24.5 ミゲルとローズ
「……悪いけど、僕はそんなことの為にここに来た訳ではないんだよね」
いつもローズと一緒の時には見せない冷たい顔と冷気を一面に出して、ミゲルは女生徒の告白ををスッパリ断った。
ミゲルが明日提出のプリントを忘れて帰ったので慌てて追いかけてきたのだけれど……。何とも衝撃的なシーンに出くわしてしまった。
ローズはそろり、と気付かれないようにこの場を離れようとしたけれど……。
「あ、ローズ! 追いかけて来てくれたの!? 僕と一緒に帰る?」
ミゲルはその女生徒がまだそこにいるにも関わらず、ローズに声をかけて来た。
――ちょっと! 恨まれるからこっちを巻き込まないでほしいわ……!
ローズはチロリと責めるような目でミゲルを見たけれど、とても良い笑顔で返された。……コレは、確信犯よね。絶対。
「はい、コレ! ミゲル、明日提出の大事なプリント、忘れて行ってたわよ? 用件はこれだけ! じゃあね!」
ローズは往生際悪く逃げようとしたのだが……。
「ふふ。ローズったら、照れ屋だなあ! ちょっと話もしたいし、家まで送るよ」
ミゲルはそう言ってローズを向こうへと促した。残された女生徒は涙目でこちらを睨んでいる。
「え。いえ、本当にこっちはいいから……! ……ちょっとミゲル! 私を巻き込まないでよ」
途中から小声で彼に反論するものの、ミゲルは笑いながらそれをスルーしその場を離れた。
「ふー。助かったよ、ローズ。困ってたんだよ。やっぱりローズは頼りになるなぁ。お礼に何か奢るよ」
「ミゲル、貴方ちっとも困ってなんてなかったじゃない! 気の毒なくらいキッパリ断ってたわよね? そしてあんなやり方をされたらこっちが恨まれちゃって困るんですけど!」
「ふふ。『聖女』に何かなんて出来る訳ないんだから大丈夫だよ」
「編入生の中に『聖女』がいるかもしれないっていうだけでしょ? もう! ミゲルの女の子関係に巻き込まないでよね」
「大丈夫。ローズは僕が守るから。……君は、とても大切な存在だからね」
え?
ミゲルの意味深な発言に一瞬固まる。大切な……『友人』ってこと? でもその言い方って……。
――マイラの時、エルフ達と一緒にいた時の接し方に似てる……。それも、エルフ達にやっと受け入れられた後の。今の私達もあの時くらいの関係になったってこと?
ローズは少し戸惑いながらも、
「……大丈夫。私もミゲルの事を守るわ」
ミゲルが、とても嬉しそうに、満足げにこちらを見て笑った。
「……だけどね、ミゲル! さっきのはないと思うの! お付き合いを断るのは仕方ないとしても、もう少し最後に思いやりの一言とかあってもいいと思うし、何より他の子がいるからじゃあね、は、後味悪すぎるじゃない!」
「……そう? 気を付けるよ。でも変に気をもたせるよりは余程親切だと思うんだよね。こういうのって、少しでも余地があるともしかしたらっていつまでも諦めがつかなかったりするんだよ。断るのなら、これでもかってくらいにキッパリ断った方が相手の為だと……。そう僕は思うな」
いやに真剣に、しかもローズの顔をじっと見て言ってきた。
「……そういうものなの? 私は経験がないからよく分からないけれど……」
「そうなんだよ。そうでないと、200年も諦めが付かないなんてことになる」
「……? なにそれ?」
200年? それはまさかマイラの事を言っているのだろうか? ローズは少しヒヤリとした。
「……ものの例えだよ。そのくらいの恋煩いになってしまうかもって話。ローズは結構恋に奥手なのかなぁ?」
「え! なに、私の話なの? 私はまだ誰にも恋したりされたりはないわよ? ミゲルがモテモテすぎるんじゃないの!」
休み時間になると、他クラスの女生徒たちがミゲルを見る為に教室前に集まったり、移動教室の時も周りで騒がれているのだ。一緒に行動する私達も楽ではない。ちなみに一緒に行動するフェリシアは隣国の公爵令嬢、私ローズは『聖女』かもしれないという立場から、ミゲルと一緒にいても羨ましがられながらも周りは何も出来ない、という状況らしい。
