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27 父と子供たち



 リアムが部屋に篭ってしまった為、父と2人で食器の片付けをする。家政婦のドリーさんからは朝に片付けるから置いておいてと言われているが、やはり汚れた食器をそのまま一晩置いておくのはよろしくない。


「……お父様。実は私も今日は王子と関わる事があったの」


 そうポソリと言うと、父は危うく食器を落としそうになっていた。


「わ! 大丈夫ですかお父様!」


「あ、ああ。済まない。いや、王子? オスカー殿下か? やはり殿下は何か企んでいるのだろうか……」


「いえ。違うの。私の方は第1王子レオンハルト殿下なの。とはいっても直接お話した訳ではないのだけれど……」


 そうして今日レオンハルトと目が合い、手招きされた事を話す。


「なっ……! なんと、不埒な! 年頃の娘を自室に呼び込もうとされるなど!」


 お父様、激おこです。でも、殿下はどちらかというと……。


「……なんというか、レオンハルト殿下は『聖女』かもしれない私が気になるだけなのかもしれないの。……ふ、不埒? というより、『聖女』かと確認の為に見ていた私と思わず目が合ってしまったから、つい呼んだ、みたいな感じだったから……」


 あの時は驚きすぎて逃げてしまったが、後から思えば普通に上級生が下級生を呼んだだけとも考えられたのだ。


 実は今日の帰り、フェリシアと一緒にオススメの美味しいパン屋さんに行った。その時パン屋のカーラさんの子供トムが居たので手を振った。すると、トムはこちらをチラリと見た後店の奥に逃げてしまったのだ。少し前まで懐いてくれていたトム。少なからずショックを受けたローズだが、今日はこれに似た事があったではないかとふと気付く。

 ……そうだ。自分もレオンハルト殿下にこれと同じことをしてしまったのだと、殿下も良い気分はしなかっただろうと少し反省していたのだった。


 ちなみに、後でカーラさんには『急にお姉さんっぽくなったローズに照れているんだよ』と慰められたのだが。


「いやしかし、若い娘を呼び付けるなど……」


「……私、もしかしたらレオンハルト殿下は私が『聖女』だと気付いているかもしれない、とも思うの。一応私は殿下に後ろ姿を見られているのだし……。

でも学園生活が始まってからひと月経つけれど、殿下は私を気にはされているようだけれど何も行動は起こされていない。学園側もよ。学生たちは騒ついているけれど学園はそれを良しとはしていないようだし、もしかしたら殿下はおおよそ気付いてはいるけれど、敢えてこちらをそっとしてくれているのかもしれないわ」


「敢えてそっと……? しかし以前は騎士団を動かしたり教会にも口を出したりされていたのだろう? 学園に来るように言っておきながら、ローズが『聖女』だと分かっているならば何故手を出してこないのだろう?」


 ダルトン子爵は考え込みながら言った。


「『聖女』を見つけとりあえず身柄を確保出来た事に安心しているのか、それとも私の学生生活を守ってくれているのか……。

今は緊急に『聖女』が必要な案件がないのか、それとも確実に王家に取り込む為か……。可能性は色々あり過ぎて、よく分からないけどね。だけど私は今はほぼ普通の学生生活を送れているわ」


「うむ……。とりあえずは『聖女』を見つけて監視し安心しているのかもしれないな。レオンハルト殿下がローズを監視し、オスカー殿下がリアムから取り込もうとしている、ということか」


 父のレオンハルト殿下への怒りはいったん治ったようだ。


「……そうかもしれません。レオンハルト殿下は無理矢理私を捕らえようとはなさってないから、今のところは大丈夫かと思います。まあ私はいざとなれば魔法で逃げられますし。それよりも、今オスカー殿下に心酔しているリアムが心配です」


 ローズがそう言うと、父も困った顔をした。


「……まあ、あのくらいの年頃で天下の王子殿下が自分の友人となったなら、誇らしくてその状況に酔ってしまうのは仕方がないかもしれんがね。……しかし、危険過ぎる。子爵家が没落した為に、マイラの一族であるという事の誇りと危険性を教えきれなかったせいか……。リアムにはまだ自覚がないのだろう」


