表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/117

15 王家の能力


「……申し訳ございません! 殿下」


 騎士団長サイラスが頭を下げる。


「……どういうことか、きちんと説明してくれ」


 さすがのレオンハルトも、冷静を装いつつも少しの苛立ちを持ってサイラスを見た。


 それというのも、先日起こったレオンハルト暗殺未遂事件。あの犯人3人が地下牢で死んでいたというのだ。


「今朝、犯人達の取調べを行う為地下牢に行った時にはもう、彼等は死んでいたのです。看守も夜まで暴れたりしながらも特に変わった様子はなかったと申しておるのですが……。3人共ともなれば、それはもう暗殺されたとしか……」


「……暗殺者を暗殺、か……。それは『口封じ』というのではないのか?」


 冷静に言い放つレオンハルトに、サイラスはひたすらに頭を下げる。


 先日自分を暗殺しようとした男たちは、この国では貴重な魔法使いだった。だから諸外国の者がこの国の王族を狙った可能性もあったのだが――。


「……こうも簡単に我が国の地下牢の者を手にかけられるという事は、首謀者はこの王宮でも簡単に動ける者、ということ……」


 もしくはこの王宮で自由に動ける者を仲間にしているとも考えられなくはないが、それならば最初からその者にレオンハルトの暗殺をさせるのではないか? ……おそらくは、今回の首謀者は外国の者ではなくこの王宮……つまりは。


「私の反対勢力、弟たちの派閥の差し金ということが考えられるということだな」


 レオンハルトのその言葉に騎士団長サイラスは頷いた。


「……おそらくは。そのような意味合いの話になってくるかとは思います。が……。なにぶん証拠が無いのです。犯人は殺されてしまいましたし、私達が以前とった彼らの調書を証拠と出来るかも怪しいところです」


 レオンハルトはため息を吐いた。

 王家の三兄弟。レオンハルトの母は隣国からやってきた貴族出身の1人目の王妃だったがレオンハルトを産んで間もなく亡くなった。2人の弟の母はこの国の貴族出身の2人目の王妃だ。そんな訳で兄弟仲が良いとは言い難く、このような事態も驚きはしなかった。むしろそろそろ動き出してくる頃だろうとは思っていた。

 母の身分はどちらが高いともいえないが、自国出身でしかも現在の王妃の子として弟王子達を推す者達もいる。

 現在母の後ろ盾のないレオンハルトを推すのは、実力主義や魔力重視の貴族たちだ。元々魔力が大きい事を見込まれて嫁いできた王妃であったから余計だ。


 世間は魔力の余りの違いに、レオンハルトが王太子になるものと思い込んでいるようだったが、国王よりの正式な宣言はまだ無い。


「……それは証拠となり得ぬであろうな。それが証拠となるならどんな証拠も作り出してしまえる事になる。……これからの犯罪者は証人としても厳重に警備をせねばなるまい。……暗殺者も気の毒に。完全なる使い捨てだな」


 そう言いながらレオンハルトはサイラスの顔色が悪い事にふいに気が付いた。


「……? なにか、気になることでもあるのか?」


「は……。殿下は、この国の王族に伝わる特殊な能力、というものをお聞きになったことはございますでしょうか?」


 恐る恐るといった様子でサイラスは聞いてきた。


「特殊な能力……。このアールスコート王国の王家の人間のみに表れることがあるという、『魅了』のことか?」


 昔話にもたまに出てくる特殊な我が国の王家の能力。諸外国が我が国を厭う原因の一つとも言われている。ひとたび術をかけることに成功すれば、相手の意志など関係なしに操る事が出来るという。

 レオンハルトも何度か試そうとした事があるが、全くそんな力は発現しなかった。

 そして、今までレオンハルトは実際にその能力を見たこともなく、おとぎ話なのだろうと結論付けていた。


「そうです。……その能力。もしかすると実在するのやもしれません。……あの魔法使いたちも、『魅了』にかけられていたかもしれない、と私は思うのです」


 サイラスは言いにくそうに話し出す。

 サイラスは伯爵家の次男。そして彼の父の妹はこの国でも有数の商会の主に嫁いでいる。その為小さな頃から取引先の外国の書物や玩具を土産としてもらっていた。叔母が持って来てくれた色んな外国の伝記やおとぎ話。そこにはこの国では悪女とされる魔女マイラが救国の魔女として、我が国は悪しき国として書かれていたのだ。

 そしてその中でも各国で共通しているのが、我が王国からの使者が次々と人々を『魅了』し操っていくという話。その我が王国の使者によって、大国の高名な騎士や小国の王子、ある国では王妃や大臣などが操られ、国は混乱し本人達は非業の死を遂げていくのだ。


「……私も母の国の者から、少しは聞いたことがある。なるほどそんな話が出回っているのなら我が国が世界から忌み嫌われるはずだと納得した。

……それより、サイラスの叔母上は子供になかなか難しい書物を渡すのだな。それにその書物は我が国では禁書となっているものだろう? 私だからいいが、他で話したりその書物を外に出したりせぬようにな」


