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12 ブロンドの少女


「………ん? え……、なんて言ったの、シェリー?」


 いつものようにギルドにポーションを納入に来て、いつものようにシェリーに声をかけられ別室に来ていたローズは、出されたお菓子を食べる手を止める。

 シェリーは少し困った顔で答えた。


「…だからね。この国の第一王子レオンハルト殿下が大司教である父の所へやって来て、『聖女』を学園に通わすようにと指示していったそうなの。殿下は何故か貴女のだいたいの年齢を知っていて……。父もいずれ貴女が『聖女』として表舞台に立つ日が来るかもしれないから、年齢は誤魔化せなかったらしくて……」


「そんな……」


 ローズは頭の中で自問する。私の年齢……。いったい、どうして!?


 不意に先週、王国の魔法使いの前で姿を見せた事を思い出す。

 …まさか! あの時、マイラの屋敷跡で私はあの魔法使いにマイラの亡霊のフリをして後ろ姿を見せたわ……。あの時の青年がレオンハルト殿下? でもあの時もう1人いた人は『魔女マイラの亡霊』と怯えていたじゃない! それにほんの数秒、マイラの振りをした姿を見せただけで、どうしてそれが姿を現さない『聖女』に繋がってしまうというの?

 

「ねえシェリー。レオンハルト殿下って……、どんな人なの……?」


 すっかり食欲も無くし、ローズはシェリーをジッと見つめる。


「そうね……。レオンハルト殿下はこの国の第一王子で金髪碧眼の19歳。まあ、見目麗しい青年ね。そしてこの国の1番の魔法使いよ。コレは、王子だからと持ち上げられているのではなくて、殿下の本当の実力だと言われているわ。その証拠に第一王子が必ずしも次代の王と決まっていないこの国で、その突出した魔力から既に殿下が王太子と決まっているそうよ。他の弟王子達は実力が違いすぎるから、臣下にくだることになるだろうと言われているわ」


 ゴクリ……。


 ローズはあの時『魔女の屋敷跡』で出会った青年の事を思い出していた。うん、まあ見目麗しい金髪碧眼の青年……だった。そして確かに、この国で今まで出会った中で1番彼の魔力は高かったんじゃないかと思う。そう、確かに1番高かったのだが……。


 ……そうか。

 コレは、私はやっちゃったのかもしれない。


 この国で1番の魔法使いだというレオンハルト殿下。…しかし、残念ながら彼の魔力はマイラの足元にも及ばない。それどころか、前世の魔法使い達と比べても、中の上くらいの魔力だと思う。

 おそらくレオンハルト王子は転移の術も使えないだろう。そして、地下室を転移させた魔法は彼の想像を遥かに超えた魔法だったに違いない。そう、近年彼らの国にはこんな魔法を使える者は存在しなかったのかもしれない。


 突然起こった巨大な魔法の波動。その魔法の痕跡に消えた少女。最近教会に現れたという『聖女』……。


 これらを合わせて考えたら、『聖女』は魔女の屋敷跡に現れた少女で、『学園に通う位の年齢』という事に気付いたということなのね……。そしてあの『魔法の波動』もその『聖女』の仕業だと思われているのかもしれない。

 さすが、次代の王とされるだけあるわ。


 ローズはため息を吐いた。


「ごめんなさいね、ローズ。こちらがもっと気を付けていれば……」


 シェリーはとても申し訳なさそうに、こちらを見て言った。…しかし、


「ごめんなさい、シェリー。それは多分、私のせいだわ」


「? どういうこと?」


 驚くシェリーに、ローズは続けた。


「あの時は相手が誰か知らなかったのだけれど……。多分私はレオンハルト殿下と会ってるわ。私は先週のここからの帰り道で……『魔女の屋敷跡』に行ったの」


「『魔女の屋敷跡』……! どうして」


 ローズは一つ息を吐いた。

 私は迂闊にもあの魔法使い、レオンハルト王子の前で本当の姿を現した。それなのに、これだけ協力してくれるシェリーに秘密にするのは間違っているわ。


 そして、ローズは姿替えの魔法を解いた。


「ッ!!」


 シェリーが絶句する。


 彼女の目の前には、金髪に金の瞳の美しい少女が座っていた。




 ――たっぷり30秒は、シェリーはフリーズしていた。


「…シェリー……?」


 控えめに自分の名を呼ぶ目の前の少女にシェリーはハッと我に返る。


「…ローズ、なの……ね?」


 シェリーはそれでも信じられなくて確認すると、少女はニコリとはにかむように微笑んだ。

 ――ああ、このはにかむような笑顔……。ローズ、だわ。


「…貴女、どうして……。その姿はいったい……?」


 余りの驚きに、何から聞いていいのかも分からないシェリーにローズは言った。


「こんなに協力してくれているのに今まで黙っていてごめんなさい。…でもこれから話すことは、シェリーと私だけの秘密にしておいて欲しいの」


 真っ直ぐに自分を見つめるローズにシェリーはただ黙って頷いた。




 

「それじゃあ……。ダルトン子爵家は魔女マイラの一族だった、ということなの……!?」


 ローズはシェリーに本来のプラチナブロンドと金の瞳になってみせ、何故急に魔力が増えたのかを説明した。


「ええ。魔女マイラは自分の弟を、子供を戦争で失ったダルトン子爵に託したの。その時追手から逃れる為に弟のこの特徴的な金の髪と瞳、そして力を封印した。ダルトン子爵家の王都の屋敷には子爵家直系の者しか入れない部屋があって、そこに魔女マイラは特殊な封印を施していて……。それを4ヶ月前に私が偶然にも解くことが出来たの」


