99 龍たちとの約束
他の龍達が最初の銀の龍の側まで来た時、漸く銀の龍は口を開いた。
『……そうだ。間違いなく私の番。……ようやく、会えた。そして、全ての謎もとけたわ……。我が番は、人にやられたのではなく……』
銀の龍がそこまで言うと、後から来た龍達が言った。
『そうだ。……済まない、どうしてもお前には言えなかったのだ。お前の番はお前を庇って怪我をした時に、既に致命傷に近い傷を負っていた。死を覚悟したアイツは、人間の冒険者が近くにいる事に気付き、お前に薬草を取りに行かせている間に人に手をかけられて死んだように見せかけることを選んだのだ。お前が自分の死に責任を感じる事のないようにな』
『……ッ! ……そんな……』
ショックを受けた様子の銀の龍に、仲間の龍達は続けた。
『……私達は、アイツの気持ちが痛い程良く分かったから、ずっと真実を言えなかった。しかし、お前が500年以上経ってもアイツの死を乗り越えられない所を見て、私達もどうしたものかと迷っていた。……今回人間界での騒ぎにアイツの遺した『魔石』が関係していると聞いたので、妖精族の王にアイツの魔石をお前に返還してもらえるよう采配してもらえないかと相談していたところだったのだ』
そして全ての龍がローズの前にある魔石を見た。ローズは頷く。
「この国の責任者より、私はこの魔石の事を一任されました。……私もこの魔石はあなたにお返しすべきだと考えます」
そう言って、ローズは魔法でその魔石を銀の龍の前に運んだ。
――今。銀の龍の目の前に、愛しい番の遺した魔石がある。
500年前、自分を庇って致命傷を負っていたという番。自分を傷付けない為とはいえ、どうして何も言わずにこのような事になってしまったのか。
どうする事が正しかったのかは分からない。しかし、実際に自分は500年以上もの間嘆き恨み続けてきたのだ。決してコレが良い方法ではなかったと思ってしまう。
銀の龍はそっと前足をその魔石に触れる。ローズによって『魔物避け』や『封印』を解除されたその魔石は、やっと目的の場所に戻ったというように美しく優しく光り輝いた。
『……コレを、持って帰る。暫くコレと語り合いたい。人の子……ローズよ。話の最中であったが、また続きは後日としても良いか』
……もう自分に用などない、そう思っているかもしれんがな。
そう思いながら銀の龍はローズをチラリと見た。……彼女は満面の笑顔で頷いていた。
「……はい! その日を楽しみに待っておりますわ。そうだわ、これを……『癒しの光』」
銀の龍と魔石の周りに、一際優しい光が降り注ぐ。
銀の龍は自分の心が温かく、癒されていくのを感じた。
『ふ……。ありがとう、ローズよ。
そして、そこな『勇者』の生まれ変わりとやら。幾らお前が我が番の依頼であったとしても留めをさし遺された魔石を奪って行った事は誠に許し難い。
……しかしお前の周りを庇おうとする姿、しかと見届けた。そして、ローズと他の龍の思いも分かった。……今回コレで『古代龍』の事は不問とする。お前も生まれ変わったのだから、新しい人生を見つめ正しく生きていくが良い。
……ではな、ローズ。また会おう』
そう言って銀の龍は飛び立って行った。大切そうに、魔石を持ちながら。
ローズは銀の龍に手を振った。フェルも『またの』と尻尾を振った。
サイラスは、とっくに『捕縛』は解いてあったのだがそのままうずくまり泣いていた。
そして、後から来た龍達はゆっくりとローズに近付いた。
『此度はアイツの魔石を返してくれてありがとう。妖精族に相談したのだが『それは人の子と話し合うが良い』と突き放されてしまってな。私達が先程の銀の龍に真実を話さなかった事の結果であるのだから、自分達で始末をつけよと言われていたのだ』
ローズは龍達の話を聞き、頷いた。
「そうですね。今回の事は皆がお互いを思いやるが故に心がすれ違ってしまったのであって、誰が悪いとかではないのですもの。
