36 友人達 3
ローズが微妙な顔をするのを見て、ミゲルは思わず尋ねた。
「? ローズは何か知ってるの? ……あぁそれも言えない秘密の一つ……?」
……確かにただのマイラの弟の子孫、しかも最近力に目覚めたばかりのローズが、『古代のドラゴンの魔石』からマイラがあの魔物除けの魔法石を作り上げたなんて知っているのはおかしいのではないか? とは思ったけれど、彼らにこの国の謎のヒントを与えたくてぼかして話してみる。
「ええっと……。どうやらマイラは魔石を加工するのが得意だったみたいなのよね……。そう、我が家に伝わる書物にそんな事が書いてあったの。その昔にあった『古代のドラゴンの魔石』がこの国に持ち込まれ、そのあと何年も経って当時王立学園に在籍するマイラの手元まで来たそうなの。マイラはそれを『魔物除けの魔石』に加工したところを学園の教授から王国に渡ったとか……」
……そこまで話して2人を見ると、驚いた顔をしてこちらを見ていた。
あれ……? もしかして話し過ぎたかしら……?
「……その『古のドラゴンの魔石』のことは僕も聞いた事があるよ。どこかの王国の偉大な冒険者がドラゴンを倒して手に入れたという貴重な『魔石』。そのドラゴンは寿命も来てたんじゃないか、とも言われているけどね。そしてその『魔石』は余りにも強力過ぎて誰にも扱えなかった。とりあえずその王国の国宝として飾られていたものを何者かに盗まれて歴史から消えてしまった、とされている。……おそらくそこからなんらかのツテを使ってこの王国に舞い込んだということか。……そしてその後マイラが、ということだね」
ミゲルが眉間にシワを作りながら言った。そしてフェリシアも言う。
「……では、マイラの手によって作られたその『魔物除けの魔石』のお陰で、この国には強い魔物がいないということなのね! ……まさかそれが200年も経ってもまだその効果があるなんて……! 流石は稀代の魔法使いね。そしてこのアールスコート王国が主張する『神の天啓を受けた勇者』説は完全に嘘だった、ということよね」
2人共すんなり話を受け入れてくれた。ローズはホッとして更に続ける。
「けれどコレは人から聞いたのだけれど、最近国境の街では強い魔物が入ってくることもあるらしいの。もしかしたら『魔石』の効果が薄れてきているのかもしれないわ。それにマイラの書物にも、あの『魔石』は定期的に手入れをしなければ使えなくなるって書いてあったの! ……だからそれが今でもそのまま使えているはずはないと思うんだけど……」
「今その効果が切れてきたのか、それとも王国はその『魔石の手入れ』をしていたがそれが最近うまくいかなくなった、ということか……?」
ミゲルはそう言って腕組みをして考え込んだ。
「でも、あの魔石の手入れには、相当な魔力が必要になるはずよ? 今のこの国の魔力を持つ者が少ない状況では難しいと思う……というような事が、書物にも書いてあったわ」
危ない危ない。一つ話し出すとついポロリと余計なことまで言いそうになる。……バレて、ないわよね? ローズは2人の様子を見たが2人共この話の内容を考え込んでいるようで怪しむ様子は無かった。
……良かった。ローズは胸を撫で下ろす。
「……その『魔物除けの魔石』をきちんと使えるようにする為には、定期的に結構な魔力が必要になる、という事ね?」
フェリシアの問いにローズは頷いた。
「今もその『魔石』が使われているんだろうが……。そもそもそんな事を可能にしたのはマイラの尋常でない魔力だし、他にこんな事ができる者がいるとは思えないよね。そしてそれを使い続けるには魔力の注入が必要だ、と……。それは、どの位の魔力をどの位の頻度で入れなければいけないの?」
「……そうね……」
ローズは顎の辺りに手を置き、少し考えてから言う。
「おそらく10年に一度は……、カルトゥール家の直系の魔力でいえばおよそ3割程の力を魔石に込めなければいけない……、と、思うわ」
「「!!」」
2人は揃ってローズを見た。
カルトゥール家の直系の魔力の3割……? だいたいカルトゥール家の直系自体が世間の魔法使いより抜きん出ていると言われている。自分の魔力がカルトゥール家の直系の半分位と仮定しても、全魔力の3分の2以上の力を注ぎ込まなければならない、ということか! 死にはしないが、暫く身体は相当ツラいだろうなと2人は同じような事を考えた。
そして、フェリシアは一つため息を吐いてローズに言った。
「……本当に、ローズの家があのカルトゥール家の直系ということなのね……。その魔力もだけれど、マイラの書物など本当にそれを見ないと知らないような真実までこんなに知っているなんて……。
我が国には戦争末期に『カルトゥール家の直系だ』と名乗る一族がやって来たと聞いた事があるわ。そしてその者は確かにそう思えるだけの力を持っていたと。戦後も暫くは我が国で暮らしていたそうだけど、どうやらその子供世代には力は随分と少なくなっていたらしくて……」
「……それは、本当の直系の者ではない、ということだよね。カルトゥール家は1人の直系の系図にしかその力は受け継がれないそうだから……。今はその一族はエルフの国に程近い国に住んでいると聞くよ。力をもっと強めるために一族同士や魔力の強い者との婚姻を繰り返して来たそうだけど、それでも当時のカルトゥールの力には遠く及ばないらしいけどね」
ミゲルはそう少し呆れ気味に言った。
「……そう……。彼らは、マイラの弟をわざと危険な国に残して去って行ったから。カルトゥール家では直系が絶えれば次の直系に力がいくの。でも直接手を下すとその資格を失うから……、彼らはあのまま放っておけばマイラもその弟も居なくなると、そう思っていたのね」
何度思い出しても、胸が苦しくなる。ローズがうつむきがちにそう言うと2人は衝撃を受けたようにそんなローズを見た。
「……何ですって……? その一族は、マイラ達をわざと……!?」
フェリシアがかなり動揺しながらそう聞いて来た。ローズは戸惑いつつ答える。
「……そのようよ。……大きな力を自分達のものに出来るかもしれない、それが少し手を伸ばすと届きそうなところにあるとなると、人ってそんな風になってしまうものなのかしらね」
そうしてミゲルは震える手をおでこに当て、絞り出すように言った。
「……信じられない……! ……ッ! ではあの時、マイラの元に届いたカルドラ国でのカルトゥール家が危ないという知らせ。アレももしかしたら、彼らがという事か……!」
「今となっては分からないけれど、その可能性もあるわね。……だけど、罠かもしれないと思いつつそれに乗ったのはマイラ。自分の力を過信し過ぎていたのかも、しれないわね……」
そう自嘲するように言うローズに、2人は何も言えなくなったのだった。
そして3人はまたこうして集まって話をしようと約束して解散した。
お読みいただきありがとうございます!
カルトゥール一族は、この世界の魔法使いの名門でした。
フェリシアはローズの話をそのまま信じていますが、ミゲルはもしかして……? と思っているようです。




