103 ダルトン子爵家とフェル
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『……本当に良かったのかの?』
妖精族の話を断った後、一緒にダルトン子爵邸に帰ったローズにフェルが尋ねた。
「? フェル、何が?」
『妖精族の話じゃよ。せっかく2人で仲間に入れるという破格の誘いであったというのに……。それにかの者は国王となる気も無さそうじゃったが、ローズはそれで良かったのか?』
魔物の長であるフェンリルから見ても魅力的な誘い。
しかも、この王国に残ってもレオンハルトは国王になるつもりはない。ローズはただの貴族のまま。
そうフェルが言うと、ローズは少しキョトンとした顔をしてから、笑って言った。
「ふふ。フェルったら。本来妖精族に戻るべきはレオンハルト様だけ。私は妖精になりたい訳ではなく、ただレオンハルト様と共にいたいだけなの。レオンハルト様にはお辛いご決断をさせてしまってとても申し訳ないとは思っているのだけれど……」
『いや、それは本人がそうしたいと言っているのじゃから、それで良いはと思うがの』
「それなら良いのだけれど……。ああ、それにレオンハルト様がこの国の国王を目指されていないのは、私にはとても有り難かったの。私は魔法の研究をしていきたいから、王妃様には向かないわ」
笑顔であっさり答えたローズ。
……この娘には野心という物はないのじゃろうな……。
フェルが少し呆れつつローズを見ていると、バタバタと足音がして慌てた様子で父ダルトン子爵と弟リアムが現れた。
「ローズ!」「姉様!」
2人は同時に叫び、ローズの無事を確かめた。
……そしてローズは2人に今日の騒ぎの顛末を話した。
ローズが初代であった話や、レオンハルトとサイラス前世の事は2人の許可をとっていない事もあり話さなかったが。
「そうか……。大いなる悪意を持った龍がやってきたと聞いた時はどうなる事かと思ったよ。ローズが……皆が無事で本当に良かった」
「本当に一時はどうなるかと思ったけど、流石はお姉様だね! 僕もいつかはそんな魔法を使えるようになるのかなぁ?」
2人はローズの話を聞いて安心したように言ったが、フェルはポソリと言った。
『ローズは初代カルトゥールの生まれ変わりでもあったのじゃ。残念じゃろうがお前たちはローズと同じことが出来るとは思わない方がよいぞ?』
目標は高い方が良いかもしれないが、おそらく無理であろう目標に後でガッカリさせるのも躊躇われてのフェルの発言だった。
「ッ! カルトゥールの、初代!? 」
「えっ!? そうなの? 姉様!」
父とリアムが目を剥いてローズを見た。ローズは少し逡巡してから答えた。
「……ええ、そうなの。思い出したのはつい最近なのだけれど……」
ローズは少し気まずそうにそう答えた。
「えっと……。初代って確か、魔法の研究にのめり込んでいたのを妖精族の方が気に入り力を与えられた……って言ってたよね。魔法にのめり込むって、今の姉様そのままじゃない。あ、この前妖精族に会った事があるって言ってたのは、まさかその時……?」
リアムはあの話の時、微妙な反応をしたローズの事が気になっていたのだ。
「……そう。あの時くらいから少しずつ初代であった時のことを思い出してきていたの。だから、あの龍の攻撃も跳ね返す強力な『防御魔法』を使えたのよ。あれは妖精族のお方に直々に教えていただいたとっておきのものだったから」
ローズの言葉に驚いたダルトン子爵は、大きく息を吐いた。
「そう、だったのか……。ローズが魔女マイラで我らの祖先であった事は分かっていたつもりだったが、まさか初代とは……。子孫がこのように不甲斐ない者で申し訳ない……。そして娘に何もしてやれず……」
そう言って涙ぐむ父に、ローズは慌てて父に駆け寄る。
「お父様。……私が今こうしていられるのは、お父様のお陰です。貧しくとも家族で力を合わせて暮らして私は幸せでした。子爵家が没落し私達は確かに苦労はしましたが、その分、いえそれ以上に家族が協力し合い思い合うという何よりの幸せに恵まれました。お金や権力があれば幸せというものではないのですもの」
父の目を真っ直ぐに見る娘。妻と結婚し産まれたその日からのたくさんの事を思い出す。……そうだ。妻がいてローズがいてリアムもいて、私達はいつも一緒だった。仕事が上手くいかなくとも、領地を手放さなくてはならなくなっても、……妻が亡くなった時も。
私達は力を合わせて生きてきたではないか。
「父様がどんな時でも家族を……僕達を最優先で考えてくれていた事を僕達は分かってる。他所と比べても仕方ないけど、僕んちの父様はなかなか話の分かる良い父親だと思うよ!」
リアムも少し茶化ながらもそう言った。ダルトン子爵は少し力が抜けたように笑った。
「そうだな。……また、少し気弱になってしまった。
ローズ。初代でも魔女マイラでも、お前は私の大切な……大切な娘だ」
その時「えー、姉様だけ?」と口を尖らせたリアムにもダルトン子爵は笑いながら言った。
「お前たち2人は、私の自慢の子供だよ。……こんな可愛い子供を持って、私は世界一の幸せ者だ。……きっと、母様もそう思っているよ」
父と娘と息子は、心から笑い合った。
『……むう。良いものだのう。ワシもたまには仲間の所に戻ってみるかの………』
そう言って、ふわふわのしっぽを振りつつフェルは少し気を利かせて親子3人水入らずにさせてやろうと出て行こうとすると、急にガシッと後ろからその白い小さな体ごと持ち上げられた。
「勿論!! フェルも大切な家族だからね!」
『ッ! ……そうかの……』
そう言ってニカッといい笑顔で笑うリアムの胸に抱き込まれたフェルは、戸惑いつつも悪い気はしなかった。
そしていつものように親子3人は、今日は誰がフェルと寝るのかを争いながらも和やかに過ごすのだった。
「まあ。それではレオンハルト様と婚約を?」
――アールスコート王立学園の1年Sクラスにて。
ローズはクラスの女子達に囲まれていた。とはいっても、クラスの女子達はローズの恋バナを聞きに集まっているのだ。
「……ええ。非公式に、ですけれど。私は子爵令嬢ですし……」
そうはにかみながら話すローズが本当はこのアールスコート王国の救国の『聖女』で、卒業後『カルトゥール公爵令嬢』となる事をこのクラス全員……いや、ほぼこの学園中の者は知っている。
ただローズが普通の学園生活を送りたいとの希望している為に、公然の秘密となっているのだ。
そして、このクラスの生徒だけがそれを知っているが隠してくれている、とまだどこか信じているローズを周りの皆は温かく見守っていた。
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