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24 聖女の友人

ローズのクラスメイト、フェリシアの学園編入までの経緯です。


 それから暫く経って、フェリシアの母が聖国に数日里帰りして帰ってきた。


「お兄様はお元気だったわ。そして貴女が気にしていた『聖女』のことだけれど……。アールスコート教会支部の大司教から『聖女』の推薦があったそうよ。『聖女』は民間の為に『低級ポーション』を作っていた元子爵令嬢。ポーション不足に悩む王国側に囚われる前に保護して欲しいとのことで申請があったそうなの」


「!? 民間の為に……。確かにそれは素晴らしいことですけれど、『低級ポーション』を作れるくらいで『聖女』ですか?」


「お兄様も最初はそう思ったそうよ。いくら国民の為とはいえその程度でと。すると彼女が作ったという『低級ポーション』が届いたそうなの。私も無理を言って見せてもらったけれど……。アレは、確かに普通では無かったわ」


「普通ではない……?」


 そうは言っても、所詮は低級ポーションだろう。フェリシアは中級ポーションを作ってみたこともある。それでは自分も『聖女』ではないか。


「そう。今思い出しても鳥肌が立つわ。あの魔力の純度! お兄様曰くその効き目は『中級ポーション』程もあるそうよ。あれだけのものを作れるのなら本来は中級……いえ、高級ポーションも作れるのではないかと仰っていたわ」


「高級ポーション……!? でも、結局は作れないから出回っていないのでは? 本当に作れるのならとっくに作っているでしょう」


「……おそらく、王国側に目をつけられない為に敢えて『低級ポーション』だけに留めているのだろうとお兄様が。私もそう思うわ。そして実際この『低級ポーション』だけで王国はこの作成者を取り込もうと動き出したそうよ。それで教会に助けを求めて来たということのようなの」


「……その才能あるポーション作成者を、アールスコート王国に渡さぬ為だけの『聖女』ですか」


 おじさまが昔から仰っていた『聖女の条件』。それはこんな政治的な駆け引きの事だったの?


「お兄様もそれならば教会でその人物を保護しなさいと最初は指示されたそうなの。でも、あの国の大司教が本人に会ってみて……。彼女は間違いなく『聖女』だと、そう言って推薦してきたらしいわ。あの国の大司教ハミルトンはなかなかの魔力の持ち主よ。そして人のオーラが視える特殊な能力があるの。お兄様も彼のことをとても信頼しているわ。あの王国の教会には彼程の人物でないと務まらないといつも仰っているもの。そして今お兄様の側近として彼の息子も重用しているしね」


 なかなかいい子よと笑う母を横目に、フェリシアは『聖女』の事を考えていた。

 『低級ポーション』だけで、王国やあの国の大司教、そして教皇である伯父にも興味を持たれたという元子爵令嬢。母でさえそのポーションを見て只者ではないと感じている。

 

 ――会ってみたい。


 フェリシアは本気でそう思った。


「そうその子から聞いたのだけれど、どうやらその『聖女』は次の新学期からアールスコート王立学園に編入するらしいわ。なんでもその『聖女』を取り込みたい王国側から、まだ年若い聖女を学園に行かせるべきではないのかと指摘があったそうよ。自分達のしてきた事を棚に上げてよく言うわよねぇ。

まあ『聖女』ご本人も学園には行くつもりではいらしたようだけど、王国側に目を付けられるのは困ったことよね。でも教皇であるお兄様が認めた『聖女』に無体な事も出来ないでしょうし、最悪教会関係者も学園に通っているから大丈夫でしょうけれど……。

なんといっても()()アールスコート王国だから油断は出来ない、とお兄様も仰っていたわ」


 お喋り好きな母が話し続けるが、この人が知ってしまったら一気にこの話は広がってしまうのではないかしらと少し心配になる。


 ……いえそれよりも。


「学園に編入ということは、『聖女』は私と同じくらいのお年なのですね」


 フェリシアがそう言うと母は目を輝かせて答えた。


「そう! 貴女と同じ14歳だそうよ。今まで家の都合で学園には通えていなかったそうだけれど、古本屋などの独学だけでかなり博識な方らしいわ。『ポーション』も本を見て試行錯誤して作り上げられたそうよ。努力家な方なのね!」


 本だけで……? なにそれ。天才なの? 

