20 聖女を巡る人々
『――あなた方が素晴らしい学生生活を送れるよう、自分を律し学業に励んでください』
――学園長のお話も終わり、式は終了した。
一応編入生は名前を呼ばれて礼をするだけだった。まあ、20人もの挨拶を聞いてたら時間がかかって大変だものね、……良かった。そうローズは安堵のため息を吐いた。
次に先生方から自分のクラスを教えてもらい教室への移動となるのだけれど……。ローズはずっと舞台の上からの、レオンハルト王子の視線を感じていた。
一応、10人編入の女生徒はいるんですけど!? それとも私を見ていると思うのは自意識過剰? それとも魔女マイラの屋敷跡で会った時の後ろ姿で? イヤイヤ、10人の女生徒はまあまあ背格好は似ているわよ? それに今の私は髪色も違うし、あの時会ったのはほんの数十秒でしたよね?
ローズは心の中で葛藤するものの、まだレオンハルト王子の視線は追ってきている……気がした。
「いかがで、ございましたでしょうか?」
学園長室に移り、王立学園学園長がレオンハルト王子に問いかけた。
「私共は試験で一切忖度は行っておりませんし、実際教会側からの働きかけもございませんでした。……本当に噂通りに『聖女』様は編入生の中にいらっしゃるのでしょうか?」
「……いる。あの中に力の推量れない者がいた。間違いない。彼女だ」
レオンハルトは編入生全員の書類を見ながら断言した。
「は……。本当でございますか!? それはどの生徒でしょうか。早速その生徒を特別に保護し監視下に置かせていただき……」
ここは王立学園。この学園には王家に忠誠を誓う者を育てる、という側面がある。学園長も王家の為に『聖女』を取り込む事に否やはない。
「いや、今のところは必要ないだろう。本人も一学生として学園生活を過ごしたいであろうからな。こちらが下手に囲い込むような事をすると、『聖女』様の王家への不信感に繋がる可能性がある。本人が自ら明かしたり周りに『聖女』とバレたりした時には、学園に保護を頼む」
身分を明かそうとしない『聖女』。おそらくは静かに学生生活を送りたいのだろう。それを邪魔しては王家に対して悪感情を抱かれてしまう。おそらく今でも良い感情は持たれていないから身を隠しているのだ。
「殿下。……実は今年の編入生の中に、聖国の関係者の方がいらっしゃいます。職員の中にはそのお方が『聖女』様なのではないかとの声も出ておりますが……。そして今年は他国からの編入希望者は例年になく多かったのです。とりあえず編入生の人数は20人に絞りましたが、コレは、他国も我が国の『聖女』様に関心がある、という事なのでしょうか」
学園長が考えこむように問うて来た。『聖女』、例年より多い他国からの留学生……。学園内で何かが起きる予感がするのだろう。
「そうであろうな。我が国の『聖女』様をあわよくば自国に取り込むつもりやもしれない。……編入生達の動きにはよくよく気を付けてくれ。特に、編入生の女生徒を国外に連れ出そうなどとする動きがあれば、すぐに止めて我等に知らせて欲しい」
「はっ。畏まりましてございます」
学園長はレオンハルトに頭を下げた。
王立学園の式典の日、学園長との話の後レオンハルトとその側近パウロはレオンハルトの大学院での研究室に戻っていた。
「……殿下。周辺国はどうして我が国の『聖女』様に関心があるのでしょう。各国にも教会より『聖女』は派遣されていると聞いております。各国の『聖女』はそれぞれその力に大きな差があるのでしょうか?」
パウロは先程の学園長と王子の会話を側で聞いていて、疑問に思っていたのだ。
「……それぞれの国の聖女に力の差があるのは事実なのだろう。その力の差を見極めに来た……とも言えるのだろうが……」
レオンハルトは厄介な事になりそうな周辺国の事を思い、一つ息を吐いてから言った。
「おそらく、以前の我が国で起こった『魔法の波動』。アレを周辺国も感じとったのだ。今我が国で1番力を持った魔法使いと公表されているのは私。その私も転移の術など使えない事は薄々分かっているのだろう。それではあの波動は誰によって引き起こされたのか? ……そう考えれば同時期に現れた我が国の『聖女』を疑うのは仕方ないだろう」
レオンハルトの言葉にパウロは驚く。
「……あの、『魔法の波動』を……『転移魔法』を発動させたのが本当に我が国の『聖女』、なのですか……? まさか……!」
パウロはレオンハルトの幼馴染にして側近、そして護衛でもある。何度もレオンハルトと一緒にあの魔女の屋敷跡にも調べに行った。たまに騎士団長に泣き付いた事もあったが……。そしてあれから地下室があった場所を掘り起こし、あったはずの地下室が無くなっているのをこの目で確認したのだ。アレは確かに『転移』させたとしか思えなかった。
「……あの魔法の波動があった後、魔女の屋敷跡に現れた『少女』。あの少女が『聖女』であろう事は以前話したが、おそらくあの魔法を発動させたからこそ再びあの場に現れたのだと思う。そしてあの場を調べていた王国の者に牽制する為に我らの前に姿を見せた。…反対に我等にその存在を認識させてしまう事となったが」
美しい金髪の線の細い少女。その体からは黄金の輝き。それは未だにレオンハルトの脳裏に焼き付いている。
ですが、とパウロは問う。
「……我が国の魔法使いの一人者であるレオンハルト様に申し上げるのはなんですが、魔法使いとはその魔力だけでなく術の勉強や修行もしなければその力は十分に発揮出来ないと聞きます。15歳の少女があんな複雑な大魔法を既に使いこなせるというのは、少し考えづらいのですが……」
魔法使いとはその術の研鑽、修行をして強くなるもの。魔力だけでは宝の持ち腐れとなる。だから魔法省で魔力の高い者を早い内から見つけて集め、修行させる事になっている。
「……そうだ。幼い頃から修行してきたのか。……それとも彼女は『エルフ』なのだろうか……?」
『エルフ』。千年は寿命があるという一族。そして魔力も魔法使いとしての才能も、長寿なこともあり他国の者から抜きん出た存在。
そして我が国はエルフの国とも全く国交がない。離れた国というのも理由の一つだが、それはやはり200年前の戦争からだ。
もし彼女がエルフだというのなら、その類稀な魔力も何もかも納得は出来るのだが。しかしエルフならばこの国に来て『低級ポーション』を作り、学園に通う意味がない。そして今日学園で見た、あの少女……。学園長に資料も見せてもらったが、間違いなくこの国で生まれ育っている。そしてエルフとは耳が尖っていたりと外見的な特徴があるそうだが、あの少女は外見も全く普通の人間だ。
「しかし『エルフ』の外観的特徴もない。……あの少女の事を、もう少し調べねばならないか……」
「では、騎士団に調査を依頼し……」
「いや、それでは彼女にすぐに気付かれる。……私がいこう。」
「は……? 王子自ら、でございますか?」
「そうだ。幸い私はまだこの王立学園の現役の大学生だからね。機会を待って近付こう」
そう言うレオンハルトにパウロは顔を顰めた。
「それならば、私も同じ学生でございます。しかも学園内とはいえ、普通の高等部の学生が大学部の王子と偶然会う、なんて不自然過ぎます。それに普段から多忙な王子が何を仰っておられるのですか!」
敢えなく却下され、慎重に騎士団が調査するという事で落ち着いたのだった。
それでも機会さえあれば近付こうと考えるレオンハルトであった。
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ローズが『聖女』だと、レオンハルト王子にはバレてしまっているようです。




