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17 『護り』の石




「うん! 凄いわ、ローズ。完璧よ! 貴女って、一度本を読むだけですぐに覚える天才タイプなの? これなら編入試験は合格間違いないわ」


 シェリーが学園の過去問題を持って来てくれて、それを本番さながらにローズは解いてみた。そしてそれを採点したシェリーが大興奮で太鼓判を押してくれたのだ。

 ローズは少し苦笑した。コレは大学部まで進んだマイラの記憶が全て残っているからであって、天才タイプなどでは当然ない。高等部への入学テスト程度ならほぼ完璧だった。


「シェリーの教え方が良かったからよ。

……ねぇ、シェリー。今年はいつもよりも沢山の受験者がいるように聞いたんだけれど、それってもしかして……」


 シェリーは少し困った顔で言った。


「……ええ。『聖女』が王立学園に入学するらしいってどこからか噂が流れているらしいのよ。しかも、高等部への編入とまで噂されているわ。王国側がわざわざ噂を流すとも思えないし、勿論教会側でもないわよ? そして何故か諸外国からの受験生が特に増えているらしいの」


「……諸外国からの、受験生が?」


 ローズは思わず声を上げた。『聖女』の学園入学の噂が流れたことも謎だが、それを知った王国内で話題となり自国の『聖女』見たさに受験生が増えるのはまだ分かる。だが諸外国ではそれほど珍しくもない『聖女』をわざわざ国交のない国に留学してまで見に来ようとする、その意図とは一体?

 考え込むローズにシェリーは言った。

 

「……貴女は無関係と言っていたけれど、おそらく以前の大きな『魔法の波動』。アレとこの国の『聖女』を絡めて考える国は多い、ということよ。諸外国はこの国の『聖女』を少し特殊な存在と、そう思っているようね」


 ――また、アレ、が原因なのね――

 ローズは内心大きくため息を吐く。

 あの『地下室』を移動させる事はローズには必要な事だった。あの中にはマイラの個人的な研究資料からカルトゥール家の家宝までもが保管されていた。そしてその中の魔道書は父や弟の勉強用にもちょうど良かったし、あのまま王国側に置いておくのにも不安があったから。

 ただ、久々の大きめで複雑な魔法に、少し力を入れ過ぎて衝撃が大きくなり過ぎた事が失敗だった。イヤ、魔法自体は成功だったのだが、アレが後からここまで尾を引くとは思わなかった。

 まさか、諸外国にいる魔法使い達にまで気付かれる程の衝撃が起こってしまっていたなんて……。


 困った顔をするローズを見て、シェリーはやはりアレにはローズが関わっていたのね、と確信する。けれど、ローズが自分から話さない事はわざわざ追求はしないことにしていた。

 ……まあわざわざ聞き出さなくても、表情を見ていたらなんとなく分かるようになったわ、とシェリーは思う。


「まあ、王国側もそれを見越してわざと『聖女』の情報を流した、ということも考えられるけれどね。我が国の『聖女』見たさにもし学園に諸外国から有能な魔法使いが来たのなら、それこそ万々歳なのだし」


 それを聞いたローズは少し驚く。


「……諸外国からの、有能な魔法使いを取り込むつもりで?」


「あくまでも想像だけれどね。我が国には本当に魔法使いが少ないから。なんとしてでもこの国に引き込みたいのでしょ。

……アールスコート王国は何故か奇跡的に強い魔物が出ないから、冒険者も居ないしそこに一緒にいるはずの魔法使いも入国してこないしね。強い魔物がいないのは素晴らしい事だしこの国の大きな利点なんだけれど、魔法使いが欲しい王国としては痛いのね」


 ――この王国には魔物が出ない。個人で対処できる程度の魔物はいるけれど、冒険者や騎士団が出なければならない程の魔物は出ない。

 ローズとして生まれ育った時はそれが普通だと思っていたけれど、世界から見ればかなり珍しいことだ。王国からしても、対魔物用の予算を組まなくて良いのだから随分恵まれている。

 この王国が世界から忌避されようとも、魔物に怯える事のないこの国に人々が集まり王家のいう事を信じる理由がこれだった。


「医療的なことならば分かるけれど、ここまで魔法使いに拘るのは王国は何か他に理由があるということかしら……」


 魔法使いを欲する理由は色々あるだろうけれど、やはり国が求める魔法の主な仕事は『医療』か……『軍事的』な要素が多いのではないだろうか?


