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10 知る者と追う者


 魔女マイラの地下室を『転移』させてから1週間後――。


 ローズは商業ギルドにいつものようにポーションの納入に行き、待ち構えていたシェリーに呼び止められ別室で話をしていた。


「……そうなんですね。いったい、何が起こったというのでしょう?」


 ローズがそう言うと、シェリーは少し苦い顔をした。


「そう……。本当に貴女は何も気付かなかったのね?」


「はい。私はここを出た後は夕食の買い出しに行っていましたし……」


 ローズの様子を窺いながらシェリーは言ったが、彼女は全く動じなかった。それどころか、戸惑うそぶりも見せている。


 先週起こった、大きな魔法の波動。それは勿論シェリーも気付いたし、教会やギルドでも上層部では結構な騒ぎとなった。そしてシェリーはこの事にローズが関係しているのではないか、と漠然と感じた。おそらく大司教である父もそう思っている事だろう。


 シェリーは内心溜め息をついた。『先週の帰りに何か変わった事はなかったか』という質問に対して、ローズは『何も知らない』と言い切った。コレは、これ以上話をしてもムダね。


「…分かったわ。何か変わった事や気付いた事があればなんでも話して頂戴。それからこれからは私のことは『シェリー』と呼んで? そして敬語もやめて欲しいわ。…私は、ローズの味方だからね」


 ローズは少しキョトンとした顔をしてから、下を向き頬を赤らめながら、


「ありがとうご……、ありがとう。…シェリー」


 そう言った。シェリーはその様子を非常に微笑ましく見ていた。


 …おそらく、あの日の魔法の波動に彼女は関係している。ローズがギルドを出て少し時間をおいてから起こった『波動』。何か、大きな魔法が使われた痕跡。攻撃魔法ではなく、何か複雑な魔法を発動させたと思われる。…コレは、攻撃魔法よりも難しく高度な魔法だ。現在このアールスコート王国にいる魔法使いではあり得ない。


 では、目の前の少女ならあり得るのか? しかしシェリーは確証はないものの、あの『波動』に見知った何かを感じたのだ。ローズは今のところ『低級ポーション』しかその魔法力を見せていない。けれどその気になれば『中級ポーション』も、もしかしたら『高級ポーション』でさえ作れるのではないだろうか? 

 あれ程完璧な『低級ポーション』を作れるのだ。普通ならその上である『中級ポーション』を作ってみるだろう。それを作らないのは、それ以上の価値を出せば更に王国は彼女に執着するだろうし、教会内でも『聖女』を巡って不穏な動きが出ないとも限らない、と危惧しているからではないだろうか? そう思ったシェリーは敢えてそれ以上を彼女に要求する事は無かった。


 本当は自分のことだけは信頼して欲しいが、まだ自分達は出会って4ヶ月程でポーションを挟んだだけの関係だ。彼女の対応から分かるように、こちらが心からの声を掛ければはにかむような可愛い反応をする。いつかは彼女から彼女の秘密を話してくれるように、これから信頼を得ていかなければね、と思うシェリーなのだった。



 そして、ローズは。


(危なかったわ! 本当にシェリーさんったら、なんて鋭いのかしら! というか、あの『波動』は中級以上の魔力の持ち主には気付かれていた、ということなのよね……。そして私を知る人には、私じゃないかと思われる、ということ……)


 チラリとシェリーを見た。彼女は優しい目でローズを見ていた。


(シェリーさんにもいずれはお話ししなければならないかもしれないわ。とても良くしてくださるもの……)


 そしてローズは今日の帰りにでもマイラの屋敷跡を確認しに行くつもりだった。本当はあの後すぐに行きたかったのだけれど、この調子ではマイラ邸に誰か調査に来ているかもしれないと思って我慢したのだ。

 あの魔法は発動させた屋敷跡の方が痕跡として残りやすかったと思う。でもあれから1週間も経ったのだから、もうそろそろいいだろう。


(まあ肝心の地下室はもうこちら側にあるからいいんだけどね……)


 そう思いながらも屋敷跡が気になるローズなのだった。




~~~~~


 


「…また、調査ですか? 殿下」


 レオンハルトの護衛より泣きつかれ、騎士団長のサイラスが彼を追ってやってきた。


「サイラスか……。やはり現地に来ないことには見えてこないことがある」


 そう言ってレオンハルトは屋敷があった辺りを隈無く調べていく。


「そうは言いましても、あの当日も次の日も調査は十分にされたでしょう! そして、ここにほど近い所に住む大臣の家の者が来た時には、魔法の痕跡などは無かったと言っていたではありませんか。あの時の魔法の波動は大臣クラス以上の魔力を持つ者なら感じたのでしょうが、その場所がここかどうかはなんともいえないのです! そして殿下御自ら調査することではありません!」


 そうレオンハルトを説得しようとするサイラスだったが、レオンハルトは確信を持っていた。


「…場所は、ここだ。おそらく魔法を使った本人が魔法の痕跡までをも消したのであろう。…恐るべき力だ。

そして、魔女の屋敷の地下室が無くなっている」


 …200年前、魔女を捕らえよとの命令を無視して暴走したやからが魔女を屋敷ごと燃やし、その後発見された地下室。中からは高い魔力が感じられ相当な宝物が入っていると思われた。

 しかしどれだけ当時の高位の魔法使いが開けようとしても兵達が力任せに壊そうとしても、決して開かなかったという地下室。仕方がないのでそのまま土をかけて隠し、今まで王国がこの土地を管理していた。

 それをこの度敢えて土地を開き、再び地下室を開けるべく本格的に調査を行おうとしていたのだが……。

 これはアールスコート王国の騎士団長や大臣以上の者達だけが知る秘匿情報である。


「魔女の屋敷の地下室が、無くなっているのですか……!?」


 驚くサイラスにレオンハルトは続けた。


「そうだ。無くなっている。一月前にはここにある事を私は確認している。…地下室だそ? 運べるはずがない。そして無くなっても、その空間が空く訳でもない。…コレは、土地ごと別の土地と交換するように転移させた、と思われる」


「………は? 土地ごと……『転移』、ですか? …いえ、お待ちください。外国の高位の魔法使いで『転移』の術が使える者がいる、とは聞いた事があります。しかしそれは、通常は自分1人。過去にもう1人一緒に転移させる事が出来た者がいる、と書物で読んだ事がありますが……。部屋ごと、なんてあり得ません! そんなものは、まるで『稀代の魔法使い』と呼ばれた魔女マイラくらいでは……!」


 そう言って、サイラスはゾクリとする。

 そしてレオンハルトも静かにそう言い募るサイラスを見ていた。


「…マイラ程の、力を持った者。…それが、今この国にいるかもしれない。その者は、我が国の味方かそれとも敵か……」


 サイラスは言葉を失った。

 そうして、暫くはレオンハルトの気の済むまであちこちを調べたが、結局は何も見つけることは出来なかった。

 仕方ない、今日はここまでと2人は帰ることにした。



お読みいただき、ありがとうございます。


ローズは屋敷跡の地下室のあった場所の魔法での入れ替えの仕上がりが気になって、現地が見たかったのでした。

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