「……はい。ありがとうございます。

しかし殿下。あの外国の書物を難しいと仰いましたが、諸外国ではその種の本は子供の頃から読むものだそうです。我が国の勇者の『創世記』の如く、大人から子供まで読むべき、……知っておくべきものとされているのです。……決して、忘れてはならない歴史だと。そしてその殆どは国によって登場人物が違うくらいで世界で共通の内容です。……我が国以外は。

我が国だけが、独自の歴史を持っているのです」


 レオンハルトは黙り込んだ。母の国からも伝え聞いた話。決して我が国と国交を結ぼうとしない諸外国。魔法使いも我が国を忌避し、外国の要人達も我が国に入ろうとはしない。

 レオンハルトにも、少しは分かっているのだ。我が国は、何かがおかしい、と――。


「そして、最初の『魅了』の話です。私は諸外国の書物に書かれている我が王国の『魅了』は本当にあると考えております。…そして、今もどなたかがその能力を用い、今回の犯人である魔法使い達を操り、更にまた違う者を操って彼らの口を封じたのではないかと、……私はそう邪推しているのです」


 意を決して告白してくれたのだろうサイラスを見て、レオンハルトもそろそろ真実を見つめなければならないと感じていた。


「……もし、その能力を持つ者がいるとしたら、それは誰だと考える?」


「……申し上げにくいのですが、もしかするとレオンハルト様以外のご兄弟と国王は全員持たれているのかもしれません。私達はまだ成長されていない第2王子と第3王子の為に、泳がされているだけなのかもしれないとさえ、思う事があるのです」


 前王妃が残した魔力の大きい王子。そして現在の王妃の2人の王子。父である国王がどちらを重視するかは分からない部分もある。しかしわざわざ魔力が大きい事を見込んで迎えた王妃の子で、実際にこの国1の魔法使いとなった息子を暗殺までするとは考えにくい。


「私以外全員、か……。残念ながら確かに私にはその能力を持っているとは思えない。しかしもしそうだとするなら王家のその能力はどの程度のものなのか。そして周囲の人間、例えば宰相や大臣達をも操っているのだろうか……。

それとこの国である意味貴重な強い魔力を持つ私を国王が消そうとするとは思えない。もし国王もその能力を持っているのなら、私を『魅了』した方が得策だと思う。……そうなると、今回の暗殺未遂は弟達どちらかの陣営の勇み足だった可能性もある」


「そうでございますね。弟王子達の陣営は貴方がほぼ王太子だと言われる今の状況にヤキモキされているでしょうから……。

そして『魅了』。その能力は未知数で周り全てにかけられるようなものか、操り意のままに動かしたい少数のみにしかかけられないのかは分かりません。そしていざとなれば殿下にもかけてくるかもしれませんが……。

それから、私が暗殺者の魔法使い達を『魅了』をかけられていたと感じたのは、取調べで彼等は話の核心になるとどこかあやふやで統一性がなかったこと。……そして、彼らの目です」


「『目』……?」


「はい。彼らは話の核心を深く突くと、何やら目の焦点が合わなくなるのです。そして『自分でもよく分からない』というような事を言い出すのです。その時ずっと目はどこか不安げに泳いだままでした。それは3人とも同じです。それは誤魔化しなどとは違う気がしたのです。

……それで私はあの外国の本に書かれていた『魅了にかけられた人間』の特徴を思い出しました。余りにもあの本の症状と似通っていたのです」


 真剣な顔でそう話すサイラスに、レオンハルトはある事を不意に思い出していた。

 ――幼い頃、父王によく歯向かっていたレオンハルトの師でもあった魔法使い。ある時を境に父王に従順な者となっていた。不思議に思い話しかけると……。彼の元々は強い瞳の光は消えていたように感じた。あの時の、あの違和感。

 ……やはり、父王は『魅了』を持っている……? そして弟達も……?


 王家の中でただ1人、自分だけがその能力を受け継いでいないのかもしれない、という事にショックを受けたレオンハルトだった。


「……サイラス。とりあえずこの件は深追いはしない方が良さそうだ。怪しまれぬよう通常より少し強めに調べ上げた後は、もう放棄したように見せかけるのだ。そして影で少しずつ調べていくしかない。勿論、私もその能力の件も併せて調べよう。……そして、私は父王と話をしてみようと思う」


 サイラスはハッとする。


「陛下とお話を……? 殿下、どうか危険なことはなさらないでください!」


「あの能力の事を直接聞くようなことはしない。とりあえず、今回の暗殺未遂と犯人の死までをご報告申し上げてくる」


 まだ心配げに何かを言おうとしているサイラスを止め、レオンハルトは父王との謁見に臨むのだった。





お読みいただき、ありがとうございます。


王国のレオンハルト王子の周りのお話です。王家でもなにかと揉め事があるようです。

そして200年前の戦争では、魔女マイラ以外の王国の人間が暗躍していた節があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