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98 龍と勇者



『お前は、いったい…………』


 笑顔で自己紹介してきた人の少女、ローズに龍は驚く。


 勿論、言葉は通じる。龍の知能は高い。そして千年近くも生きていれば世界中の人の子の言葉もほぼ理解している。


 ――しかし、言葉が通じることと話が出来ることはまた別の次元だと思う。現に言葉は理解しながらも、この龍は人と会話をしたことはこれが初めてであった。


 銀の龍は今までエルフ族とは話をしたことがあるが、人は龍を、魔物を恐れ会話などまず成り立たない。


 ……それなのに、この少女は――。


 龍は急にこの少女に興味が湧いた。……勿論、大切な番を人に殺されその遺された魔石を奪われた事は全く許してはいないが。



『我と、話がしたいと。そう申すのか。……そしてこれだけの結界を張れるとは、お前はいったい何者だ?』


 番を奪われてから、悶々と過ごした500年。あれから恨み言以外の会話など久しぶりな気がする。

 少し愉快な気持ちも湧いてきた龍はいったん怒りを収め少女に語りかけた。



「はい。是非にお話がしたいと、そう思っておりました。そしてこの『結界』が効いて良かったです。……ふふ。遠い昔、大切なお方に教えていただいたとっておきの魔法なのです」



 少女はそう朗らかに答えた。


『とっておきの、魔法とな……。これ程の魔法を教える事が出来るのは、妖精族くらいなのではないのか。……お前は人の子に見えるのだが……』


 『妖精族』。

 その言葉にローズの隣に居たフェルがギョッと驚く。


『ローズ。……以前お前は妖精族に会った事がある、と言っておったな。もしやその時に? いや、妖精族が人間にそのように『魔法』を教えるなど……』


「……私の大切なお方は、熱心に魔法の研究をする私にたくさんの事を教えてくださったのです。ですから私は……私達一族はかの方の信頼に応える為に、これらの魔法は争い事などには決して使わないと誓いました」



 ローズの言葉に龍とフェルは少し考えていた。そしてフェルは、ふと自分の姿が仮の姿であった事を思い出し、本来の姿、フェンリルに戻る。


 今度は人の子ローズの隣に龍以外での魔物の長ともいえるフェンリルが現れた事に銀の龍は驚いた。



『……ほう。フェンリルも一緒とは……。魔物の長であるフェンリルと人も本来は相容れぬ存在のはず……。フェンリルよ、これはいったいどういう事だ?』



『どういう事と言われても……。魔物と人の一触即発の事態の折にこのローズと会ったのじゃ。ワシはこのローズに惚れ込んでしもうての。

龍よ、お主の所に我らが眷属の馬鹿者共が訪ねていったであろう? アレらはこの地で平和に暮らしていこうとする我らを裏切り、争いの火種を植え付ける為に動いておるのじゃ。奴らに騙されてはいかんぞ!』


 フェンリルからの話を聞きながら初めはローズを興味深く見ていた龍だったが、最後の言葉に即座に反応する。


『……この地で、元々は人間共が争いを起こし我らが眷属である魔物を住めなくしたのは本当のことであろう? ……人間は無駄に無闇に争う醜い生き物だ! 自分の欲の為だけに魔物に手を出す! 魔物にも家族や愛する者がいるというのに……!』


 その龍の叫びに、ローズは気付く。……やはりこの龍の本当の想いは……。



 そしてローズが龍に言葉を発しようとした、その時だった。



「龍よ! 覚悟ッ!!」


 門の脇から飛び出した1人の人間が、龍に向かって飛び掛かった。



 ――それは一瞬の出来事だった。……が、当然龍は自分に防御を掛けており、そしてローズも素早く龍に『防御シールド』を、人間には『捕縛』を掛けた。



 その人間は、憐れにもそのまま門の前で動けない状態で倒れ込んだ。


「ッ!? ……サイラス騎士団長! 貴方どうして……!」



 ローズは当然、先程から彼が門の陰に身を潜め自分達の様子を窺っている事には気付いていた。しかし、先程サイラスに会った時にこの様子を見守ると言った事、そして彼から全く悪意や殺意といったモノを感じなかった為に放置していたのだ。