 

 でも、私のするべきことは決まったわ。……私はアールスコート王国王立学園に行く。そしてその『聖女』に会って、出来れば友人となりたい。

 ……そして、お母様は気付いていらっしゃらないようだけれど、気になることがある。


「……お母様。なんだか私もおじさまに会いたくなってまいりましたわ。幸い今は特別な社交もございませんし、ご挨拶に伺ってもいいでしょう?」


「まあ! 貴女は小さな頃からお兄様にべったりでしたものね。そうそう『聖女』になってもいいだなんてお兄様に言ったりして……」


「お母様! その話はもういいですわ! 私、聖国に行きますわよ!」


 母はクスクスと笑いながらも、父がいいと言うならと許可してくれた。



 そして私は父と話した。……すると父も私と同じ疑念を抱いていた。皇帝を初めとする帝国の中枢でもその話になっているらしい。


 ――あの数日前の『魔法の波動』。アレは、アールスコート王国に現れた新たな『聖女』が起こしたのではないのか? と――。


「あの魔法使いのいない国で、『聖女』が現れそして起こった巨大な『魔法の波動』。おそらくは何かしら関係があるのだろう。しかしそれを調べる為に表立ってあの国に間者を入れる事は難しい。――フェリシア。君はあの国の危険性をどのくらい知っている?」


 突如、父が厳しい顔をして質問をしてきた。


「危険性……? 強い魔法使いがあの国に入れば囚われてしまう、という事ですか? ……? でも強い魔法使いならば自分の魔法で逃げれば良いのでは。あの国には今それ程強い魔法使いはいないのですよね?」


「そう、普通ならば逃げられるだろう。けれどもあの国は……。……実はこれは、ある意味公然の秘密ではあるのだが、あの国の王家には時に特殊な能力を持つ者が生まれるそうなのだ。……それが、『魅了』」


「『魅了』……? それって物語に載っている、あの?」


「そうだ。200年前の戦争でも、その特殊な能力で各国の要人を狂わせていったという、『魅了』。だからこそ、撹乱され泥沼化し20年にも及ぶ長い戦争となった。旧カルドラ王国と各国には随分と大きな国力の差があったにも関わらずね」


 フーッと長く息を吐く父。おそらく、それは本当のことなのだろう。確かに物語などではそれは載っていだが、まさか本当にそんな能力が……しかも今も実在するものとは思いもしなかった。


「……であるから、彼の国に入る事は多大な危険を伴う。彼らに見つかればいつの間にやら『魅了』にかけられて、知らぬ間に彼らの利になる事をしてしまうのだ。そして魔法使いもその『魅了』にかけられれば、彼らの意のままに動く駒と成り果ててしまう。実際戦後のこの200年の間もそのような事が何度かあったそうだ」


「本人は、『魅了』にかけられた自覚もなく、という事ですか?」


「……そうだ。戦時中はそれでかなりの者が『魅了』にかけられていたそうだ。人が変わったようになったり、『何故自分がこんな事をしたのか分からない』と自らを責め命を絶つ者もいたそうだ。……本当に、胸糞の悪い、タチの悪過ぎる能力だ」


 いつもは貴族らしい物言いしかしない父が、そのような表現をせずにはいられない程のことなのだ。しかし確かに、自分が自らの意思に反した行動を勝手にしてしまうなんて、それは恐ろしいことだ。


「……そういう訳で、今はあの国の事は元から街に紛れ込み街に流れる噂を集めるだけの間者と、商人や教会からの報告だけしか情報がないという訳だ。そしてあの『波動』に関してあの国の教会からも今のところ何か目ぼしい報告はないようだ。『聖女』に関しても、今まで通りポーションを作成し変わったところはないという話だ」


 アールスコート王国の教会は、『聖女』の何かを隠している……?

 とにかく、これは実際に本人に会ってみないとわからないのではないかしら……。


「お父様。私は聖国のおじさまの所へ行きたいのです。……そして教会の保護を得て、アールスコート王国の王立学園に入学したいと考えております」


「なっ……! フェリシア、君は私の話を聞いていたのかい? あの国に行けば『魅了』にかけられるかもしれないのだぞ。しかも帝国の公爵令嬢という君のような立場の者を『魅了』にかける事が出来ればあの国の大変な利になる。これから帝国での動きを見据えて君が狙われる可能性は非常に高い」


「だからこそ、教会の保護を得るのですわ。あちらの教会の大司教は『魅了』にかけられていないのでしょう?」


「今のあの国の大司教はかなりのやり手だ。あの能力の事を知っていて術にむざむざかかるような事にはならないだろう。だが、もしも既に『魅了』されていても何かを命じられなければ分からないだけかもしれない」


「ではやはり、聖国のおじさまにご相談いたします。もしかしたら、『魅了』を阻止できる何かをご存知かもしれないですもの。そして私が留学という形でアールスコート王国に入り込む事は決して不自然ではないはずですわ。この帝国の利にも叶うと思います」