「この国は医療は勿論、軍備も随分遅れているわ。戦争なんてして欲しくないからそれはそのままでいいと思うけれど、国防の面からは他国から攻められた場合の備えはしたいという事なのかしらね。

……この国は200年前の戦争後、『勇者』が『天啓』を受けて聖なる力を授かった、という話になっているでしょう? あの時から『勇者』の護りの力によってこの国に強い魔物が入れなくなったと言われているわ。……『勇者』のくだりは本当の所はどうか分からないけれど、その頃から魔物が居なくなったのは事実みたいね。それが、国民が王国のいう事を信じる理由なのだけど……。

……ところがそれが、最近ごくたまにだけれど大きめの魔物が入ってくる事があるらしいの。国境の街では結構な騒ぎになっているそうよ」


「……『護り』の効き目が悪くなった……?」


 我が国の『護り』。


 それは当然、『勇者』の力ではなく。


 ……200年前、まだ学生だったマイラが特殊な魔石から作った『護り石』によるものだった。マイラはそれを王家に献上したことがきっかけでこの国に担ぎ出され、世界の戦争に巻き込まれていくことになったのだから。


 アレはまだ戦争半ばの頃、古のドラゴンの魔石を旧王国が手に入れ戦争に使えないかと研究されていたのだ。けれどその魔石は余りにも魔力が強力過ぎてどうしても使うことが出来なかった。……多分他国でも同じように使えなかったから、貴重な魔石でありながら手放されたのだろう。

 それが回り回って王立学園の研究用にとマイラの手元にやって来たのだ。マイラも色々試してみた。最初は何をしても上手くいかなかったが、魔石の魔力が強力過ぎて力が反発するのなら、その力を利用して魔物を近寄れないように出来ないか? と考えたのだ。かくしてそれは成功した。

 ……が、その時の教授にその魔石の話をしたところ、有無を言わさず王宮に持っていかれ……。その後はマイラの人生は戦争と王国の陰謀に巻き込まれていった、という訳なのだ。


 でもアレは後から思えばそれほど完成された出来のモノではなかった。時々メンテナンスが必要なはずだったし、こんな200年もの長きに渡り効力が続いたとも思えない。……あれから随分と時が経ったのだし、また別に新たな仕組みを作ったのかもしれない。


「王国としては、魔法使いを集めてその魔物が入って来た場所をなんとかしたいのではないかしら……。って、コレは父から聞いた国内の極秘情報だからローズも秘密にしてね」


 シェリーはローズに両手を合わせて、お願いねと言った。2人はお互いに秘密を共有する仲なのだ。ローズは笑顔で、勿論よ、と笑った。


「……それに我が国には今まで大した魔物がいなかったから『冒険者ギルド』がないのよね。『商業ギルド』だけがこの国の大きな国際的な機関なのじゃないかしら? この国は色んな面で遅れているし国際的機関も余りないけれど、魔物がいないことだけが凄いことだったのよね。それが本当に『勇者』のお陰かどうかは怪しいけれど。

……だけどそれが破られそうな今、これから王国がどう動くのかは見ものかもしれないわ」


 約200年間強い魔物がいなかったこの国で、なんの準備も無しに強い魔物が出てくるようになったとしたら、それはもう恐怖でしかない。

 最近強い魔物が出て来る兆候が出てきているのなら、すぐにでも対策を打ち始めなければならないと思うのだが……。


「……でも、つい最近まで王国は騎士団に『聖女』の捜索をさせていたわよねぇ。まさか聖女が魔物を退治してくれると思って探していた訳でもないわよね?」


 自分達の平穏な暮らしを掻き回した騎士団の事をまだ少し根に持っているローズがポソリと言うと、シェリーは苦笑した。


「まあ、魔物と対峙した騎士団の方々用のポーション位は期待していたのかもしれないわね」


 そんな事を話しながら、2人で苦笑いをし合ったのであった。




お読みいただき、ありがとうございます!


シェリーとローズはお互いに秘密を話し合う仲です。が、生まれ変わりの話だけはまだ話せないでいます。


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