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33 取り合い


「……ねぇ、ローズ。私昨日の委員会の帰りにおかしな話を聞いたのだけれど……」


 レオンハルト殿下と『友人』となった次の日。朝、教室に入るとすぐにフェリシアにつかまり、こちらを探るように尋ねてきた。


「え、と……。……おかしな話?」


 思い切り心当たりのあるローズは少し挙動不審な様子でフェリシアの言葉の続きを待つ。イヤ、本当は全力で違う話題にでも持っていきたいくらいなのだが、いずれは絶対にこの話題になる。……コレは避けては通れない道なのだ。


「昨日の下校時間にテオドール殿下が女生徒の1人を呼び出し、その後レオンハルト殿下も駆けつけて2人でその女生徒の取り合いになったというの!」


 ドンッガタンッ……


 ローズはまだ持っていた鞄を落とし、後ずさって後ろの机にぶつかった。


「な……、な、なに? と、取り合い? 殿下達ご兄弟で? イヤイヤ、そんなまさか……」


 いったい、何がどうなってそんな話になっているの?

 コレが昨日レオンハルト殿下が話していた、噂の独り歩きの恐ろしさ、という事なの!?


 動揺しまくりのローズの後ろから、ミゲルがやって来た。


「大丈夫? ローズ」


 そう言って、ローズがぶつかった机を直し鞄を拾い上げて優しく微笑み渡してくれる。……そして、


「……まさかその女生徒がローズだなんて……言わないよね?」


 ニコリ……。ミゲルはとても美しい笑顔なのに、何やら恐ろしい。ローズは思わずひきつった笑顔を浮かべた。


「う、ふふ……。あー、えーとそういえば私も昨日殿下達にお会いしたような……。でも、取り合われてなんて、いないわよ? ……ただ、なんというか……、殿下と少しお話をしてオトモダチ? になったようなのよね……。うふふ?」


 ローズは2人に対して軽くこの話題を流してもらいたいと思ったのだが――。


「……ねぇローズ。私達に何か色々話したいことがあるのではない?」


「そうだよね。きっとローズはきちんと僕達に話をしようと思ってくれてるんだよね?」


 2人はすこぶる良い笑顔でローズに向かって言った。それは恐ろしいほどの笑顔で、ローズはなんだか少し泣きたくなったのだった。


 そして放課後に3人でたっぷりと話をしようそうしよう、ということになったのである。


 

 そしてその日学園では1日中、殿下達が1人の女生徒を取り合ったという話題で持ちきりだった。しかしその女生徒が誰か、というところまでは幸いな事に特定はされず、ローズはその中の疑いの1人という位ですんでいた。


 ローズはもし今殿下達のどちらかにでも話しかけられでもしたらと、1日戦々恐々としていたがとりあえず今日は殿下方を見かけることもなく、とりあえず無事に学園での1日を終える事が出来たのだった……。





 ――王都ルーアンの中心地から東に少し行った場所。そして魔女マイラの屋敷跡にもほど近い場所にある高級アパート。

 そこの一室の角部屋にミゲルは1人で住んでいた。


 そして学園の帰りにその部屋に集まった3人。部屋の主ミゲルとフェリシアとローズ。


「狭い部屋だけど、くつろいでて? 今飲み物を持ってくるよ」


 そう言ってキッチンに向かったミゲル。彼はここで誰も雇う事なく一人で暮らしているようだった。キッチンとリビング、そして向こうの扉は寝室と客間だろう。ほとんど物は無く、必要最低限のシンプルな物だけがあるような部屋。……おそらくエルフである彼は、この部屋はほぼ寝るくらいにしか使っていないのかもしれない。


 フェリシアはテーブルセットくらいしかないこの少し殺風景な部屋と、使用人が誰もいない事に少し驚いていたようだった。けれどローズは彼が本当はエルフで、魔法であれなんであれ大概の事はなんでも1人で出来る事を知っている。チラリと見ていると、彼はとても器用に紅茶を淹れトレーに載せて持ってきた。カフェの店員でもここまで綺麗な所作は出来ないでしょうね……。


「どうぞ。……紅茶で良かったかな」


 ミゲルは香り高いミルクティーを用意してくれた。普段から学園のカフェで一緒に食べているからお互いの好みは知ってくれているのだ。

 フェリシアとローズはお礼を言ってそれをいただく。

 ……あ……、なんだか懐かしい。この紅茶はエルフの国でよく飲まれていた茶葉だわ……。

 ローズは懐かしくてふんわりと微笑んだ。


「……美味しいわ。ミゲル。紅茶を淹れるのもとても上手なのね」


「……本当。このお茶は、私は初めていただくわ。美味しい……」


 フェリシアもお気に召したようだった。


「ふふ。コレは特別な茶葉だからね。

……2人は高位の魔法使いだから気付いただろうけれど、この部屋にはもう『隠蔽』はしてる。結界に近いものだからたとえこの国の兵士達が攻めてきたって入れないよ」


 そう言ってニコリと笑った。

 フェリシアとローズは頷いた。


「今日はローズに色々話を聞かせてもらうつもりで来たのだけれど、ローズ1人だけに話をさせるのはフェアじゃないわよね?とりあえず、私達はお互いが話せる秘密を話す、というのはどうかしら?」


 フェリシアがそう言うと、


「勿論。僕もそれで異存はないよ。この一月一緒にいて2人共信用に足る人間だと思っている。そろそろお互いの腹を割って話をするのはいい事だと思う」


 ミゲルもそれに同意した。

 

「私も2人の事を信頼しているわ。……だけど残念ながら私の秘密は殿下にバレかけて……、いえ、多分もうバレているのだと思う。出来れば2人に相談に乗ってもらえると嬉しいわ」


 ローズも彼ら2人をとても信頼していた。そして今、自分はそこそこのっぴきならない状況にいるとは思う。油断すれば、すぐに学園中……いや王国中にローズが『聖女』だということが知れ渡ってしまうだろう。

 ローズはレオンハルトは『聖女』とバラすような事はしないとは思ってはいるのだが、一度周りに知られればもう誰にも噂は止められないだろう。


「勿論、私は貴女の味方よ。……その前に改めて名乗っておくと、私はリンタール帝国のバートン公爵の娘フェリシア。そして私の母は聖国の教皇の妹。私はこの国に現れた『聖女』の事が知りたくてこの国に来たの」


「僕は……、ミゲル パストゥール。西の小さな国から……ではなく、エルフの国から来た。……僕はハーフエルフなんだ。そして僕もこの国へは『聖女』の存在を確かめる為に来た」


 2人はそう自分達の身を明かした。


 ミゲルの正体にはフェリシアも少し驚いた顔をした。エルフは誰もが会える存在ではないからだ。


 ……そしてローズは正直に話してくれた2人に対して自分も腹を括る。


「……私はダルトン子爵家のローズ。……そしていわゆるこの国の『聖女』よ」


 ローズがそう名乗ると、彼らは少し息を飲んでから大きく頷いた。




お読みいただき、ありがとうございます!


ローズは友人達に秘密を話す決心をしました。

ミゲルとフェリシアはレオンハルト王子よりも魔力は上です。

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