18 国王の処置
「レオンハルト様。報告書をお持ちしました」
騎士団長サイラスが書類を大量に持ってやってきた。執務室に控える側近パウロが受け取る。レオンハルトはサイラスを座らせ『隠蔽』をかけた。3人が向き合う。
「……お聞きになりましたか」
サイラスが口火を切ると、レオンハルトとパウロは頷く。
パウロは侯爵家次男でレオンハルトと共に育った乳兄弟。今は側近として仕えている。そしてサイラスは2人の剣の兄弟子でもあり、3人は思いを共にする仲間でもあった。
「ああ。聞いている。……まさか本当に王が弟達の派閥の者を罰するとは思わなかった」
先日、仕事に不審な点があるとしてクラーセン侯爵が更迭された。公金を横領した容疑があるというのだが……。
「クラーセン侯爵といえば、第2王子の腰巾着ですよね。第2王子を王位につけ自分は宰相になるのだと裏で息巻いているともっぱら噂の御仁でした。侯爵の息子を第2王子の側近につけ学園でも一緒だとか。確かに血の気の多い方とお見受けしますし、外務大臣をしている事から外国に行くこともあり例の魔法使いを国内に連れてきても不思議ではありませんが……」
パウロの祖父は過去に外務大臣をしていた。人脈の多い家系だ。
「そうすると、今回の件はクラーセン侯爵が連れて来た魔法使い達を第2王子が『魅了』で操った、という事になりますね。つまり第2王子は『魅了』持ちで、既にその力を使うことが出来るということですか……」
苦々しい思いで言うサイラス。なんといっても『魅了』は、この王国の闇の部分。200年前の戦争で暗躍したこの国の王家の人間がその能力で持って世界を闇に落とし込んだとされる。
この王国以外の世界の歴史を知ったこの3人は、今はそう理解している。
「そうだな。……そして今回分かった事は、『魅了』は少なくとも3人一度に操れる。そしてもしかすると幾つもの操作は出来ないのかもしれない。何故なら暗殺に失敗した後に『自死する様に』との指示をしていなかった。……し忘れただけ、もしくは失敗する事など考えていなかったとも考えられるが……。
そして遠隔で指示をするという事も出来ないのだろう。おそらく更に指示をしたければ、直接もう一度術をかけ直すなどせねばならないのかもしれない。そして今回は他の誰かが暗殺者に直接手を下した」
レオンハルトの『魅了』の能力への推察に、サイラスとパウロは真剣な顔で頷いた。そしてパウロが口を開く。
「……恐るべき、能力ですね。第2王子は今の王妃様から目をかけられ、自分こそは王太子になるべきと思っている節がありました。レオンハルト様と天と地ほどの魔力の差があるのにどうしてかと疑問に思っておりましたが、その『魅了』の能力をもって出し抜けると思っていた、ということですか……」
第2王子テオドール。16歳。『聖女』が王立学園に入る時、彼は2年生だ。『聖女』と出会う時どう彼が動くかも気にかかる。そして第2王子を推す者が1人脱落したとしても、彼が野望を諦めることはないだろう。
「今回国王が動き、私の暗殺を命じたであろう第2王子サイドの者を厳しく罰したことで、暫くは第2王子も第3王子も大人しくなることだろう。
……だが、あくまでも暫く、だ。彼らがどの時点で動き出すのか。……父王が、いつそれを許可するのか、という事だが……」
サイラスとパウロは目を見開く。……この2人も、その事を心配していた。国王は今回レオンハルトを害しようとした弟王子の派閥の者を厳しく罰しながらも、暗殺の件は一切発表せず弟王子達本人にもなんの罰も与えてはいない。
……それは、弟王子達を守ったといえる。そして、こののちはその弟王子達を表舞台に立たす可能性は高いのではないかと思えるのだ。
レオンハルトは確かにこの王国1番の魔力を持つ貴重な魔法使いだ。…しかし、『魅了』の能力を使えば、レオンハルトのその貴重な魔力はその『魅了』の使い手のモノとなってしまう。
今のところは国王はレオンハルトをそのままにしているようだが……。
おおよそそのような事であろうと2人は考えているが、その当事者であるレオンハルトがその事に気付いている事に痛ましい思いをするのだった。
「……2人共、そんなに心配しなくていい。前回サイラスから『魅了』の話を聞いてから、私も色々調べてみたのだ。諸外国の王族や貴族はここ何年かはどうやら『魅了』にかかってはいないようだ。勿論警戒して近付かないということもあるだろうが、何か対策をしているのではないかと思う。……私は父王や弟達の思惑通りになってやるつもりはない」
レオンハルトは2人の表情に気付き、気にしないようにと少し明るめな口調で言った。しかしそれは、余計に2人の心を打ってしまった。
「レオンハルト様……! 私も、商会に嫁いだ叔母に頼んで何かそのような話を聞いたことがないか調べてもらいます」
