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101 カルトゥールの初代




 ローズはフェルのその質問を確かに予想していたようで、穏やかな表情で答えた。



「あのとっておきの結界の魔法は、確かに妖精族のお方に教えていただいたのですわ。……けれど、アレを教えていただいたのはマイラの時ではないの。

――あれはもっとずっと前。私がただの1人の人であった頃。その頃から私は魔法が好きで研究が好きで、生まれた家が魔法関係の仕事をしていたこともあって、それはもう幼い頃から朝から晩まで魔法の研究をしていたの。そしてあの頃は人と妖精族の距離も近かった。……かの方は一心不乱に研究する私に声をかけてくださったの。『これはどのような仕組みの魔法なのだ?』と言って。私達はすぐに魔法談義で盛り上がったわ」


 ふふと当時を思い出しながら話すローズに、皆は目を見張った。


「ローズ様。……それは、マイラの時以前の……? 妖精族と人とが関わっていた時代など、500年前でもない。もっと、遥か昔……」


 サイラスはそう言って、言葉を詰まらせた。


「妖精族と距離が近かった時代……? そんなの、伝説の世界じゃないですか……! え。もしかしてマイラってものすごく長生きだったのですか……?」


 パウロは混乱し、マイラが本当は魔女で千年位生きていたのかと思ってしまった。

 それを感じ取ったフェルが呆れたように鼻で笑う。


『何を言っておるのじゃ、そんな訳がないじゃろう。

……人もエルフ族も妖精族も互いに関わっていた時代。それはワシもじいさんから聞いた事はある。……確か人と恋に落ちた1人の妖精族の青年がその少女に魔法を教え、他の妖精達や神の怒りを買い妖精でなくなった。その者とその少女が一緒になりおこしたのが『カルトゥール』である、と……。まさか……、ローズお前は……?』


 フェルがローズを見上げながら信じられないという顔で尋ねた。

 ローズはスッと真面目な顔をして答えた。


「……そうです。私がかの方に魔法を教わり、そしてかの方を妖精のお立場から落としてしまった『カルトゥール』の初代。私は……私こそが罪深き者なのです」


 レオンハルトはすぐにそれを否定した。


「ローズ。それは違う。私は貴女と出逢いそして貴女と一緒に居ずにはいられなかった。あれは私が自ら選んだ道。立場を考えずにというのなら、それは私が至らなかったせいなのだ。私にはあの立場は重すぎたのかもしれない。……そして私はあれから貴女と共にいる事を選んだ事を一度も後悔などしていない。むしろ、神に感謝している」


 ローズとレオンハルトの話を聞き、サイラスとパウロ、そしてフェルは驚愕した。



「……ッ! まさか……まさか、レオンハルト様、貴方様は……!?」

 


「ちょっ……! ちょっとお待ちくださいっ!! え。それじゃあ、その『妖精族の青年』というのは……」


 

『な……、なんと……! じいさんの話は誠であったのか……! そして本当に妖精族が人として生まれ変わり続けていたのか、人の子と恋に落ちたがために……』



 2人と1匹は今まで生きてきて1番の驚きだ、と思った。

 

 2人にとってはつい最近まで妖精族は存在すら本当か分からない位であったのだから余計だ。



『…………ふぅ、なるほどの。……ローズ、お主の力がカルトゥールでも飛び抜けておる理由も分かったわ。リアムなどは完全に封印を解けばお前程の力の持ち主になれると思っておる節があるから、教えてやっておいた方が良いぞ? 『毎日転移で学園に通おうかな』などと申しておったからのう』


 混乱する人間2人と違ってフェルは何度か妖精族と会ったこともある為、レオンハルトを気にしながらも冷静な判断が出来ているようだった。……というより、『妖精族から落とされた存在』という者に対する扱いを分かりかねている、というのもある。それで敢えてローズの話をしレオンハルトから話を逸らしたのだ。



 偉大なる妖精族。元々その一族であったレオンハルト。今ここにいるレオンハルトに心酔する2人は、そのレオンハルトを人に落とした彼らのその判断をこのままでは批判してしまいかねない。


 今まで魔物の中にも愚か者が妖精族の事を悪様に言ったが為に、彼らの怒りを買い種族ごと罰を受けた者達もいた事を知っているからだ。



 フェルがチラリとサイラスとパウロを見てからレオンハルトを見ると、言いたい事が分かったのかレオンハルトは頷いた。



「私は確かに妖精族だった。しかし人に魔法を教える事は妖精族として本来は『禁忌』。私は然るべき罰を受けたという事だ。

それに私は人となり彼女と共に『カルトゥール初代』となったのだ。とても幸せな人生であった。……それから人の輪廻に加わりながらも必ず彼女と会う事が出来た。これを神の祝福と言わずしてなんと言う?」