 実際、今もサイラスからは悪意は感じない。……いったい、どういう事なのか。



 ローズが龍を見ると、龍も怒りと困惑の入り混じった表情をしていた。おそらく龍もサイラスの存在に気付いていたのだ。そして悪意を感じない事から不審に思っている。



「ッ私は! ……私が……お前の仲間の龍を殺したのだ! 私は500年前の『龍を倒した勇者』の生まれ変わりだ! 

……あぁ、今度もその首を刎ねてやろうと思ったのに……。もうこうなっては仕方がない。さあ! 一思いに私を殺すがいい!!」



「!?」


 サイラスの叫んだその言葉に、龍もフェンリルもそしてローズも言葉を失った。


 サイラスが、『古代龍を倒した勇者』の、生まれ変わり?


 確かに、さっき会った時に急に魔力や身のこなしが変わったと感じたが……。

 いやそれより、この先程のやる気の無い殺害未遂はなんなのだ!? 先程の攻撃がもし仮に当たっていたとしても、おそらく龍にとっては蚊に刺された程の傷しか負わなかっただろう。


「……サイラス様? あの……、いったい何をなさりたいのですか?」


 サイラスの行動を理解しかねたローズが尋ねる。


 サイラスは大真面目な顔で答える。


「だから、私が『古代龍』を殺した勇者の生まれ変わりで……。この龍は古代龍を殺された復讐をしにきたのだろう? ……私がその仇だ。どうか、私を好きなようにしてくれ。……だが、この国は全く関係がない。そもそも『古代龍』を倒した当時の私の国はここではない。だから、復讐は私だけで許してはくれないか」


 身体を『捕縛』で拘束された状態で顔だけを龍の方へ向け、必死でサイラスは言った。


 ローズはここでやっと、『古代龍を倒した勇者』の生まれ変わりであると思い出したサイラスが、龍の怒りを受けて他の人々やこの国に被害が及ばないようにしようとしている事に気付いた。



 その必死な様子を龍は暫く見ていたが……。


『……本当に、お前が我が番を殺したのだな?」


 低く寒々しい声が聞こえた。


「……本当だ。私はあの日、冒険をしている時に偶然龍の巣を見つけた。……そこには大きな黒色の龍……『古代龍』が横たわっていたのだ。そして、私は……」



 サイラスがそこまで言うと、周辺の空気が急に冷えた気がした。


「もう良い! お前が……私の番を!! ……許さぬ……! 決して許さぬぞ!!」


 龍はそう言ってその大きな爪を振り翳した。


 ――しかし、それはサイラスに当たる事はなかった。

 ローズがサイラスに『防御』を張ったのだ。



「……お待ちください。今は私とのお話の最中でしたでしょう? そしてお話の前に、これを……お返ししたいと思います」


 そう言ってローズが魔法で前に出したのは、大きな龍の魔石。『古代龍の魔石』であり『勇者の守り石』だった。



『ッ!! それは……!』


 龍はローズの前に現れた魔石に見入った。……間違えようのない、愛しい番の遺した魔石。


「……これは、約200年前に我が国に持ち込まれた古代龍の魔石。そして、この200年間『魔物避け』の『勇者の魔石』として我が国にあったものです。……あなたの、大切な方の遺された『魔石』で間違いないでしょうか?」


 龍は暫く黙ってその魔石に見入っていた。……まるで魔石と会話をしているかの様に。


 そうしていると、遥か向こうから他の数頭の龍達が飛んできた。



 それらの龍からは害悪は感じられず、ローズとフェルは彼らがこちらに来るのを黙って見ていた。……サイラスは覚悟を決めつつも少し震えているようだった。






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