とはいえ、周囲からは非常に羨むような妬むような、視線を浴び続けているのだ……! ミゲルが悪い訳ではないけれど、若干辛い……。
「僕が望んだ訳ではないよ。あの人達は僕の見かけだけでやって来る訳でしょう? だって話したこともない人達だよ。僕には全くそんな気はないのにね」
ため息を吐きながら言うミゲル。……まあ、本人が望まないのなら迷惑な状況ではあるのかもね。モテるというのも辛いものなのね……。前世マイラの時にはその力目当てにたくさん求婚されたけど、自分ではなく力や見かけだけで好きになられるというのも苦労するわよね。ローズは全くモテていないから、前世のアレは完全に力目当てだったのよね……。
「ミゲルが望んでないのなら、お気の毒としか言いようがないけれど……。まあ私達はまだ学生だし、そういう恋愛ごとはもう少し先でもいいわよね……」
「ローズはその辺り、どう考えているか聞いておきたいな。今は決められた婚約者がいる訳ではないんでしょう?」
……貧乏子爵家の娘と婚約しようって人はなかなかいないわよ……。
「……ないわ。いいのよ、私はまだ。とりあえず弟が立派に学園を卒業して家督を継いでくれるのを見届けるわ。それまでにいい出会いがあれば、くらいでいいと思ってるわ」
ミゲルはそれを聞いて少しホッとしたようにしてから言った。
「それなら、僕の知り合いにとても良い人がいるんだけれど、どうかな? 一度会ってみるだけでもいいんだけれど」
若干前のめりになって言ってくるミゲル。
……ミゲルの知り合いって、エルフよね? もしかしてそれって、マイラに以前プロポーズしてきた、あの人だなんていわないわよね!?
「いえ、せっかくだけれど、私は自然に会う人とそういう気持ちになったら、でいいの。今はまだやりたいことがいっぱいあるし、私達の学生生活は始まったばかりだもの」
ローズはマイラの時に学生生活を一度送った記憶はあるけれど、あの当時は世界は戦争をしていたし皆がどこかピリピリしていた。せっかくもう一度学生生活を、しかも平和な世の中で送れるのだ。もっと色々なことを勉強したいし学生生活を楽しみもしたい。
そう目を輝かせるローズに、ミゲルは少し眩しいものを見るような目をして微笑んだ。
「……そう。そうだよね、今の生活を楽しまなくちゃ、ね。……だけどいつか、僕の大切な人に会って欲しいな。純粋にローズに僕の尊敬する人に、会ってみて欲しいんだ」
真剣に言ってくるミゲルを、ローズは見つめた。
……ミゲルが尊敬する人。それはエルフの長、クリストバルだろう。
前世で彼はマイラを認めてくれて、当時追い詰められていたマイラを守ってくれた。別れ際にはプロポーズまでしてくれてエルフの国で暮らせばいいと言ってくれた。心優しいエルフなのだ。
ローズもクリストバルに会いたい気持ちはある。けれど、ローズはもうマイラではない。生まれ変わりました、久しぶりーなんて言って会うのも何か違う気がする。
「ミゲルの尊敬する人……。きっと素晴らしい方なんでしょうね。でもこういうのって、ご縁があれば会おうとしてなくても会えるものよ。……私はそう思う。いつかきっと……、ね」
「……そうかも、しれないね。……ふふ。俄然やる気が出てきたよ。僕は絶対、僕の尊敬する方とローズはご縁があると思うんだよね! ごく自然に、会わせてみせるから!」
アレ? なんだかミゲルがおかしな方向に向かってる気がするんだけど……。
そんな少しモヤモヤしてるローズをよそに、ミゲルから好きなことや好みの食べ物など質問攻めに合いながらも家まで送ってもらったローズだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
このシーンが抜けていたので入れました。
一月の内に、ミゲルとフェリシアとローズはとても仲良くなりました。




