21 クラスの友人
ローズは自分の席の横の窓から、学園の園庭を眺めていた。
学園に編入生として入学して1週間。総勢20人の編入生は周囲から相当な注目を浴びていた。それは今年の学園の編入生の中に『聖女』がいると囁かれているから。
編入生の内女生徒は10人なのだが、男子生徒でもこの国と遠く離れた全く交流の無い国からの留学生が来ていたりと、今年の編入生はいつもの年よりも人数も多いし少し特殊なのだそうだ。
これは、諸外国からもこの国の『聖女』に対して関心を持たれている、という事だ。諸外国の教会にも『聖女』は配属されていると聞いているが、シェリーによると以前の『魔法の波動』をこの国の聖女が起こしたのではと勘繰られているらしいのだ。
「ローズ。窓から何か見えまして?」
流れる銀糸のような髪に菫色の瞳の美少女。この方は帝国からの編入生であるフェリシアだ。見た目はとても『聖女』っぽい。
編入生は編入試験の際の成績でクラス分けがされた。Sクラスが1番上でABC……の成績順のクラス。編入生でこのSクラスに入ったのがこのフェリシア嬢とローズ、そして……。
「なぁに? 何か面白いものでも見てるの?」
……この、ミゲル パストゥールだ。青銀の髪に水色の瞳。少年と青年のちょうど間の、なんとも危うい雰囲気の美少年だ。教室に他のクラスの女子までが彼を見に来ている程。一応この大陸の西の果ての小さな国から来た、とのことだけれど……。
実は私は彼を知っている。……しかも、前世マイラの時に、だ。
マイラが生きていたのは200年前。それなのに、あの時と全く変わらない姿のミゲル。
……それは彼がエルフだからだ。エルフの外見は超美形で少し耳が尖っていて、その寿命は千年とも言われている。そして彼は人間とエルフのハーフであり、能力はエルフ、外見は人間で、こうした潜入調査にはもってこいの人材。あの当時から本人の人懐っこさも手伝ってエルフ達に可愛がられ重宝されていた。
「……いいえ。この窓から見える学園も素敵だなと思って見ていただけなの」
ローズは当たり障りなく言った。実際、マイラの記憶が蘇るまではこの学園に憧れていたのだ。今はマイラの記憶があるので学園に感激するとまではいかないが、色んな人の力添えもあって、ポーションを作ってお金を貯めここまでこれたことは本当に嬉しかった。
そして学園内では編入生同士だからなのか、今のところこの3人で一緒にいることが多い。まだ元の生徒達からは少し遠巻きにされている感じだ。
「そうですわね。私も思い切ってこちらに留学してきて良かったですわ。授業内容も興味深いですし素敵なお友達にも出逢えましたわ」
ふふと微笑みながらフェリシアが言った。
このアールスコート王国は魔法使いが少ない代わりに、魔法に頼らない勉学が発展している。おそらくは魔法が盛んな国だと何もかも魔法で済まして、実際の物事の仕組みなど分からず済んでしまう場合もあるのだろう。
「僕も、ここに来て良かったよ。……とても、興味深いよね」
ニコリと微笑んでミゲルが言った。
勉強の事だけだろうか? 彼も『エルフの長』の命令で『聖女』の事を調べに来たのではないだろうか。
そしてミゲルは、最初からローズに関心を持っているように感じる。勿論、ローズは彼を知ってはいるのだがそれはあくまで前世のマイラの時だ。今のミゲルとはなんの関わりもないし、気付かれるはずもないのに……。
そう思いながら曖昧に笑い合っていると、Sクラスの教室に明らかに違うクラスの女生徒が何人か入ってきた。
「ローズ ダルトン!」
いきなり大声で名指しされ声のした方を向くと、3人の女生徒がいた。
「? なんですか?」
見覚えのない人達だったので尋ねると、
「まあ! なにか、ですって? ずうずうしい!」
明らかに悪意を持った言い方に、スッと気を引き締め話を聞く。
教室の他の生徒たちも何事かとこちらを注視している。
「私は貴女のことを存じ上げないのですけれど、ずうずうしい、とは?」
「私の事を知らない!? なんて、物を知らない人なの! 我が家にお金の無心をしておいて! 我が伯爵家は貴女の母親の実家だった家よ。貧乏子爵家の貴女の家は、我が家に借金を申し入れたのよ! なんて厚かましいの? だから縁を切られるのよ! それなのに学園に入るなんて、この泥棒が!」
かなり興奮して捲し立てるこの女生徒を見る。
周りでは、「お金の無心?」とか「借金?」などと言い出しこちらを冷たく見ていた。
お母様の実家? ああ、お父様があの当時よく言っていた……。
「お母様の実家のヴェンテ伯爵家、ですわね。お金の無心とは、お母様が病気になった時に協力をお願いに行った時の事でしょうか。確かに我が家は貧乏でしたから、お母様の病気の時に治療費が足りなくて、恥を忍んで実家であるヴェンテ伯爵家にお願いにあがりました。が……、残念ながらご支援は一切していただけませんでした」
「! ……まあ……! それで、お母上はどうなったのですか?」
そこにフェリシアが心配そうに聞いてきた。
「……母は、3年前に亡くなっております」
教室内の人達は、悲しげに目を伏せた。フェリシアは驚きに声を上げる。
「では……、なんですの? そこのお母上のご実家である伯爵家は、ご自分の家の娘が嫁ぎ先で病気になっても手助けもしなかった、と……。しかもお金も出していないのに相手を泥棒扱いですの!?」
今度はヴェンテ伯爵家の令嬢が一気に周りから冷たい視線で見られることとなった。
「な……、なによ! 貧乏子爵家のくせに! そもそも貧乏なのにどうやって学園に入ったのよ! そ、それに、いきなりSクラスだなんて、絶対に何か不正をしたんだって、お母様も言ってたわ。今まで学園にも行けなかったのに、いい成績を取れる訳がないんだから!」
ヴェンテ伯爵令嬢は、周りの冷たい視線を避けるようにしながらもこちらに捲し立て続けた。
「私は不正などは一切しておりません。そして確かに我が家は貧乏子爵家ですが……。それがなにか? ヴェンテ伯爵家は我が家とは縁を切られたのでしょう? 何か関係がおありになりますの?」
ローズは心底不思議で問いかけた。母は元々実家とは疎遠で祖父母も亡くなっていた事からローズも会う事も無かった。唯一関わったのが、母が病気になった際の治療の為の援助の申し込みだったと記憶している。それも素気無く断られもう関わるなと縁まで切られたと聞いたのだ。母の実家とはこんなに情のないものかと思ったものだった。
「な……ッ!! 貴女が不正をして私に迷惑をかけられては困るから、こうして言いにきたんじゃないの! 迷惑なのよ!」
更に興奮した様子のヴェンテ伯爵令嬢だったが、
「――これって、実際に迷惑をかけてきているのは、……ヴェンテ伯爵令嬢? 今の貴女ではなくて?」
フェリシアがそう静かに言い放った。
お読みいただき、ありがとうございます。
学園生活が始まり新たな友人も出来たローズですが……。
ヴェンテ伯爵の祖父母はローズが生まれる頃には亡くなり、兄と妹の仲は良好とは言えず、その兄の妻は貧乏子爵家と親戚というのが気に入らなかったようで、付き合いはほぼありませんでした。急激に悪化した妻の病状に、まとまったお金を仕事関係で使い家には殆ど手持ちがなく、間の悪い事に他の親戚も旅行などでおらず慌てた父が母の実家に急遽助けを求めたのですが……。なんとも後味の悪い話になってしまったのでした。




