29 御守り
「……ねぇ、お姉様。本当にコレ、着けていかなきゃいけないの?」
胸の辺りを触って、困った目でローズを見るリアム。
「そうよ。お父様にも着けていただいているわ。3人お揃いよ。……そこには私の魔力を込めてあるの。大切にしてね」
3人お揃いのペンダント。そのペンダントトップには昨日大司教様より分けていただいた魔石。……この国では強い魔物が出ないので小物の角ウサギの魔石だが、そこにローズの特殊な魔法を込めてある。コレは、悪意のある魔法を跳ね除けるのだ。
昨日大司教様から聞いた、200年前の戦争の真実。……諸外国の歴史は登場人物などの多少の差異はあってもほぼ同じ内容。それは、元アールスコート王国である旧カルドラ王国の王家の使者に会った後、国の主要な人物が次々と『魅了』の術にかかり祖国を裏切っていくという共通した話。そうして戦争が泥沼化していったという。
――その、『王国の使者』。戦争が始まった時はまだ10代の王子であり、戦争の終盤では王弟であった者。……その名はゲルハルト カルドラ。おそらく、彼が各国の要人に『魅了』をかけていった。
……私は、マイラの時にその本人に会っている。というか、彼には求婚までされていた。私は何故か初めて会った時から彼が苦手で、ずっと出来る限りは避けていた。だから求婚された時はすぐさま断り、それからはもうそれは分かりやすく逃げた。……彼はそれはしつこかった。
大司教様から『旧カルドラ王国の使者が……』という言葉が出た時、私は彼を思い出し、そして納得した。確かに、彼の行ったと思われる先々での要人が裏切りを犯していたような気がする。
何故か私は彼のその『魅了』はかからなかったけれど……。
そして大司教様より、最近その『魅了』避けになると思われる『護り石』が聖国で開発された、と聞いたのだ。実は大司教様も大司教就任の際にそれを持ってこの国の国王と会っており、近付いて目を見て語りかけて来た国王に対してその『護り石』が反応し、術にかからなかったというのだ。
私は前世で、おそらく術にかかり裏切りを犯した人と会った事がある。その時はそのような術の事など知らなかったが、確かにその術にかかったと思しき人物の目の奥には澱みが見えた。私は当時はその人は病か呪いにかかったのかと思っていたのだ。
そして大司教様の目を見させていただいたが、そのような澱みなどはなく澄んだ目をしていらした。……大司教様はじっと目を見てきた私に非常に戸惑われた顔をしていたけれど。
そんな訳で大司教様が持たれていた『魅了除けの護り石』を見せていただき、教会にあった角ウサギの普通の魔石をいただいて私が独自に『御守り』を作り上げたのだ!
おそらく大司教様のものよりも効き目はいいと思う。『魅了』は勿論、一般的な軽い攻撃魔法もある程度は避ける事が出来るはずだ。
コレを見た大司教様に、是非とももっとたくさん作って分けて欲しいと懇願された。
……という、大司教様垂涎の品を嫌がるなんて、リアムは分かってないわね……!