「……そうですわね。そしてオスカー殿下は決して偶然リアムと友人になったのではないと思いますわ。いくら編入生の女生徒が10人しか居ないとはいっても、自分のクラスにその兄弟がいるかなんて、調べなければ分からないと思います。中等部と高等部は少し離れていて関わりはないですけど……。私も少し調べてみますわ」


「……ローズ、君は余り派手に動かない方がいい。いやローズが派手にしているつもりがなくても、結果派手になってしまう可能性がある。今学園でもし魔法絡みの騒ぎがあれば、それはほぼ聖女が起こした、と周囲は思うだろうからね」


 いやに真剣にローズを諭す、父ダルトン子爵だった。

 そしてローズも気になっていることを父に言っておく。


「……お父様。今リアムにも私にも、こうして王国からなんらかの関わりがあるのです。お父様のところにも何かあってもおかしくはないですわ。新たに出会う方などには特に注意なさってくださいね。……特に女性関係は」


 少しギョッとする父にサラッと指摘しておく娘。

 父ダルトン子爵は30代後半の栗色の髪に榛色の瞳のそれなりにダンディーな美男子だ。……そして、人が良い。

 もし王国が父に近付くのなら、仕事上か女性だと思うのだ。王国側の女性が色仕掛けで父に近付き家に入って来られる可能性もある。


 母が亡くなって3年。一生一人でいろと言う訳ではないが、とにかく今父に近付く女性は胡散臭いと思ってしまう。……娘としても複雑でもあるし。


「……娘に言われるのはなんとも複雑だが、確かにそれはそうだ。今は仕事も順調で実は周りから再婚の話が出ることもチラホラある。しかし私はお前たちの母親を今でも愛しているし、苦労ばかりかけて亡くしてしまった事を悔やんでいる。今更他の女性となんて考えてはいないよ」


 即答した父に、娘として少しホッとしたローズなのだった。






 コンコン……。


「リアム。……私だよ。入ってもいいかい?」


 少し沈黙が流れた後、


「……うん。どうぞ」


 返事があったので、ダルトン子爵は部屋に入る。リアムは勉強机の前で座って考え込んでいたようだった。


「……お姉様、怒ってた?」


 下を向いたままポソリとそう言うリアムに、ダルトン子爵は優しく微笑んだ。


「怒ってなどいなかったよ。……とても心配していた。私もね」


「……うん。……王子の事、本当はちょっとおかしいんじゃないかなって……、僕も思ってた」


「……そうか」


「……お姉様も最初言ってたけど、僕がSクラスっていうのもそうだし、殿下が僕に妙に優しかったのも、頭のどこかで警鐘が鳴ってた。だけど……やっぱり少し嬉しかったんだ。貧乏子爵家で周りの貴族達と余り関わりのない僕に、殿下が寄って来るだけで周りの態度がガラッと変わるんだ。ちょっと、優越感もあったのかもしれない」


「……そうかもしれないな……。困ってる時助けてもらえたら、そりゃ嬉しいしな……」


「うん……。ねえ、明日から殿下と離れたら、僕の周りは誰もいなくなっちゃうかな……?」


「……どうだろうな。確かに殿下目当てで近寄っていた子達は離れるかもしれないが、リアム自身を見てくれる子は残るんじゃないかな。もしそれで誰も居なくなっても、それはそれだ。リアムがリアムらしくいたなら、リアムと仲良くなりたいっていう子も出てくると思うよ。それに、リアムは何の為に学園に入ったんだ?」


「何のため……? 勉強して色んな事を身に付けて、将来の仕事に繋げるため……?」


「……そうだな。学園はその為でもある。だが、それだけか? ……人との繋がりや付き合い方を学ぶんだよ。今回の事もいい勉強だと思うよ。貴族社会で生きていく限りこんな風に高位の貴族や王族との関わりで思い悩む事は沢山ある。殿下との付き合いも、ただ離れるというのは立場的にも難しい。殿下がこちらに興味を持ち近付いてくる限りこちらから無碍には出来るはずはないからね」


