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11 魔女の後ろ姿


 レオンハルト王子と騎士団長サイラスは今日は魔女の屋敷跡の探索を諦め、敷地から出て王宮に向かった。が、途中でレオンハルトは胸のボタンがない事に気付いた。放っておいてもいい気もしたが、そのボタンには王家の紋章が付いている。何者かに悪用されても困る。サイラスは自分が行くと言ったがすぐそこだからと結局は2人で戻る事になった。


 すると屋敷跡の近くまで戻ると、スッと何者かが屋敷跡に入って行く影が見えた。


「誰か人が、屋敷跡の敷地に入った……!」


「えっ!? 私は分かりませんでしたが……」


 戸惑うサイラスを置いてレオンハルトは急ぎ敷地内に入って行く。足元が悪いが、何とか先程の屋敷跡付近まで来た。


 そこに佇む1人の少女の後ろ姿。

 その姿は白くぼんやりと浮かび上がるように見えた。そして風に揺れる美しいブロンドの髪。  


 レオンハルトはまるで時が止まったかのように、その姿に目を奪われた。それは何故か彼の記憶に焼き付く光景だった。

 そして彼女はゆっくりこちらを振り向き――。

 …消えた。


「ッ!?」


 レオンハルトは夢から覚めたかのような気持ちだった。

 あの少女は? 一体、どこに? 見ると彼女がいたはずの場所にレオンハルトのボタンが落ちていた。

 ボタンを拾い、周りを見回すレオンハルトの元に、サイラスが追いついた。


「殿下、いかがなさいましたか!?」


「今ここに……。少女がいたのだ。美しいブロンドの髪の……」


 レオンハルトが夢に浮かされるように呟いたその言葉にサイラスは驚く。


「ッ! ブロンドの髪の女性……!? …魔女マイラだ……! ここにはやはり、魔女マイラの亡霊が出るのだ!」


 サイラスはそう叫んで、レオンハルトを慌ててこの場から連れ出そうとした。


「…魔女マイラ……? 馬鹿な。アレは亡霊などではない。……ッ! そうか、アレは……!」


 レオンハルトは何かに気付き走ってこの屋敷跡を出て行き、サイラスはそれを慌てて追うのだった。




 

「――これで、暫くは王国の者達に探られずに済むかしら……?」


 林の陰に隠れていたローズは静かに彼らを見送った。ローズは意図せずとも簡単な魔力の『鑑定』が出来る。あの、先に来た青年はなかなかの魔力の持ち主だった。あの人が王国側の若手の魔法使いで、そして今回の『魔法の痕跡』を見つけて調査もしているのだろう。

 でも今、魔女マイラの亡霊らしく見せた事で、きっとあの魔法の波動もその亡霊の仕業と思うことでしょう。後から来た青年を少し魔法で足止めして、先に来た青年にしかローズの姿は見られていないし、完璧だわ!


 ローズは満足して、今日の夕食の買い出しに向かった。





「――これはこれは、レオンハルト殿下にはご機嫌麗しく……。…しかし、本日お見えになるご予定だったとは、とんと把握しておりませんでした」


 この国の大教会の大司教ハミルトン。大司教らしく鷹揚で優しげな風であるけれど、その実は食えない男だ。


「私は信心深いのです。いつでも貴方の教えを請うべくここに来てしまうのですよ。…して、『聖女』様はお元気でいらっしゃいますか?」


 レオンハルトは言葉だけは大司教を敬うようであるが、用がなければこんな所に来はしない、と分かる態度だった。そして、ほぼ単刀直入に用件を持ち出した。


「…勿論でございます。『聖女』様におかれましては、神にお与えいただいたお役目である『民の為のポーション』作成に心血を注がれ、そして日々祈りを捧げ毎日忙しいながらも健やかにお過ごしでいらっしゃいます」


 大司教も、聖女を王国側に関わらせるつもりは全くない、という事を念押ししていた。


「…毎日、さぞお忙しいのでありましょうね。先週はそれは大きな魔法をお使いのようでしたし」


 レオンハルトがそう言うと、一瞬大司教は表情を固まらせた。それはほんの一瞬で、普通の者には分からなかったかもしれないが、相手を良く観察していたレオンハルトは気付いた。