「まあ、お姉様の魔力が入ってるなら御守りになるってことだね……。うん、分かったよ。とりあえず着けてくよ」
と、余り乗り気でなさそうな様子だった。実はお父様もそんな感じだったのよね。……むう。
そしてローズもそれを身に着け、あと3つ鞄に入れた。
2つはフェリシアとミゲルに。もう1つは帰りにギルドに寄ってシェリーに渡すのだ。
「おはよう。フェリシア」
「おはよう。……昨日は少し落ち込んでいたけれど、大丈夫?」
フェリシアが心配そうにこちらを見てきた。昨日の帰り、パン屋のトムに避けられたローズは実に分かりやすく落ち込んでしまっていたのだ。
「ええ。……大丈夫。心配かけてごめんなさい。でも私はあれから殿下にも同じような事をしてしまったと反省したの。小さな子でもないのに逃げるのはダメよね」
「ローズ……。だけど、殿下の方はやはり行く必要はなかったと思うわ。トムの事とほぼ初対面の男性の部屋にいくのは全く違う事ですもの」
「うん……。……そうよね、ありがとう。……あ、ミゲル、おはよう。……そうだわ、2人に渡したい物があるの」
「おはよう、ローズ。……何かな?」
ローズは2人に、今朝父とリアムにも渡したペンダントを渡す。
「……これ、御守りなの。良かったら着けてくれるかしら?」
2人は目を見開く。
……こんな、強力な魔力のこもった魔石を初めて見たからだ。魔力の強い彼ら2人にはこの『御守り』がとんでもない程に強い力を持つのが分かった。
「ローズ……!? あの、コレはいったい……?」
自分が伯父である教皇よりいただいた『守り石』よりも、断然強い『御守り』を見て動揺するフェリシアだったが……。
「あ、これ? 手作りなの。弟にもあげたんだけど、余り喜んでもらえなかったのよね……」
少ししょんぼりしながら言うローズに、これだけのモノを作ったというローズに驚く。そしてやはりローズこそが『聖女』であり、その力は普通ではないと確信した。
そしてそのお守りを嫌がるという弟は、鈍感なのかそれとも実はそれ以上の魔力を持っていて必要ないという事なのか……。どちらだろうと考えてしまう2人なのだった。
そして2人が喜んでつけさせてもらう、と言うとはにかみながらも嬉しそうに微笑えむローズ。それを見て2人も微笑ましく思うのだった……。
そして授業が始まる。……そう思った時、担任の教師が少し困った様子で言った。
「クラスの編入生は、すぐに講堂に集まってください」
突然のことに、このクラスの編入生であるフェリシアとミゲルとローズは目を見合わせる。
「先生。……どういう事でしょうか? 今から通常の授業が始まるのでは?」
すぐさまフェリシアが反応し、ミゲルも
「僕たちだけが授業を受けられない、その理由を教えてください」
と教師を問い詰めた。
「それは……。実は、この国の第2王子であるテオドール殿下がお呼びなのです。この国の王家として、是非とも皆さまにご挨拶を、と」
これにはローズも違和感を抱いた。学園に通い始めて既に一月経っている。今更、挨拶? しかもこの通常の授業時間に?
「テオドール殿下はこの学園の2年生とお聞きしております。……それは、王子殿下ともなればご自分も授業を受けず、他の生徒の授業時間も妨げる事が出来る、ということですの? それがこの学園の方針ですの?」
王子の横暴ぶりに、怒りの声を挙げるフェリシア。ミゲルとローズも立ち上がり、教師の返事を待つ。教師も王子との板挟みなのだろう、かなり困った様子ではあるのだが、それに逆らえない様子だった。
……そこに、エイマーズ公爵令嬢が声を挙げた。
「……お待ちください。先生。確かにこれではあんまりですわ。殿下がどのようなご用事がおありになるかは分かりませんが……。時間を改めるか、それともいっそのこと、このクラス皆で行くというのはどうでしょうか?」
クラスの皆は驚いた様子だった。この王子の呼び出しには何やら悪い予感しかしない。しかし将来この国の将来を背負って立つのであろう、このSクラスの生徒の中にはその場に行く事に興味を持つ者もチラホラいるようだった。この国の3人いる王子の内の1人、テオドール殿下の本質を見極めたいといったところかもしれない。
勿論、巻き込まれる事を恐れて行きたくない様子の人達が大多数のようだったけれど。
「……では、先生。この時間は自習にして、このクラスの行きたい者だけが行く、というのはどうでしょう? それならば私は行きますわ」
この状況を面白いと思ったのかそうフェリシアがそう譲歩したので、ミゲルとローズもそれに同意した。
そうしてこのSクラス32人の内、編入生とエイマーズ公爵令嬢を含む15人が王子の呼び出しの場所に向かう事になったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
ローズは昨日は子爵家での夕食後家族で話をし、そこから教会で1時間程ポーション作りをした後更に大司教様とお話をしたローズは、かなり眠いはずですが……。
毎日低級ポーションを飲んでいるので『元気』です!