 シェリーはまだ少し混乱しながらも、自分に言い聞かせるように言った。


「…そうだったのね……。…なるほど、それで10歳の魔力検査では反応せず、今これほどの力を……。では、ローズの父親と弟リアムもこれほどの力を持っているという事なの?」


 同じではない。少なくともローズにはマイラという前世が蘇った事で、父や弟とは魔力量などがかなり違っている。そして、魔女マイラの記憶があるローズは魔法をほぼ完璧に使いこなせるが、父や弟は今までになかった力を手に入れたばかりで、まだまだ修行中の身なのだ。…おそらく追いつく日は来ない。


「私は封印を解いた事で、魔力の流れや封印の力を理解出来てるわ。そして今まで書籍でも色々調べていたりしたから、私はお父様やリアムより出来る事は多いと思うわ」


 と、ローズは濁しておいた。


「そう……。確かカルトゥール家は代々高位の魔法使いの家系と言われていたそうですものね。その血を引いているのなら、ダルトン子爵家は魔法の能力は相当高いはずだわ。…その中でも突出した魔法使いだったというのが、マイラ カルトゥールですもの」


 シェリーの言葉にローズはこの国でのマイラの悪評をダルトン子爵家に持って欲しくなくて、自分達の思いを伝えておく。


「それから……。ダルトン子爵家は確かに魔女マイラの一族だったのだけれど、私達は彼女が国を、人々を脅かそうとしたとは考えていません。そして自分達も魔法で世の中を乱す事は考えていません」


 これだけは言っておかなければ、とローズはこの事を強調した。

 それを聞いたシェリーは、頷き答える。


「分かっているわよ。ローズ。…このアールスコート王国では、初代国王の権威や王国の成り立ちを正当化する為にマイラ カルトゥールを『悪女』扱いしているけれど……。この王国以外のほぼ全ての国では、魔女マイラは救国の魔法使いと呼ばれているわ。おおよそ20年に渡る悪夢の戦争を終わらせた、稀代の魔法使い、それがこの国以外のマイラ カルトゥールに対する評価よ」


 え……?

 ローズは目を見開いた。


「でも……。世界中の人々が忌み嫌い恐れた悪女、…なのでしょう? 世界中が彼女を追い詰め、悪女として殺したのではないのですか?」


 …そうだ。誰も助けてはくれなかった。仲間だと思っていた魔法使い達でさえも私を裏切り、罵り攻撃してきた。

 私はその時唯一残された弟をその直前に命を助けたダルトン子爵に預けた。その細い繋がりの者しか信じられないくらい、当時の私の周りは切迫していた。

 そして自分やカルトゥール家の貴重な魔法の研究資料などを周りに渡さない為に、屋敷の地下室に纏めて自分以外に絶対に開けられないように厳重に封印をした。そうして結構な力を使い疲れ切った所を……殺されたのだ。


 顔色を変えたローズにシェリーは慌てて言った。


「私もこの王国の学園ではそう教えられたわ。でも、私は教会で生まれ育ったから、それは王国の嘘だと知っていた。私は司祭の娘として幼い頃から国外に出る機会も多かったから余計に分かるのだけれど、この王国以外ではむしろ魔女マイラを信仰する人々も居るくらいよ。その位にあの戦争で彼女は人々を救って来たの。世界は、自分達を正当化する為に魔女マイラに罪を着せ今も尚『悪女』としている、このアールスコート王国を許してはいないわ」


 魔女マイラが救った人々……。この王国以外の国々は、魔女マイラを『悪女』だとは思っていない……?


「だから今も魔法使いはこの王国に寄り付かないし、多くの国々はこの国と国交を結んでいない。まあ経済のみの国交や不可侵条約くらいね。

そして魔女マイラを良く言わないのはこの王国だけよ。私もマイラは戦争終結の立役者だと思っているわ。貴女は……、ダルトン子爵家は『魔女マイラ』の一族だという事に誇りを持っていいの。…いえむしろ持つべきよ。

まあ、今この国では大きな声でそれは言えない状況だけれども、分かる者には分かるものよ。……ローズ?」


 ローズは、知らず涙を流していた。


 人々は、私を『悪女』と思っていない……? 

 シェリーの言葉を全部信じていいのか分からない。魔女マイラの一族だと言った事で気を使って言ってくれている部分もあるのかもしれないけれど……。でも少なくとも、あの戦争の時に助けた人々は私の事を信用し、戦争終結の立役者だと思ってくれている……?


 ローズはマイラとして覚醒してからずっと心の奥底にあった、大きなわだかまりが少し溶けていくのを感じた。


「ローズ? 大丈夫? …そうよね、この王国ではマイラを悪者とする伝承などでいっぱいだものね……。ずっと、言えずに悩んでいたのね? 今この国にいる以上は秘密にした方がいいでしょうけれど、マイラの事は誇りに思っていいのだからね? 勿論私は誰にも、大司教であるお父様にも言わないわ」



「…ありがとう、シェリー。貴女に話して良かった……」


 そう言って、ローズは涙を溜めた目でシェリーに笑いかけるのだった。



お読みいただきありがとうございます。


ローズはとうとうシェリーに『マイラの一族』だという事を明かしました。

シェリーから外国から見たマイラの話を聞き、心からホッとしたローズです。

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