16 国王の居室
「おお。レオンハルトよ。此度は災難であったな。お前が無事で何よりだったが、犯人が自死したとか」
父王は背もたれのある豪華な王の椅子に座りながら、第1王子レオンハルトをさも心から心配するように言った。人払いをした王の自室には今は親子2人だ。
「父上。ご心配をおかけしました。……しかし、犯人は自死ではありません。我が国の地下牢で殺害されたのです」
レオンハルトがそう告げると、父王は目を見開く。
「我が国の地下牢で殺害された、と……! それは誠か!?」
地下牢で殺害。それは、この国の何者かがこの件になんらかの形で関わっているということ。
――父王は、本当にご存知なかったのだろうか?
「―はい。何日か取調べをし、おかしな所は無かったにも関わらず3人が一度に殺害されていたようです。……おそらくは、そういうことであろうと思われます」
父王は手を頭に置き息を吐きながら背もたれにもたれた。この国の1番の魔法使いであり第1王子であるレオンハルトを害して得をする者。この王宮では弟王子達とその関係者しか有り得ないと分かる。
「……まさかあやつら、か……。なんと愚かな事を。……して、どう落とし前をつけさせる? 我が国1番の魔法使いにして次期王太子に手を出したのだ。このままという訳にはいかぬであろう」
ここで『次期王太子』という呼び名を出してくる事に、レオンハルトは少し違和感を感じる。そして『次期王太子』としたとならどう対処するのかと、父は自分を試している。
「……犯人が死亡した以上、証拠はありません。が、彼らに直接手を下した者はおそらくまだこの王宮の何処かにいるのです。そこから繋がりを証明出来るはず。父上が私に魔法で彼らの痕跡を追う事を許していただけるのなら、でございますが」
コレは半分ハッタリだ。あの3人を殺害した犯人は魔法は使っていなかったようだった。あの地下牢から犯人の悪意だけで追っていけるかは自分の魔力では微妙な所だ。それこそ『魔女マイラ』ならば十分可能なのだろうが。
そう思いながらレオンハルトは表情を変えず父王を見据えた。証明する、ということは、弟王子達が兄であるレオンハルトの暗殺未遂事件の犯人だと公にする、ということ。
――さあ、父上はどう出る?
「……我が国が誇る魔法使いを害そうとした犯人、そしてその証拠を消そうと動いた者も許し難い。……しかしお前も知っている通り、王家の上級ポーションの作成者が亡くなった今、『聖女』や他国の魔法使いの協力を得るべく我が王国にクリーンなイメージをつけたい。王家で兄弟間での醜い争いを表沙汰にするのは今は得策では無い」
レオンハルトは心の中の父に対する失望を見せぬようにしながら、そのまま父を見続けた。クリーンなイメージ? それを世間に見せたいのなら、尚更ここで悪をきちんと処罰出来るという事を示すべきではないのか、と思いながら。
「……レオンハルト。まずはお前を『王太子』と発表しあやつらの鼻を明かすとしよう。この王国の第一王子にして国1番の魔法使い。誰にも反対出来まい。さぞや悔しがる事だろう。
そしてあやつらには別にきっちりとお灸も据えてやらねばな」
『王太子』。流石にこの言葉にレオンハルトは驚いた。
「……良いのですか? 父上は後継をまだ決めかねておられたのでは? そして、はっきりとした証拠もない今、彼らに罪を問う事が出来るのですか?」
「私の中ではお前が『王太子』と、ほぼ決まっておったがな。何かと煩くいう者達もおったので少し時期を見ておったのだ。
……その煩い輩がおそらく今回の主犯だろう。勿論王太子を発表するだけでは済まさぬ。お前に危害を加えようとした事を必ず後悔させてやろう。証拠がグレーならグレーな処遇をするまで」
ニヤリと笑った父に、薄ら寒い思いをするレオンハルトだった。……が、一度浮かんだ父への疑念は消えなかった。
「――聞いておったか」
レオンハルトが部屋を辞して少し経ってから、国王は無人のはずの部屋で声を発した。
『――はい。弟王子様方にも困ったものにございますが、やはりレオンハルト殿下は流石でございます。彼等が時を待てず手を出してしまわれたのも仕方がない程かと。……しかしいつまでレオンハルト殿下をこのまま自由にされるおつもりですか』
どこからともなく、国王に答える声。
「そうさな……。レオンハルトが正式に王太子となるまで、か。立太子の儀は学園卒業後に行うこととし、それまでは発表のみにとどめる。
そこから2人の弟王子達のどちらか能力の秀でた方に『魅了』させる。……それまで待てと言うてあったというのに。
それくらいが待てぬとは、どちらがやらかしたのか付いている者が暴走したのかは知らぬが、全く浅慮な者どもめが。……此度の首謀者には厳しい罰を与えねばならぬぞ。せっかくの我が国の高位の魔法使いをむざむざ弑しようと愚かなマネをするなど」
国王が苦々しげに言った。
『誠に、惜しゅうございますな。レオンハルト殿下に『魅了』の能力さえおありになれば……。全く申し分のない国王とお成りになられたものを』
「言うな。私もそれは非常に惜しいのだ。魔法使いとしても国王の器としても、レオンハルトであれば安心して任せられたであろうに。しかし……。このアールスコート王国の国王となるには『魅了』がなければいかん。この能力があればこそ、我が国が発展し得るのだからな。そして……、あの『魔女の護り石』」
この王宮の封印の間を思い出しながら言う。
「アレを……。レオンハルトを『魅了』させた後に……。
……レオンハルトにはまだまだ活躍してもらわねばならぬのだ。
……今回の首謀者、関係者を厳重に処分せよ。2度とレオンハルトに手を出そうなどと思わぬようにな」
『はっ……。畏まりましてございます』
そう返事をして、姿を見せぬ声の主は自らの仕事に向かったようだった。
国王は1人、座したまま目を閉じた。そして呟く。
「レオンハルトはこの国の大切な『駒』。事が済むまでは決して手出しはさせぬぞ。弟王子達では話にならんのだ……」
国王の呟きは他に誰もいない部屋に響いた。
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今回は王国の王子レオンハルトの前回からの続きです。
王宮では不穏な雰囲気になっていますが、ローズは学園の編入に向けて忙しく過ごしています。
流石にローズとリアムが学園に行くと今までと同じように家の事は出来ないので、シェリーに頼んで家の事をしてもらえる人を探してもらっています。
今は父親の仕事も上手くいき、ポーションでも稼いでいるので贅沢しない程度にダルトン子爵家はやっていってます。




