26 リアムの同級生
「ローズ? どうしたの? 先に帰ったと思っていたわ。私は委員会のメンバーが集まらなくて今日は中止になったの。一緒に帰りましょうか」
レオンハルト王子に手招きされ思わず逃げてしまったローズの前に、フェリシアが現れた。今日はフェリシアが委員会だから先に帰るつもりだったのだが、中止になったようだった。
「フェリシア……! 私、不敬罪で捕まってしまうかもしれないわ!」
少し涙目でフェリシアの側に駆け寄って来たローズに、頼られて嬉しいフェリシアは優しく何があったか聞き出し、そして言った。
「それは、不敬罪ではないわよ。面識のない女性を部屋に招こうだなんて、殿下が不調法だと思うわ」
「……本当に? お父様や知り合いの方から昔からそう言われてきたし、思わず逃げてしまったのだけど……それで良かったのよね……?」
フェリシアは失礼と思いながらもローズの事はだいたい調べてある。貧しいながらも家族で助け合って来た頑張り屋の子爵令嬢。幼い頃から不遇ながらも頑張るローズを周囲の人々は温かく見守ってくれたようだった。大切にされてきたと分かるローズの様子に微笑む。
フェリシアから見たローズは勉強や知識面では大人びているが、こういうところは年齢なりで可愛らしい。同い年ながら守ってあげたくなってしまうのだ。
「大丈夫よ。何かあったなら私が一言言って差し上げるわ。……でも随分とレオンハルト殿下はローズの事を気にかけているのね?」
「そうなのかしら……。でも私の自意識過剰なのかもしれないけれども、登校初日から殿下の視線を感じる気もするの。勿論私は本当に殿下と何の関わりもないのよ? 他の編入生の方々のことも見ておられるのだろうけれど……。気にかけてくださっているというより、今年の編入生全員をチェックされているのではないかしら? 学園の中には面と向かって『聖女』かと聞いてくる人もいるし……。フェリシアは大丈夫?」
「ふふ。私は大丈夫よ。そんな不躾な事を聞いてきたらすぐさまやり返すから」
さらっとそう言うフェリシアに、以前の母の実家のヴェンテ伯爵令嬢の騒ぎの件を思い出し、ああ、フェリシアならさくっとやり返すわね、と納得するのだった。
その日の夕食。
ローズとリアムが学園に通うようになったダルトン子爵家には通いだが食事と掃除洗濯などの家事をしてくれる家政婦を雇っている。
商業ギルドから派遣された、子育てが終わって働きに出だしたドリーさんだ。夕食を作るまでが仕事でローズ達が帰ると挨拶をして帰っていく。
「はぁ……。やっぱりドリーさんのスープは絶品だよね! ……あ、勿論お姉様の料理も美味しいんだけど、この味は一度食べたらやめられないよ」
リアムが絶賛しながらも、しまった、とローズの様子を窺う。
「別に、いいわよ? 主婦歴20年のドリーさんに勝てるとは思ってないし。それより私はこのサラダのドレッシングが絶品だと思うの。ただの生野菜がとんでもなく美味しくなっちゃうのよ?」
最初ちょっと不貞腐れた感のローズだったが、やはり美味しいものは美味しい。
「うんうん! 学園の食堂も美味しいけどね! 最近は色んな人の作ったものを食べれて口が肥えちゃうね!」
「お前たち……。済まないな。今まで苦労を……」
2人のやり取りを聞いて少し居心地悪く申し訳なく思ったダルトン子爵はそう言ったが、
「いやぁね、お父様! そういう時代があったからこそ、美味しいものを美味しく感じて、こうしていられる事の幸せも実感出来るのじゃない!
「そうだよ! それに王子様だって学園で平民もいる学食で同じ物を召し上がられているんだから。そして『食べられる事は幸せだ』とそう仰って、僕らみんなに色んな人々の暮らしを教えてほしいとまで仰って……。だから、色々経験する事はいい事なんだよ!」
リアムは初めは父を慰める為に話していたのだろうが、だんだん憧れの人の話をするようなキラキラした目になっていた。
「……王子? リアムは殿下と面識があるの?」
少し不審に思ったローズは聞いた。父も同じように思ったのか、リアムの答えをじっと待つ。
「面識っていうか……僕、オスカー殿下とは同じクラスなんだよ。だから話もするしたまに一緒に食堂に行ったりもしてるよ」
───同じクラス! オスカー殿下ってこの国の第3王子、よね。
「僕もマイラのこともあるから、あまりお近づきにはならない方がいいかなと思ってわざわざ近付いてはいなかったんだけど……。それが殿下には新鮮に映ったみたい。『僕に取り入ろうとはしないんだね』とか『普通の友人が欲しかった』とか仰ってたし……。仲良くはしてるけど、どんなことがあってもマイラの事は話さないよ」
自信ありげにそう言うリアムに、ローズと父は2人で目を見合わす。
勿論、せっかく出来たリアムの友人関係に口出しするつもりはない。……が、果たしてコレは偶然だろうか?
リアムも最上位のSクラス。……それも、最初から違和感を感じていた。勿論リアムも勉強を頑張っていた。……しかし、Sクラスに入れる程とは思えなかったからだ。……本人には言えない……、いや、言ったか。リアムに『失礼な!』と怒られたんだった。
「コレはちょっと失礼な言い方になると思うけど、殿下は『聖女』かもしれない姉がいると知っているの?」
単刀直入に聞くローズに、途端にムッとした顔をしたリアムだったが、
「……ご存知だったよ。『聖女』かもしれない今年の高等部の編入生の女生徒は10人しかいないんだよ? むしろそれを知らないと言われた方が何かあると思わない?」
少しずつムキになってくるリアムにローズも父も少し不安になった。
……コレは、完全に取り込まれていないか?
「リアム。貴方がそうまで言うのならそれでもいいけれど、だけど私も私に出来る事をさせてもらうからね? 勿論私が殿下に関わったり失礼な事はしないから安心して?」
と言ったのだが、
「……えっ!? 僕の友達におかしな事をしたら、お姉様でも許さないからね!」
そう言って、リアムはさっき大好きだと言ったスープを残して席を立ち、少し乱暴に部屋に戻って行った。
ローズと父は顔を見合わしどちらからともなくため息を吐く。
「……アレは、完全に取り込まれてるな。ローズ。お前の言う『出来る事』でなんとかなるのか?」
心配そうなダルトン子爵に、
「人の心までは踏み込めないからあくまで対処療法だけれど……。あまり使いたくはなかったんだけど、『魔女』『マイラ カルトゥール』『ポーション』。リアムがこの言葉を発せないようにしておくわ」
「ローズ。お前そんなことまで出来るのか……」
ダルトン子爵は、もう驚く事を諦めた目でローズを見つめたのだった……。
お読みいただき、ありがとうございます!
ダルトン子爵家では学園に入る少し前から、家政婦さんに来てもらっています。ドリーさん41歳。お料理上手な優しい人です。