そしてそれをお互い話し合って解決するように言われた妖精族のお言葉は間違いではないと思います」
ローズがしっかりと龍達を見て答えるのを見て、龍達は少し驚きつつ納得したかのように頷いた。
『私は……、おそらくは先程の銀の龍もそうだっただろうが、人の子と会話をするのは初めてだ。なるほど、お前のような者がいる事を分かっていたから妖精族も話し合うよう仰ったのであろう。我らもお前とじっくりと話をしたいが……』
王都では先程の銀の龍の攻撃の後、暫く何も起こらない事、そして新たな龍達が来た事で、様子を窺いつつ人々が集まって来ているようだった。
『……また、落ち着いた場所でゆるりと話そう。こちらが落ち着いたら我らの住む地に是非来てくれ。銀の龍も話したがっておったしな。お前なら『転移』ですぐに来られるであろう?』
龍達のお誘いにローズは笑顔で「是非に」と答えた。
龍達とローズはお互いに笑顔で挨拶を交わし、彼らは彼らの地へ帰って行った。
『……ふぅー……。いや、ワシでもかなりヒヤヒヤしたぞ。ローズ、お前は肝が座っておるのう』
龍達が飛び去っていく姿を見ながら、フェルはいつの間にか子犬姿になってまたプルプルと身震いした。ローズはそんなフェルに笑いかけそっと抱き上げる。
「フェルが横で居てくれたからよ。……ありがとう。心強かったわ」
そう言ってフェルを腕に抱きながら頭やほっぺを優しく撫でる。フェルは気持ち良さそうに『キュ』と鳴いた。
「ッ!! ローズ!!」
声のする方を見ると、レオンハルトが城壁の上に慌てて登って来ていた。レオンハルトは城壁の向こうの攻撃された跡と、遥か向こうに飛んでいく龍の群れ、そして門の前にうずくまるサイラスを見て息を呑む。
「ローズ。大丈夫だったかい!? そしてコレはいったい……。何がどうなったのか……」
城壁の向こうは結界で跳ね返された魔法の傷跡が色濃く残っていた。その抉られ焦げた土地を見てどれだけ凄まじい攻撃だったのかと息を呑む。ローズの強力な結界がなければ間違いなく王都ごと吹っ飛ばされていたであろう。
しかしローズはそんな事があったとも思えない様子でにこやかに答えた。
「レオンハルト様! 大丈夫でしたわ。ありがとうございます。
そして大いなる銀の龍は、『古代龍』の魔石を持ち帰られました。……大切な番の魔石を取りに来られたのです。それだけですわ」
ローズは穏やかな笑顔だった。
フェルは『いや、それだけではないじゃろう……』となんともいえない表情をしたが。
そこに、立ち上がったサイラスがやって来てレオンハルトの前にひざまつく。
「……レオンハルト様! ……全て、お話しいたします。どうしてこのような事になったのか。そしておそらくこの国の歴史の闇も色んな事柄もが、全てそこから始まったのだということを」
サイラスは怪我こそしてはいなかったが、その表情からは悲壮な覚悟が見てとれた。
「サイラス……! 数日前から急に休みを取っていると聞いていた。心配していたのだ。……とにかくいったん落ち着いて話を聞こう。ローズ。とりあえずこの場は大丈夫だと思って良いか?」
「はい。全ての憂いは取れたと思います。……そして、サイラス様のご懸念もとれていると思うのですが……」
ローズはそう言って、まだ思い詰めた顔をするサイラスを心配そうに見つめた。
「いえ……。今回の事はローズ様が取り成してくださったのでたまたま上手くいっただけの事でございます。本当ならば、この国は火の海になっておりました……。
……これは、私のせいなのです」
そう言って更に青い顔をするサイラスをレオンハルトとローズは見てその後顔を見合わす。
そして、この門の責任者に門の向こうの後始末を頼み王都の強力な結界も解いた後、有無を言わさずサイラスを連れて3人と1匹は王宮に転移した。
お読みいただきありがとうございます。
レオンハルトは王宮での皆への指示を出した後、急いでローズの元へ向かいました。




