い事だと思います。こちらも色々と対策を練ることが出来ますしね」
「……ああ、そうだな。様々な案件はあるが……。例えばあの暗殺未遂事件や『魅了』の件。あちらからはそこまで言及はしないだろうが、何か手掛かりでも掴みたいところだな。まあ実のところは今日は、テオドールの恋の話で終わるのだろうとは思っているのだが……」
そう2人で話し合っていると、向こうから見知った人の気配がした。……相手は2人。
「……来たぞ。茶の準備は出来ているか? 向こうの出方は分からないが、一応私は気になる令嬢にアタック中なので今はこちらの事はそっとしておいて欲しいということになっている。昨日はそれに同調的であったから、おそらくその流れの続きの話となるであろう」
「畏まりました。ご兄弟、ご存分にお話しくださいませ」
――そして扉がノックされ、弟テオドール王子が側近1人を連れ、にこやかに挨拶をして入って来た。
「兄上! 貴重な時間を私のために割いていただきありがとうございます! コレは我が母方の叔父の領地の特産物でございます。どうぞお納めを。そして……。この者は私の側近。ロン クラーセンです」
テオドールが紹介してきたその側近の名に、レオンハルトとパウロはそれと気付かれないように驚く。
……クラーセン侯爵は以前のレオンハルト暗殺未遂事件に関わり、国王により別件で処罰を受けている。おそらくその侯爵の息子。
「テオドール。よく来てくれた。そしてわざわざ土産をありがとう。こちらもお前が好きだという菓子を用意してある。……そして、ロン。いつもテオドールについてくれてありがとう。……ここにいるのは私の側近、パウロ マクレガーだ。……さあ、座ってくれ」
レオンハルトは2人を椅子にすすめた。側近であるロンは最初遠慮していたが、パウロもレオンハルトの横に座るということでやっと落ち着いた。
「……兄上、今この顔ぶれで昨日の話の続きをしても……?」
「ああ。勿論構わない。ロンもそうなのだろうがこのパウロも私の大切な友人であり腹心の部下だからね」
「ありがとうございます。……兄上、昨日は勝手な事をしてしまい申し訳ございませんでした。……あの、あれから兄上達は……?」
「……彼女には、なんとか『友人』となってもらう事が出来た。テオドール、お前のおかげだ」
途端にテオドールの表情がぱあっと明るくなった。
「左様でございますか! 実際に会うのが昨日が初めてならば、『友人』からで十分かと思います。これから2人心を通い合わせていかれる、という事ですね、素晴らしいことです!」
喜ぶテオドールに少し面はゆい気持ちになるレオンハルト。
「ああ。……そしてテオドール。お前の恋も前進するように祈っている。彼女の気持ちは聞いているのか?」
「ジュリア嬢は……。彼女は、完璧な女性ですから。私の気持ちにはおそらく気付いてはいるのでしょうが、彼女は立場のある身。公爵家からも王妃となるべく期待されているのでしょうし、私自身も第2王子でありますから直接気持ちを伝えてはいないのです。
それに……」
テオドールが言葉に詰まる。何かを言いたげなのだが決心がつかないようだ。
「テオドール。無理をして話す事はない。今まで関わって来なかった兄に話しづらい事もあるだろう」
レオンハルトは優しく弟であるテオドールにそう言ったのだが、彼は縋るような目で兄を見て来た。
「違うのです! 兄上……。この部屋に『隠蔽』を……かけていただけますか?」
思い詰めた様子のテオドールに、レオンハルトは了解し部屋に『隠蔽』をかける。これで周りに話を盗み聞きされる事はない。
「『隠蔽』はかけた。……エイマーズ公爵家は生粋の国王派だ。国王がこれと指名した者に娘を嫁がせるだろう。……だが、私はそれが自分ではないということは分かっている。テオドール、お前も本当はそれは分かってはいるのだろう?」
世間や自分達が幼い頃は魔力の抜きん出たレオンハルトが次代の王と思っていたようだが、おそらく本当はそうでない事をテオドールはもう分かっているはずなのだ。
「……兄上。兄上は、父王のお考えを……?」
「……全て分かっている訳ではない。だが父王は本当はお前かオスカーをと考えておいでなのだろう?」
テオドールは目を見開き驚愕した。その横の側近ロンもだ。
「……そこまで、ご存知でしたか……。……それでは……、『魅了』のことも……?」
レオンハルトはためらいがちに答えた。
「あぁ……。それとなく、ね。そして父王がその能力を使ったのであろう人物もおそらく私は見ている。コレは、我が国の王家のみに現れる能力だとか……?」
テオドールはうつむきがちに答えた。
「……そのようです。私も幼い頃からそのような能力を使えました。それに気付いた母は喜びました。これでいくら前王妃の残した王子の魔力が強くとも『魅了』の能力を持つお前が次代の国王だ、と……。そのあと私はエイマーズ公爵令嬢と出会い、彼女と一緒にいる為には王太子にならねばならないという事実を突きつけられました。そして兄上を敵視し愚かな振る舞いもたくさんして参りました……」
テオドールの懺悔にレオンハルトは驚きつつ、じっと彼の話に聞き入る。
「そして半年程前……。ここにいるロンの父であるクラーセン侯爵からある提案をされたのです。兄上の立場を貶め、その地位から追い落とす良い手があると……。そして私は彼が外国から連れてきたという魔法使い達を紹介されました」
そして続けられた弟のその言葉にレオンハルト達は目を見開く。
「……兄上、もうお分かりですよね。そうです。兄上の暗殺未遂事件の犯人達です」
お読みいただき、ありがとうございます。
穏やかに話し出した兄弟でしたが、早くも雲行きが怪しくなってきました……。
パウロもロンも、それぞれの家が推す王子に幼い頃から付けられました。幼馴染であり1番の友人であり、側近としてほぼ定められた存在です。