「じゃあ、僕はどうすればいいの?」


「リアム自身が殿下の考えや動きをよく見て理解しておく事だ。向こうからくる限り逃げられないのなら、如何に自分がどう動くべきかを考えておかないと殿下にいいように利用されてしまうぞ。……魔女マイラのように。魔女マイラは考え最後は逃げたからこそ余計に追い詰められた、ともいえるが……。利用価値なしもしくは手に負えないと思わすというのも手ではあるが」


「……そうか。マイラは手に負えなくなったから……殺されてしまったんだね。だからといって、利用価値なしもダメな気がする。……僕は、オスカー殿下を良く見て理解することにする。お姉様やこの子爵家の為にも、殿下を上手く躱していけるようにするよ」


「……そうだな」


 ダルトン子爵はリアムの肩をポンッと軽く叩く。2人は笑い合った。


 コンコン……


「……リアム? 入ってもいい? ……というか、開けてくれる?」


 リアムが急いで扉を開けると、ローズが食事をトレーに載せ立っていた。


「……リアム、夕ご飯残して、絶対夜中にお腹がすくでしょう? ……あら。お父様」


 ダルトン子爵は少しバツが悪そうな顔でローズを見た。ローズも苦笑する。そんな2人を見てリアムは少しくすぐったくなった。


「もう、2人して私を除け者にして。 ほら、リアム。食べるでしょう?」


「うん。……ありがとう。お姉様」


 リアムはトレーを受け取り座って食べ出した。


「……ねえ、リアム。学園の勉強の事だけれど……。実は私、マイラの大学までの勉強した記憶も残ってるのよね……」


「えっ! なにそれ。ずるいよ、お姉様!」


「いや、そう言われても……。覚えてるものは仕方ないじゃない。だからリアムにもそれを伝授しようと……」


「! 僕の記憶にマイラの勉強の記憶が入ってくるの!?」


 今まで色んな考えられない事が可能だった姉の魔法。もしやそんな事まで出来るのかと大いに期待したリアムだったが――。


「……そんな訳ないでしょう。普通に、勉強を見てあげるってことよ。ビシバシいくわよ!」


「ああ、それはいい。ローズは編入テストは満点だったらしいからな」


「うえ……、満点って……! ていうか、僕にも前世の勉強の記憶があれば! お姉様の魔法でなんとかなるのかと期待しちゃったじゃない!」


「私の前世の学生時代はずーっと勉強漬けだったわよ。やり出したらとことんやりたい方だったのよね。そうじゃなきゃここまで出来ないわよ。そして魔法でなんでも出来る訳じゃないのだからね。勉強や魔法は一朝一夕で身につくものじゃあないんだから」


「はぁ……。でも、僕の成績が殿下によって上げられた、なんて事を言われるのも嫌だから、それは頑張るよ。僕自身の力で頑張っていく。そして、殿下とは適切な距離を保つようにするよ。求められれば立場上行かない訳には行かないけれど、僕からは少し距離を置く。それで周りがどう見るかはもう考えない事にする」


「リアム……!」


 何か吹っ切れた様子のリアムに、父と姉はほっとする。


「僕だってやられっぱなしじゃいないんだから!」


「うふふ。頼もしいわね、リアム。それから私もちょくちょく様子を見に行くからね! リボンを替えて中等部の子の振りをすれば大丈夫でしょう?」


「えぇっ!? いやそれは絶対大丈夫じゃないヤツだからね! 絶対! に来ないでよ! 僕はお姉様がいなくても大丈夫にするから、絶対に来ないで!」


 全力で拒否してくるリアムに、ちょっとムッとするローズだったが、ここは何故か? 父ダルトン子爵もリアムの味方をしたのでとりあえずは行かないことにしたのだった。


 髪色だけでなく変装すればいいだけなのに、お父様もリアムも妙に信用無いんだから! と不満を抱えて。




お読みいただき、ありがとうございます。


子供達の事がとても心配な、ダルトン子爵でした。

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