サイラスがそう言えば、パウロも、
「レオンハルト様、私も外務大臣をしていた祖父に話を聞いてみます。祖父が個人的に懇意にしていた外国の要人もいるようですので。そしておそらくはまだ時間に猶予はあるはずです」
そう言って2人は何としてもレオンハルトを守っていく事を誓うのだった。そんな2人を見てレオンハルトは微笑んだ。
「ありがとう。サイラス。パウロ。
……先日父王は私に暗殺未遂の犯人のグレーな処遇と私レオンハルトを王太子として発表をする、と仰った。
そのお言葉通りクラーセン侯爵を罰せられたことから、王太子の発表もされるのだろう。……私が思うに、期限は私が立太子の儀を行う時まで。おそらくそれは私の王立学園卒業後かと思われる。その頃には第3王子も充分に成長し能力も発揮出来る頃だろう」
2人は頷き合った。レオンハルトの王立学園大学部卒業。それは3年後。
その時までに。必ず『魅了』に対する対抗策を見つけ、レオンハルト様を守りこのお方を国王にしてみせる! そう決意するのだった。
「レオンハルト様。それまでに彼らが周りにどれだけ『魅了』をかけていくのか、でございますが……。我らが『魅了』にかけられることもあるかもしれません。その場合、見分ける方法も考えておかねばなりません」
パウロは自分が万が一『魅了』されてしまった時、自分の意思でなくレオンハルトを陥れる事になってはと、それが心配だった。
「そうだな……。例の暗殺者や諸外国の書物から考えると、難しい話になると目に力がなくなる、という話だったな。サイラス」
「はい。これからはこうして話をする前に、共通の内容の話を目を見ながらすることといたしましょうか……。確実とは、言えないでしょうが」
「心配ですが、今はそれしかないですね……。…こんな時、伝説の魔女マイラなら簡単なのかもしれませんが……」
そう言ってパウロはため息をついた。そしてマイラと口にしてからふとある事に気が付く。
「……そういえば。レオンハルト様はあの暗殺未遂事件の日、魔女に助けられたと仰っておられましたが、あれはいったい……?」
「……ああ。結局私が尋問をする前に彼らは口封じされてしまったから有耶無耶になってしまったが……。
あの日、私とパウロが魔女の屋敷跡に入ると、敷地の奥から我らを待ち伏せしていたはずの暗殺者の仲間が『魔女の亡霊』と怯えて逃げて来ただろう。……あの時。あの暗殺者を魔女が脅かし炙り出してくれたのだと私は思っている」
真面目な顔でそう言うレオンハルトに、パウロはイヤイヤ、と待ったをかける。
「……レオンハルト様。それは、暗殺者は以前我らも見た魔女の亡霊を見ただけなのではありませんか? 結果的には私達を助ける事になったのでしょうが、それは魔女が意図して助けてくれたということでは……」
しかしサイラスは、その話を聞きながら真面目な顔で言った。
「……それは前回レオンハルト様も魔女の屋敷跡で見られたという、『ブロンドの髪の少女』でございますね? あの時もレオンハルト様は『あれは亡霊などではない』と仰って……。ではそれはまさか……」
レオンハルトは頷いた。
「……そう。私はあの時見た年若い少女が『聖女』だと思っている。その証拠に大司教は私の言葉に乗らざるをえず『聖女』を王立学園に入学させると、そう約束したのだから」
その言葉に、パウロは驚愕して言った。
「しかし、どうして『聖女』が『魔女』の亡霊のマネを?」
「……さあな。『聖女』もあの魔女マイラに関心がある、ということか。それともあの『魔法の波動』に本当に関係しているのか……。確証はないが、1度目は私達王国の者にこれ以上魔女の屋敷跡を探らせない為の牽制。2度目は、暗殺計画を知り純粋に見逃せなかっただけなのかもしれないな」
「『聖女』が聖国側の人間ならば、それもあり得るかもしれません。なんと言っても世界の国々から見れば『魔女マイラ』は『伝説の悪女』などではなく、『救国の聖女』だったのですから」
サイラスの言葉にレオンハルトも頷く。
「いやいや……。サイラス殿まで何を言ってるんですか! 私もレオンハルト様やサイラス殿のお話を聞いて魔女マイラは本当はそんなに悪い人ではなかったのかなとは今は思ってますよ。だけど魔女の亡霊のフリをする聖女なんて聞いた事ないですよ」
「この国には200年以上『聖女』はいませんでしたから。案外『聖女』というのはこんな風に規格外の存在なのかもしれませんね」
そんな風にサラッと纏めてきたサイラスに、何やら納得いかない様子のパウロ。そしてそんな2人の様子に笑顔を見せながらも、これからしなければいけない沢山のことに思いを巡らすレオンハルトだった。
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