 そう言って穏やかに微笑むレオンハルトを見て、サイラスは彼の真意を感じ取った。


「レオンハルト様……! ……そうで、ございましたか……。

レオンハルト様。私は貴方様と一緒に生きる機会をくださった神に、心より感謝をいたします。前世で罪を犯した私に、このような行幸をいただけるとは……。これからも貴方様にお仕えする事をお許しください」


「レオンハルト様……。本当にそうですね……! 今レオンハルト様と共にいられるのはそのお陰。神とそして……、レオンハルト様とローズ様が恋をされたお陰なのですから2人の出逢いにも感謝しなくては!」



 パウロはサイラスの言葉を聞き同じように神への感謝を、そして2人の祝福をする。

 ……ローズがレオンハルトを妖精から人に落とした罪の意識に苛まれている様子を見て、なんとか元気づけたいと思ったのだ。




『――神への感謝は尤もであるが、その娘への感謝はいかがなものかと思うがな』


 ……そこに聞こえて来たのは、頭に直接響くかのような鈴のような音。言っている内容は良いものではないのに、その余りに美しい声音にサイラスとパウロは暫く内容を理解出来なかった。



「――お久しぶりでございます。兄上」


 レオンハルトが挨拶する声を聞き、やっと言葉を噛み砕き理解する事が出来た2人はハッと後ろを見た。


 ――そこには、光り輝く美しい存在。


 女性か男性かも分からない程の美しさであったが、レオンハルトが『兄上』と言うのだから男性なのだろう。――あにうえ……兄上!?



 2人はばっとレオンハルトを見る。その形相にレオンハルトは何を言いたいのか分かり、苦笑しつつ答える。


「彼は妖精族の王。……そして、過去私の兄であったお方だ」


「「『ッ!!』」」


 これにはフェルも驚き固まった。密かに過去兄弟であったという2人を見比べる。……当然、今は似ているはずもないのだが。


「……妖精王様。お久しぶりでございます」


 ローズが美しいカーテシーをしたが……。


『……ふん。人間如きが妖精の王たる私に人の礼儀の挨拶をするなど。だいたい私は今もお前を許してはおらん。今日は私の愛しい弟が私を思い出してくれたので、久々に顔を見に来ただけじゃ』


 またしてもその鈴のような美しい声で辛辣な事を言う妖精王。ローズは少し困ったような顔をし、レオンハルトはすぐに「――兄上」と厳しい口調で兄を諌める。妖精王は見るからにショボンとした。



「……妖精族でも、嫁姑のような関係はあるのですね……」


 思わず呟いてしまった正直者のパウロはハッと周りの雰囲気に気付き口を閉ざす。



『人の子の醜い争いと一緒にするでない。……私はこの者のせいで可愛い弟を失ったのだ。そして今も再び人として生まれてしまった哀れな弟を見て心を痛めておるのだぞ』



 この人間如きが、と怒りを露わにした妖精王だったが、愛しい弟の大切な友と分かっているだけに何も出来なかった。



「兄上。何度も申しておりますが、私は今の生を悔やんでも恨んでもおりません。……ただ、彼女と共に生まれ変わり出逢う事が出来る事に感謝するのみ。神は、私の願いを叶えてくださったのです」


 レオンハルトは今の自分の気持ちを素直に兄に伝えた。途端に妖精王は少し哀しげな顔をした。



『……この兄と、離れ離れになったというのに悔いはないと申すのか』



「……兄上。人には時として大切なものを一つしか選べない、そういう場面になる事があると思うのです。この事がまさしくそうです。勿論兄上は私の尊敬申し上げる唯一無二の大切なお方。……しかし、彼女はまた次元が違うのです。彼女は私の魂。私のもう一つの心臓なのです。離れる事は決して出来ないのです」


 レオンハルトはだから仕方がないのだと。敬愛する兄と愛するローズとは比べる事が出来ない程それぞれに大切な存在。だがどちらか一つを選べと言われれば、魂の半身を離す訳にはいかないのだと、そう兄に宣言した。



「レオンハルト様……」


 ローズはそう呟き、レオンハルトをただじっと見つめた。



 妖精王はそんな弟を暫く哀しげに見た後一つ息を吐いた。








お読みいただきありがとうございます。


そして誤字報告、とても感謝しております!

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