「…はて。何の事でしょうか? 聖女様は日々鍛錬されながら過ごしておられます。次は『民の為』、更に効き目の良い『中級ポーション』、いずれは『上級ポーション』などに手を付けられるやもしれませんな」


 今度はこちらが一瞬目をすがめる。大司教はこちらの手の内、上級ポーションの作り手が身罷ったことを知っているのだ。大臣クラスまでの秘匿情報としているのにも関わらず。


「それは、素晴らしいことですね。…しかし、聖女様はお若いのに大したものですね」


「……! …何でございましょうか……」


「そう、お若い。本来は学園に通う位の年齢なのでは? 教会では、幼い少女を学園にも通わさず教会に捕らえてポーション造りをさせているのでは? あの年頃の少女を学園に通わせない理由を教えていただきたい」


「……。…何故、聖女様がそのような年齢だと思われたのですか」


「否定なさるのですか? 聖女様はそんな学園に通うような年齢の少女ではない、と。まさか、教会が聖女様の学ぶ権利を害しているなどと、そのようなことは仰らないでしょう?」


 ――あの、魔女マイラの屋敷跡で見た少女。アレは、教会のいう『聖女』だ。あの少女は、これだけ魔法使いのいないこの国でレオンハルトの目の前で転移するなどと、そんなことが出来る者が他にいるとそうこちらが考えると思うところはまだ幼い所だな。おそらくは『マイラの亡霊』と思わせたかったのだろうが。


 今までに無かった大きな魔法に関わる事が起こり、そこに新たに『聖女』がいたとなれば、それはその『聖女』か起こした事と思うのが1番自然だ。それでなくとも、彼女は『転移』魔法が使えることは確実だ。


 案の定、大司教は答えに詰まっているようだった。


「『聖女』様を、学園に通わせて差し上げてください。あの年齢の少女はたくさん学び、学生同士の関わりを持つべきだ。このように、()()()()()()()()()は、可哀想でならない。自由であるべきだ。……そうは思いませんか? 大司教」


「…それは……!」


 そんな要求がされるとは思っていなかったのか、大司教は答えに窮しているようだ。学園に通うような年齢ではない、と嘘をつくべきか迷ってしまったのだろう。もしくは将来的に『聖女』を発表する事になった時、嘘とバレてはと考えたのか。

 そして、教会が学ぶ自由を奪っているとの糾弾は痛いところでもあったということ。普段は散々、王国が魔法使いの自由を奪っていると糾弾しているのだから。


「……。…勿論、聖女様は学園に通われます。御歳14歳であられる聖女様は来年度の高等部から編入されるご予定でした。…ただし、周囲の方々と同じでいたいとのご希望から、聖女と名乗らずにご入学される予定です」


 苦し紛れか本当に元からそのような予定があったのかは分からないが、大司教からの言質は取った。

 高等部からの編入など毎年せいぜい十数人程しかいない。その内女子のみとなれば数人だ。容易に絞り込めるだろう。今既に学園に通っていると言われるより随分人数を絞り込めることにレオンハルトはほくそ笑んだ。


「それならば良いのです。聖女様が素晴らしい学生生活を送れるよう私も心よりお祈りいたします」


 満足げに言うレオンハルトとは反対に、大司教は笑顔ながらその目には悔しさが滲み出ていた。


「…それはありがとうございます。殿下の有難きお言葉を聖女様にもきっとお伝えしておきましょう」


 とりあえずこの勝負はこちらの勝ちだな、とレオンハルトは思った。




お読みいただき、ありがとうございます。


ちょっとやられ気味だった大司教様です。

上級ポーションの作り手がいなくなった話は、信心深い信徒達などから情報は入ってきます。

大臣クラスの秘匿情報なら大概掴んでいる大司教様でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近、読み始めました。 ローズさん、貧乏で学校に行けなかったんですよね? 貧しくて学校に通えない者達のことを考えない王家に、そのようなことを言う資格はないと思うのですが・・・ それと、正直に…
2022/09/30 12:39 退会済み
管理
[気になる点] 大司教は"聖女を聖国に戻して学園に通わせる。レオンハルトがこの国には要らないと言った"と教皇に告げると大法螺は吹けば良かったのに〜!ಠ︵ಠ レオンハルトにしてられて悔しいです。
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