32 王子の友人
「……さて、ダルトン子爵令嬢。……ローズ嬢と呼んでも?」
テオドール殿下が気を使って去り、レオンハルトとローズの2人がこの校庭の東屋に残された。
「……先程から、もうそう呼ばれていましたよね?」
「……弟がいたから一応それらしく、ね。君も『聖女』と言われるよりはあの方が良かったんだろう?」
「……そう、ですけれど……!」
レオンハルト殿下はニコリと笑って、
「では、私の事も『レオンハルト』と。……私の部屋に移動するかい?」
「!! 行きません! 淑女を男性の部屋に誘ったりなんかしちゃ、いけないんですよ! ……殿下は普段からそんな事をされているのですか?」
「……そうか、そうだね。ああ、部屋に女性を誘ったのは君が初めてだよ。やましい気持ちではなく、ゆっくり話せるかと思っただけだけどね。それと、『レオンハルト』、だよ」
そう少し肩をすくめて言うレオンハルト殿下。
「……では、レオンハルト殿下は私に何のご用なのですか? そしてどうしてあんなに……私の事を見てらしたのですか? ッ! それに私は、『聖女』だとは一言も言ってないですよ? 言いがかりです!」
途中、少し自意識過剰なのかもと少し小さな声になりながら言った。そして『聖女』説も否定しておく。
「……ずっと、君を見ていたよ。君があの『魔女の屋敷跡』で見かけた少女だと気が付いたからね」
「!!」
レオンハルト殿下は、じっとローズを見た。ローズは少し狼狽える。
「あの時から、私は君に惹かれている。……これは本当だ。私は人の色、とでもいうのか……そういうものが視える。人によってその色は違う。こんな特殊な色を持つのはローズ嬢、君だけだ。間違えようがない」
色……? ローズは驚く。確かに前世でもそんな風に人のオーラが視えるという魔法使いはいた。ちなみにローズは色ではなくその人の魔力の質で見分けるのだが。
「……誤解、です。それに『惹かれて』いるだなんて……。先程も言いましたけれど、私達は今初めてお話しするのですよ?見ただけでだなんて、ただ外見が好みだったとかそういうことじゃないんですか?」
そう言いながら、『あ、この前ミゲルが言っていたのはこういうことだったのね』と思う。確かに話した事もない相手から告白されるというのは本当の自分ではない外見や理想だけで言われているのだ、と思えてあまり嬉しくない。しかもレオンハルトはローズを『聖女』だと思っているのだ。ただ『聖女』を手に入れたいだけなのだろう。
「……あの時。邸跡で見かけてからずっとだ。ずっと、君の事を考え焦がれていた。……コレが、恋ではないと?」
レオンハルトはローズを真剣な目で見つめながら言った。ローズは少しいたたまれなくて目を逸らす。
「……それは、『恋に恋してる』状態なんですよ……。この間読んだ恋愛小説にそう書いてありました……。
それに、邸跡で会ったなんて知りませんよ!?」
ローズはもうムダかもしれないと思いつつも、邸跡で会ったことを否定する。
「『恋に恋してる』、か……。では、これからお互いに知っていく事は出来ないか?とりあえず友人として互いを深く知り合い、それでこの想いが恋なのか思い込みなのかを確かめたい」
「それは『聖女』と思い込んでいる私を囲い込みたいからであって、恋ではないんですよ。そして無理矢理友人になる必要も感じません! ……立場も違い過ぎますし」
「……私には貴女と友人になることも許されないのか?」
レオンハルトはそう言って少し哀しげにローズをじっと見つめた。ローズは妙に逃げ道がない事に焦りを覚える。悪意を持っての攻撃ならばいくらでも魔法で撃退出来るが、情に訴えられるとなかなか難しい。レオンハルトは更に続けた。
「私を知ってももらえず否定されるのは悲しいな……。それに今私が貴女に拒否されれば、テオドールに何と言えばいいものか……。おそらく彼は君の所にまた何度も来るだろうね。それを見て周りも貴女が『聖女』かと騒ぎ出すかもしれない」
どんどん包囲網を狭められ、動揺したローズは不安げにレオンハルトを見る。ローズの少し慌てた顔を見てレオンハルトはにっこりと笑った。
「……ただの友人、だよ。貴女が『聖女』であったとしても、王族の友人を持ってはいけない、という決まりはないだろう? 私は友人に決して危害は加えない。貴女にとって悪い話では無いと思う。
……それに、おそらく今回貴女がテオドールに呼び出された事は学園の噂となるだろう。どのみち貴女は噂の渦中に巻き込まれる事になる」
「私が、噂の渦中に……?」
「……私もテオドールが一女子生徒を呼び出したと聞いて、こうしてここに来た訳だから。他にも何人もの生徒たちが見ていた事だろう。そういう噂というのはどんどん大きくなって独り歩きしていくものだからね。……もし噂になったなら、私が貴女に一目惚れしてテオドールがそれを取り持ち、とりあえず友人となったという事にすればいいのでは?」
「王太子が貧乏子爵の娘に一目惚れとか、それだけでまた違う噂の渦中に巻き込まれると思います……!」
「だけどそれは事実なのだから仕方がない。……もう貴女が噂の渦中の中心になる事はほぼ決まっているよ。それを、『聖女』だからとするか、私の友人という事にするか……。決めるのは貴女だ」
えっ! まさかの2択、なのですか!
「それ以外の方法は……? たまたま道を聞かれて案内しただけ、とか……」
「1学年上のテオドールが入学したての貴女に道を聞くはずもないし、貴女もたくさん人がいる中でまさか王子に道を聞くはずもないだろう?」
う……。その通りですね……。
「だけど、レオンハルト殿下と私が友人というのも、不自然だと思いませんか?」
「……私は『恋人』でもいいのだけれどね?」
「……『友人』で、お願いします……」
ローズが観念して白旗をあげてそう言うと、レオンハルトはとても嬉しそうに笑った。
「ありがとう。私達はいい関係でいられると思うよ。私は全力で貴女を守る。……だから、貴女も私を信用して欲しい。私は貴女が『聖女』であってもそれを悪用しようとは思っていないし、貴女がそれを隠したいのなら2人の秘密としてもいい」
秘密に?
「私がもし『聖女』だとしたのなら、隠しては殿下の得にはならないのではないのですか?」
殿下の得にならないのなら、どうして『友人』なんて方法をとるのだろう? それともそんなのは嘘で、友人として側で確かめて本当に『聖女』だと分かったらその途端に態度を変えるのだろうか?
「それは勿論、貴女と共にいたいからだ。そして貴女の力に興味があるのも本当だけれど、どちらかというとそれは私の中の魔法使いとしての部分だと思う。王子として貴女を利用することは考えていないよ」
「今のところは、……なのでしょう?」
ローズがそう言うと、レオンハルトは少しバツが悪そうにしながらも言った。
「……それでも、私は貴女を害するつもりはないよ。そして今は、友人としてでいいからお互いを知り合いたいと心から思っている」
そう言って優しく微笑むレオンハルトを何故か嫌いになりきれずに、困ったように笑ったローズなのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
弟テオドールのお膳立てもあり、レオンハルトはとうとうローズの『友人』という立ち位置を手に入れました!
ローズも相手からの悪意は感じられないので、戸惑いながらも受け入れました。




