104 それからの学園生活
クラスの皆と話をしていると授業開始の鐘がなり、教師が入って来た。
女子生徒達は何やら頬を染め、慌てて席に戻る。
「今日の『人とエルフ族の歴史』を始める」
そう言って教壇に立ち授業を始めたのは、エルフ族の長クリストバルである。
人にはあり得ない美しさと溢れ出る知性。男女共に講師であるクリストバルに見惚れる。特に女子生徒達はクリストバルを溜息と共になんとも熱い視線で見つめた。
何故、エルフ族の長であるクリストバルがこの学園の講師をしているのか……?
それは……。
「……ローズ。今度の休みにエルフの地に遊びに来ないか。皆、君に会えるのを楽しみにしている」
授業が終わり廊下を歩くローズにエルフの長クリストバルが声を掛ける。
講師がそんな風に生徒に誘いの声を掛けるのは問題ではないのか? とも思えるが……。そもそもローズと少しでも共に居たいとの思いから、それを条件にこの講師の話を引き受けたクリストバルには全く躊躇がない。
勿論、クリストバルはローズに婚約者が出来た事は知っている。が、彼の200年拗らせた想いはそれを聞いただけではとてもではないが諦めきれなかった。せめてローズが学園にいる間は、未練がましいかもしれないが想いを伝え続けるつもりだ。
そんなクリストバルは学園で週に1日授業を受け持っていて、エルフの国から『転移』で通勤している。それが側近エミリオと話し合い、エルフ族の長が自由に出来るギリギリの日程だった。
「……クリストバル、先生。友人も一緒にお訪ねしてもいいでしょうか? それにいつか弟も先生から色々お話を伺いたいと申しておりまして……」
ローズもクリストバルの想いは知っている。が、大切な友人でもある彼とは距離を保っての関係を続けたいと思っている。しかしそれは失礼にはならないだろうか? と一度思い悩んで本人に尋ねてみた事がある。
クリストバル本人からは、勿論自分を避ける事なく友人として付き合って欲しい、と言われた。今の自分は200年分の想いの消化の為のもの。そしてもしかしたら君の心も変わるかもしれないからねと微笑まれた。
ミゲルやフェリシアからも、ローズは普段通りでいる方が良いのではないかと言われた為に、余り気負わずに普通にしているつもりなのだ。
……そして、学園にはもう1人臨時の講師が新たに来ている。それは……。
「……ローズ! 明日の魔法の講義の事だが……」
何故か生徒であるローズに講義の内容の相談をして来たこの男性講師。
くすんだ金髪に金に近い琥珀の瞳の20代後半のスラリとした精悍な男性。彼もつい最近学園に臨時の魔法の講師としてやって来た。
クリストバルとまた違う現実的なこの美形の容貌に、たくさんの女子生徒のファン、そして理想の男性像として一部の男性ファンも出来ていた。
そう、この男性は――
「コンラート先生。……それは、生徒の私に尋ねられるのはおかしいのではないですか?」
コンラート カルトゥール。200年前にマイラ達の血統を絶やし自分達がカルトゥール本家を継ごうとして失敗した一族の末裔。
彼ら一族は随分と力に固執していたが、コンラートは以前ローズと話をした後ある程度は納得して帰っていったのだ。……そのはずなのだが……。
「魔法の事ならローズに聞くのは当然だろう。この世界で1番の魔法使いなのだから。そもそも私がここに来たのはローズ……君と共にいたいが為。そしてあわよくば恋仲に発展しようと思っているのだからな」
そう言ってコンラートはニヤリと笑った。
ローズが「は?」と思って見ていると、コンラートが後ろから羽交締め……いや、捕縛状態にされる。
「ッ! ……誰だッ! 何をする!」
「……魔法の事を聞きたいならば、この私が答えてやろう。このエルフの長である私がな!」
……クリストバルが、コンラートの背後から現れる。彼は涼しい顔をしているが、コンラートは動けず必死でもがいていた。
「このッ! 性悪エルフがッ! 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られろというんだ!」
「……はッ! 恋路を邪魔しているのはどちらなのか。200年も前に分かれたカルトゥールと名乗るのも烏滸がましい一族が!」
2人は睨み合い、激しく威嚇し合っていたが……。
「……はい、そこまで!
2人で勝手に話を進めて更に意味のない争いをしないでください! 私には既にレオンハルト様という……素敵な婚約者がいるのですからね!」
後半、レオンハルトの名を出してから急に赤くなって照れながら言うローズを見て、2人は脱力した。
2人の男が1人の女性を巡って争っているというのに、肝心のその女性が違う者に夢中とは……。いや、勿論初めから分かっている事だがこうもはっきりと言われると……。
2人が同じように脱力している様子を見て、ローズはふふと笑った。
「なんだかんだ言って、2人は凄く仲良くなられましたよね。同じ時期に学園の講師になられたり魔法が大好きだったり……。
あ、今度レオンハルト様主催で魔法研究会を開こうと話しているんですけど、参加なさいますか?」
ローズに『仲が良い』と称されて嫌そうな顔でお互いを見るクリストバルとコンラート。
しかしせっかくローズに誘われたのだからと2人してその『魔法研究会』とやらに参加し、結局はレオンハルトとローズの仲睦まじい様子に打ちのめされるというような事を繰り返した彼らは、否が応でも少しずつレオンハルトとローズの仲を認めざるを得なくなった。
そして傷を舐め合う訳ではないが、クリストバルとコンラートは友人としてお互いを認め合うようになったのだった。
そしてローズはあの魔物騒ぎの後も週に一度シェリーのいる商業ギルドにポーションを届けに行っている。姉のように慕うシェリーとお互いの今週の出来事を話すのが楽しみの一つ。
そうして更に週2日は教会でもポーションを作り、シェリーの父である大司教と『聖女』の活動の相談などをしている。
時に『転移』でセレス聖国の教皇に挨拶に行ったり、リンタール帝国のフェリシアの公爵家に遊びに行ったりエルフの国や龍達に会いに行ったりと、3年間ローズは学生生活と合わせて充実した日々を過ごす事が出来ていた。
レオンハルトも国王代行として少しずつ国を安定させていった。
エルフ族の協力と魔物達との関係、そして龍達の攻撃をも跳ね除けた『聖女』がいる事で、国内にも反対勢力もそれ程無く諸外国からの手出しもなかった事は非常に有り難い事だった。
――そうして忙しく過ごしながらもレオンハルトとローズは、ダルトン子爵家が『カルトゥール公爵』叙爵をしてからの2人の今後の話を進めていったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
この間ダルトン子爵と弟リアムは、必死で貴族教育を受けています。
学園では『聖女』に気を使い、その弟とハッキリと言わないまでも将来の『公爵』という立場に態度を変えてくる人達もいて、リアムはそれを冷静に見極めつつ過ごしています。




