100 サイラスの罪と罰
「……サイラス。君の話を聞こう」
王宮のレオンハルトの執務室。
この部屋にレオンハルトとローズ、そしてパウロとサイラス、ローズの膝の上にフェルが陣取り話が始まった。
「……はい。私は世界でよく知られている『古代龍を倒した勇者』とされる者の生まれ変わりなのでございます。……1週間程前、あの元『勇者の魔石』を見せていただいた折に全てを思い出したのです」
サイラスは全てを語り出した。
前世のサイラスは最初から『勇者』とされていた訳ではなく、『古代龍の魔石』を持って帰ってからそう呼ばれるようになった。
あの時、ただの一冒険者であったサイラスは確かに周りよりも魔法も剣の腕も優れていて、色んな強き魔物達を狩ってきた。周囲はサイラスを煽て囃し立て、サイラスはいつしか自分は何よりも強いと思い違いをするようになっていた。……そして、周りの人間に勧められるままに仲間達と共に龍の巣に向かったのである。
結果、サイラス達は惨敗した。龍と人間ではレベルが違いすぎる。当然といえば当然の結果だった。
仲間達の何人かは命を落とし何人かは重傷を負いながらも逃げられたようだったが、サイラスは龍の巣の更に奥に迷い込んでしまった。
――すると、声がしたのだ。
ニンゲンよ。こちらへこい。私のいう事を聞くならば、無事にこの龍の巣から逃してやろう、と――
「……それから私は『古代龍』と出会いました。そして『自分は致命傷を受けていてもう長くはない。お前に討伐されたように見せかけたい』と言われたのです。……私は、龍の言う通りにいたしました。
本当は、魔石はそのまま置いておけと言われたにも関わらず、討伐の証拠になると欲が出た私はその魔石を持って『古代龍』より教えられた抜け穴から逃げ出しました。そして龍の巣を抜けた所でやっと魔力結界から出られたので『転移』で国へ帰ったのです」
サイラスは苦しげに語った。
「本当は『古代龍』に魔石は置いておけと言われていたのですね……。おそらく残された番である銀の龍の為にだったのでしょうね。……確かに、それが側にあれば銀の龍はあれ程苦しまずに済んだのかもしれません」
ローズはサイラスに非があるとすればその点だろうと思った。
「私は……許されない事をいたしました。この500年間、世界の歴史の暗部に必ずと言っていいほど登場していた『勇者の魔石』。私があの魔石を自分の名誉の為だけに持って帰ったが為に、銀の龍も、人の世も乱して狂わせてしまった……」
サイラスは更に俯きかすれる声で言った。
「……確かにあの『古代龍の魔石』には意志や念の様なものがあったように思う。それが人の世界にどれだけの影響力があったのかは分からないが……。しかし、それもまた人が自ら選び取り進んだ道。自らの欲で力ある『魔石』を欲して自滅したのならば、その者はおそらく魔石がなくとも別の何かで身を滅ぼしていたであろう。サイラスが気に病まなければならないとしたら、その銀の龍の心を500年の長きに渡り凍り付かせていた事なのだろうが……」
レオンハルトがそこまで言うと、ローズが言った。
「しかしそれも、銀の龍より『不問にする』と仰っていただいております。生まれ変わったのだから今度こそ正しく生きよと……。銀の龍はそう仰いましたわ。……サイラス様」
ローズの呼びかけにサイラスはハッとして前を見る。
「……これからサイラス様が心清らかに世の為人の為に尽くし、サイラス様らしく伸びやかに生きていかれれば良いのかと思います。私はサイラス様とはほんの少ししかお付き合いはございませんが、レオンハルト様がこんなにも慕われるお方なのですもの。今までのサイラス様でよろしいのではないでしょうか?」
ローズの真っ直ぐな瞳に見つめられ、そしてその言葉にサイラスは涙が滲んだ。
「サイラス。私もそう思うよ。今まで共に生きてきてお前の事はよく分かっているつもりだ。お前は生まれ変わり、そして龍の許しも得た。
それでも自分が許せないのなら、これから自分を誇れる人生を送れるよう努力をしていけば良いと思う」
「サイラス殿! 私もあなたと今まで一緒だったのですからサイラス殿の人となりはわかっているつもりです。あなたはこの国の為そして友であり主人でもあるレオンハルト様の為に尽くしてこられた。これからも、きっとそれで良いのだと思います。しかも前世の罪は龍により許されたのですから!」
レオンハルトとパウロにそう言われ、サイラスは泣いた。
皆はそんなサイラスを温かく見守った。
『……ま、我ら魔物としてはこの約200年がお前さんの持ち込んだ『魔石』のせいで苦しめられたとなれば、思うところがないわけではないがの』
その時フェルの発した言葉にサイラス始め4人はドキリとしてローズの膝の上のフェルを見た。
『……それでも、龍が許したものを我らが許さぬ訳にはいかぬ。……それに、今生きる者が前世の罪まで背負って生きるのも辛かろう。もし罰というならば、前世を思い出してしまった事がお前さんにとっては罰だったのやもしれぬな。
……まあ、前世を思い出してなんともない者もおるがの』
フェルはそう言って、チラリとローズとレオンハルトを見た。……2人は少し苦笑した。
「前世を、思い出したことが罰……。確かにそうかも知れません。私はこの事を、おそらく一生忘れる事はありません。そしてその度に苦しむのでしょう。しかし私はこれからその度に今どう生きる事が最善かを考えながら生きて参ります」
涙に濡れた目で、サイラスはそう皆に強い意志で宣言したのだった。
周りの3人は頷き、そしてフェルも『ふーん』と目を閉じた。
『……ところでの。ワシはローズに聞きたい事があるのじゃが……。家に帰ってからの方が良いかの?』
先程までの少し不機嫌そうな様子は何処へやら、くりくりの可愛い目でこちらを見上げてフェルがローズに聞いてきた。
ローズはクスリと笑い、フェルの白いふわふわの頭を撫でる、
「いいえ。構わないわ。多分聞きたい事は分かってる。……レオンハルト様もよろしいですか?」
手はフェルを撫でながら、ローズはレオンハルトを見る。
「……ああ。ここには本当に信頼出来る者しか居ない。そしてサイラスが全てを話してくれたのだから、こちらの事情も話しておくのも良いだろう」
レオンハルトは頷いた。そしてローズと微笑み合う。
『……では聞かせてもらうかの。先程銀の龍と話していた『大切なお方』の事じゃ。
今日ローズが王都にかけたあの強力な結界は、その『大切なお方』に教えてもらったと言っておったじゃろ? あれ程の魔法を教えられるのは世界広しといえど『妖精族』しかおらんじゃろ。勿論『エルフ族』も魔法力は凄いのじゃが、アレはそんなレベルではなかった。しかもローズも妖精族に会った事がある、と言っておったじゃろ? おそらくは前世マイラの時であろうが……。
魔法を教えるほどマイラを可愛がっていた妖精族は、マイラが非業の死を遂げた事で怒りあの200年前より世界から姿を消した、という事になるのかの?」
フェルの問いにパウロとサイラスは何と答えるのかとローズを見た。
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