28 聖女の部屋
――アールスコート王国、セレナ大教会。
大教会内の聖女の為に用意された部屋と、ポーション作成の為の研究室。その入口付近に立つ衛兵は、その部屋に灯りが付いた事に気付く。
我が国の『聖女』は、こうして誰にも見られずに部屋に入りそして研究を続けているのだ。
「ふう。やっぱり教会の研究室は器材や薬草が揃っていて作りやすいわ! たまーにこうして一心不乱に研究やポーション作りに没頭したい時があるのよねー!」
今日はレオンハルト殿下に呼ばれたり、弟のリアムにもオスカー王子が近寄っていたりとかなり色々あった。こんな時は一心不乱に何かをするに限る。
ローズはまず手始めに『低級ポーション』を軽く100本作る。コレは教会用にお礼として月に一度渡すようにしている。そして次に『中級ポーション』を作ってみる。うん。なかなかの出来だわ。
そうして今度は少し真剣な顔で魔力を込め、『高級ポーション』も作り上げた。
高級ポーションはローズとしては初めて作ったのだが、これもまた良い出来だ。高級ポーションも前世マイラの時と同じに作れるという事を確認する。
前世では『最高級ポーション』も作れたのだけれど、アレはハッキリ言って『蘇生』レベルの『禁忌の薬』だ。人の理を壊すモノ、今回も作れる感覚はあるが、敢えてアレは作るつもりは無い。
今回のポーションは『聖女』の件で王家より目を付けられていると感じる今、何かあった時の為にダルトン子爵邸に備蓄しておくつもりだ。勿論ポーションも出来れば新鮮な方がいいので、封印のかかった地下室に置いておいて新鮮なまま保存するつもりなのだ。地下室はやっぱり役に立つ。
ビバ! 地下室! 王家に目をつけられるきっかけにもなってしまったものでもあるのだけれど……。
そんな事を考えながらも更にサクサク作り続けていると、扉がノックされる。
……この気配は、大司教様ね。
「どうぞ。あいておりますわ」
静かに扉が開き、恰幅の良い壮年の男性、シェリーの父でもある大司教様が入って来た。
入ってすぐ、大量に並べられたポーションを見て大司教は驚きで目を見開く。
「これは……。今日はこちらに入られて1時間も経って居ないと聞いておりますが……」
「ええ、そろそろ1時間ですわ。ついやり込んでしまいました。コレが今月の教会へお届けする分ですの」
「おお。いつもお心をいただきありがとうございます。ローズ様。お伺いしてもよろしいでしょうか? あの……、その後ろにあるモノ、それはもしかして……」
「ああ、これ。……はい。中級と高級、ですわ。作ってみましたの。多分ちゃんとした効能があるはずですわ。こちらもどうぞ」
ローズはそう言って、中級を5本、高級を2本大司教に渡す。
「一応、王国には秘密にしてくださいね。……学園では弟に第3王子が接触をしてきているようですの。気になりましたので何かあった時の為に作ってみたのですわ」
大司教は貴重なポーションを受け取りながら、その話に驚く。
「第3王子……、オスカー殿下、ですな。あのお方は兄である第2王子に遠慮してか大人しく見えますが、なかなかに抜け目のないお方とお見受けしております。……そうですか、弟君に……。
……そしてローズ様。……この、高級ポーションは……。いえ、私もおそらく貴女様はお作りになれるのだろうとは思っておりましたが……。この国で、『高級ポーション』を見るのは初めてでございます」
確かに、『低級ポーション』であれだけ騒がれたのだ。『高級ポーション』は滅多にお目にかかれないものなのだろう。
「黙っていてごめんなさい。でもあの状況で『高級ポーション』まで作っては国だけではなく教会側からもおかしな動きがでるかもしれないと思ったのです。でも、私はシェリーさんを信頼しています。そのお父上である大司教様も信じていますから」
「……ありがとうございます。その信頼にお応えできるように行動いたします。そして、このポーションは必要な来るべき時が来るまで大切に保管いたします。勿論、コレはシェリーと私と……教皇様だけの秘密としたいと思います。よろしいでしょうか?」
――教皇様。色々便宜を計らってくださってますものね。
「勿論です。教皇様にはご挨拶もせず申し訳なく思っております」
「教皇様も、いつかお会いできる事を望まれておいでです。しかし我が国と聖国は結構な距離があります上に……、なんといっても、ここは『アールスコート王国』でありますから」
大司教はそう言って困った顔をした。
「……この国は、聖国とも国交はないのですね。教会はあるのに不思議なことですよね?」
――そうだ。この王国はどことも国交がない、というおかしな状態なのだ。いくら200年前の戦争のわだかまりがあるとはいっても、こんなに時が経ち指導者もお互い代替りしているのに、聖国や近隣国や一見利害のない少し離れた国とも未だに国交がないなんて、不思議だわ。
「――それは、そうでございましょう。この国の犯した罪は重過ぎる。そして何一つその罪を精算していないにも関わらず、未だに更に罪を犯し続けているのですから」
――未だに、更に罪を――?
「……魔法使い達を強制労働させたりしている、という事ですか?」
この国に住むローズ達でさえ、『強すぎる魔力を持つ者は王国に囚われる』と聞き恐れる。だから人々は10歳の魔力検査では『弱過ぎず、しかし程々の魔力』を望むのだ。
祖父の妹の子、父の従兄弟のハリーがそのちょうど良い位の魔力の持ち主で、今は魔法省のエリートとして働いている。
「それも一つではあります。……しかしこの国の1番の罪とは……、このアールスコート王国王家の人間にのみ伝わる能力、……『魅了』でございます」
「……『魅了』……?」
「そうです。彼らはその能力を使い人々を操り、国々を『裏切り』と『悲嘆』に陥れてきたのです。……そして今も……」
「……今もどなたかが、操られている、と……。人が人を操る、なんて……。そんなことが可能なのですか?」
「恐ろしいことですが、それは本当にあるのです。200年前のあの戦争の時はそれはたくさんの者達が操られていたと聞きます。そして、それはつい最近この教会の人間でも……。先代の大司教は『魅了』にかけられておりました。ご立派なお方であったのに、王宮に呼び出されたあの日からあのお方は変わられ……! ……ッ! ……申し訳、ございません」
苦しげに顔を歪める大司教に、ローズは前世の、マイラであった時の事を思い出していた。……確かに、そのような事が何度もあったではないか、と。
各国を代表する素晴らしい方々。マイラは彼らと関わりこの国の過ちを知った。そしてその方々と行動を起こそうとした時の、まさかのその中の方の裏切り。裏切った方には裏切る理由も何も全く思い当たらなかった。そして周りの方々も、この戦争では何故かこんな事が度々起こるのだ、と言っていたではないか。
まさしく大司教の言う『裏切りと悲嘆』――。
未だに、あんな事が、起こっているというのか。……そしてそれの原因が、この国の王家の『魅了』――?
「大司教様。その『魅了』のこと。詳しく教えてはいただけませんか?」
真剣に聞いてくるローズに大司教は大きく頷き、この王国以外で伝わる200年前の戦争の事実からこの国の疑惑に至るまでの話をしたのだった――。
お読みいただき、ありがとうございます!
ローズは一応『聖女』なので、教会に部屋を与えられています。寝泊まり出来る自室とポーション作成の研究室があり、時々こうして作りに来ています。
そしてここには『転移』で誰にも見られずに部屋に入っています。それがまた教会の人々には神秘的に見えるようです。