 公爵は頭に手をやり、首を振りながら、


「だとしても、大事な娘の君をあんな危険な国にやれるハズがないだろう!? もし義兄上が許可したとしても、父である私は決して許さない。それならば教皇である義兄上にお願いして、『聖女』についてあの国の大司教を問い詰めさせればよいのだ!」


「……お父様。これは先程お母様からお聞きしたのですが、アールスコート王国王立学園に例の『聖女』が編入されるらしいのです。そして『聖女』は14歳。私と同い年ですわ。これは確実に『聖女』の事を深く探れるチャンスです。これ以上の手はございませんわ」


「……!」


 公爵は押し黙った。帝国の重鎮としては確かにこれ以上に正体の分からない隣国の『聖女』を探る良い手はない。しかしそれは自分の娘でなくてはならないのか? そう自問自答しているのだろう。


「『帝国の公爵令嬢』、『教皇の姪』。普通ならば手は出せないはずですわ。そして私はこの帝国でも魔力は上位。万一手出ししてきたのなら向こうに勝ち目はございません。……あとはその『魅了』の事さえ解決すれば問題はないかと思います。いかがでしょうか」


 公爵は暫く考えた後、はぁーっと頭を抱えたまま息を吐いた。


「……皇帝にお願いし、直属の護衛を貸していただこう。彼らもまた高位の魔法騎士。……しかしそれは、義兄上が『魅了』にかからぬ何かをご存知であったら、の話だ。とりあえず、聖国の義兄上の元へ行こう」




 ――そうして、バートン公爵と娘のフェリシアは聖国の教皇の所へ行き、聖国で最近開発されたという『魅了』避けの石をペンダントにしたものを幾つか貰い受けた。伯父である教皇にも最初は反対されたが、フェリシアの決心が固い事を見てアールスコート王国の教会にくれぐれもと頼んでくれたのだった。


 そして帰国した公爵は皇帝に申し出た。皇帝からしても、『聖女』を探るという事は願ってもいない事だったらしく二つ返事で許しを得た。なんとこの帝国のかなり上位の魔法騎士を3人も護衛に付けていただけたのだ。



 不安と大いなる期待を胸に、フェリシアはこのアールスコート王国王立学園にやって来たのである。

 一応彼女はアールスコート王国大教会の教皇用の貴賓室を間借りしているが、やはりというかこの教会の者ですら、『聖女』の姿を見れるのは大司教だけだと皆が口を揃えた。そして大司教からも『聖女』の事はお話出来ない、と釘を刺された。



 そして迎えた学園での初日――。


 高等部の生徒が全員講堂に集まり、編入生は1番手前の席に並んで座り式は行われた。


 ───フェリシアは、何故かすぐに分かってしまった。勿論『鑑定』などの魔法は使っていない。……使わなくても分かったのだ。

 1人、不思議な雰囲気を持った少女。この国ではおそらく一般的な栗色の髪に榛色の瞳。少し痩せ気味だが愛らしく、スッとした姿勢の良い姿は上位の貴族にも思えた。しかしそのくらいで、一見普通の少女。


(……だけど、彼女だわ。きっとこれは、私の中の魔法使いとしての勘。もう1人少し不思議な雰囲気の子はいるけれど、男の子だしあの子は留学生ね。すごい美少年だわ……。そして……)


 講堂の上段にいる来賓席。そこにはこの国一の魔法使いと言われているレオンハルト王子がいた。その王子もこの不思議な少女を見ているように思えた。


 そして式が終わり、移動しつつ慎重にその少女――ローズに話しかける。

 すると、同じSクラスだと分かったのだ。フェリシアは心の中でガッツポーズをした。


 クラスメイトとして1週間過ごしたが、力は見せないものの『聖女』はやはりこの少女ローズだと確信している。……そしておそらく、あの巨大な『魔法の波動』を起こしたのも。

 そして初日に見た留学生で不思議な美少年ミゲルも同じクラスで、3人一緒に行動するようになっていた。……彼も『聖女』を調査に来てローズに興味を持ったのではないかと思っている。まあ邪魔さえされなければ別にいいけれど。


 いつかローズが秘密を教えてくれるくらいに仲良くなってみせるわ! と考えているフェリシアなのであった。




 



 


お読みいただき、ありがとうございます!


フェリシアの母は『元』子爵令嬢と言っていますが、伝言ゲームで話が変わっていったようです。現在も一応ローズの身分は『子爵令嬢』です。

そして『聖女』の学園編入の噂が諸外国に流れたのは、おそらく大司教の長男からフェリシアの母に伝わって……からではないかと思われます。

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